【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第115回 若者を被害者にも加害者にもしない~若者サポート事業 (2014/12/3 東京都武蔵野市議会議員 西園寺美希子氏/LM推進地議連会員)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第115回は、東京都武蔵野市議の西園寺美希子氏による「若者を被害者にも加害者にもしない~若者サポート事業」をお届けします。
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武蔵野市は、過去50年間人口13万人台で推移してきましたが、近年大規模マンション開発などにより、子育て世代の転入が増えて、14万人を超えました。これにより、学校の校舎増設・保育園など子育て施策の強化などの対策に追われています。私は2000年に転入した比較的新しい住民ですが、市役所のすぐ隣にごみ焼却施設があるのには驚きました。自区内処理の原則に基づき、市民が迷惑施設を受け入れ、施設完成後も市民と行政が徹底的に情報公開を進めながら信頼関係を築いてきた歴史は、次世代に語り伝えるべき大きな財産だと考えています。
武蔵野市では2013年2月に、吉祥寺地区で悲しい殺人事件がありました。外国籍の青年を含む2人の10代男性が、20代女性を刺殺した事件です。加害者は市立中学校を卒業して2年目。高校中退して半年たたない時期での犯罪でした。この事件は市民や行政に衝撃を与え、「中学校を卒業した後の子どもたちへの施策が抜け落ちていたのではないか?」との反省に基づき、庁内での検討が進められました。
私は武蔵野市に転入するまで、郷里で高校教員をしていました。4月に入学した途端、遅刻早退欠席が始まり、5月の連休後退学に至るというケースや、行き場がなくてショッピングセンター裏で恐喝事件を起こすケースなど多く見ました。生徒の家庭訪問は随時行っていましたが、「学校に来ている」子どもたちにしっかりと授業をすることが教員の責務。「学校に来ない」子どもたちに割く時間は限界がありました。
今になって思うと、教員と生徒の関係は「叱る叱られる」の関係。その子の人生そのものを受け止め成長をサポートするというより、問題行動を起こしてくれるな、枠の中に収まっていてくれ、というのが学校の基本的なスタンスだったように感じます。迷い道に入ってしまう子どもたちに対し、その子の立場に立って一緒に考えてくれる大人がいてくれれば、踏みとどまることができる。そんな大人との出会いがあれば、高校中退しても加害者にならずに済んだのではないか…?
武蔵野市は1年間の検討の末、「若者サポート事業」をスタートさせました。引きこもりサポート事業を委託しているNPOの協力を得て、吉祥寺図書館の一室を週2回使っての高校生年代の居場所づくりです。
先日視察に伺い、当事者の10代男性2人とお話をしてきました。その日は吉祥寺でハロウィンイベントがあり、支援者の方と一緒にイベント整理の手伝いをしてきたとのことでした。ほかにボードゲームなどで人間関係づくりをしているとのこと。まだ事業は始まったばかり。委託しているNPO職員の方も、市役所職員も、当事者も、手探り状態でした。
今後、この事業が有意義なものになっていくために「オープンな雰囲気の場所の確保(現在は窓のない会議室を利用)」「飲食ができ、リラックスできる場づくり」「本当に支援を必要とする人につながるための告知方法」など課題が多くあります。中退者の情報を持っている高校との連携も必要になります。生活者ネットワークのルートを使って周辺自治体を含めた告知に協力しながら、事業の進展を見守っていきます。
一方、複合施設「武蔵野プレイス」が4年目を迎えました。図書館・市民活動支援・生涯学習支援・青少年活動支援の4つの機能を備え、駅前立地という利便性もあって年間150万人が訪れています。地下2階が青少年活動支援フロア。20歳以下の子どもたちが活発に利用しています。ここは基本的に「ルールを守れるお行儀のいい子」の場所ですが、学校ではない「斜めの関係の大人」に出会える場として、今後の活用が求められます。状況に応じて、上記の若者サポート事業や専門相談窓口、地域活動につなげたりすることが、迷い道に入りそうになっている子どもたちへの救いの手になるよう、連携の強化を要望していきます。
東京都の青少年対策担当部署の名称は「青少年・治安対策本部」というのです。調べてみてびっくりしました。青少年が悪さをしたら矯正する、という発想がいまだに残っているとしか思えません。問題行動のかげには、貧困や精神疾患、国籍による差別など周囲の無理解無関心がひそんでいます。自由な働き方という美名の下で若者世代が使い捨てのように働かされている、しかもそれが「自己責任」「努力不足」で片づけられている現状も、希望を持てずにいる若者が増える原因です。若者に必要なのは「治安対策」ではなく、「適切なサポート」であり、「その子の立場になって一緒に考えてくれる斜めの関係の大人」です。
若者が生き生きと暮らせない社会は、未来のない社会。若者がその子らしく社会で居場所を見つけ、希望を持って生きられる社会にしたい。被害者にも加害者にもさせないまちにしたいと思います。
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