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マイナンバー特集「マイナンバー導入前夜」

賠償金の“逃げ得” マイナンバーが許さぬ (2015/12/28 政治山)

関連ワード : インタビュー マイナンバー 

牛島総合法律事務所の弁護士 影島広泰さん

インタビュー前編「司法界にもマイナンバーの影響」

「銀行口座の紐づけは、和解金や賠償金の逃げ得を許さないために、むしろやっていただいて、司法手続においても利用できるようにしてもらいたい、というのが私の考えです」

 牛島総合法律事務所(東京都千代田区永田町2-11-1)の弁護士、影島広泰さんはそう強調します。日本の民事訴訟に、なぜマイナンバーの銀行口座紐づけが必要なのでしょう?

 それは、判決でたとえ多額の賠償金を勝ち取っても、被告が消息不明になったり資産を隠したりし、原告の泣き寝入りに終わるケースが後を絶たないためです。一説には賠償命令の7割近くが実際には支払われていないそうです。裁判所に強制執行を求めようにも、前段階の資産調査は原告がやらなければならないため、訴訟費用だけでなく調査費用までかかった挙句、「過去の銀行口座はもぬけの空だった」というパターンに終わるのです。

 民事訴訟で和解が多いのはこのためです。相手との関係性を保つことで、支払いに応じてもらう一つの戦略です。元来、争いを好まない日本人らしい解決方法といえるかもしれません。しかし、和解にも応じないまま判決も無視して、賠償金の“逃げ得”をしてもなかなか刑事罰に問われない問題が根本的に解決されているわけではありません。

 銀行口座がマイナンバーに紐づけられることで、こうした資産隠しに対抗しうるシステムが確立する可能性があります。

六本木

強制執行前の資産調査にマイナンバーが役立つ可能性

――原告は結局、裁判と調査で大金を払って、悔しい思いだけで終わってしまうのですか?

「そういう現実があります。だからこそ、マイナンバーとの紐づけで執行できるようにしてほしいと思います」

――日本が訴訟社会にならないのは、必ずしも「争いを好まない」からだけではなく、「勝訴したところで賠償されない」という現実があるのでしょうか。

「それは一因としてあるのかもしれません。原告にとっては判決が出ること以上に、和解金や賠償金が確実に支払われる方が重要なのが一般的です。いちかばちかの強制執行を見越して100万円の賠償金を勝ち取るよりも、確実に50万円の和解金で妥協しようと。被告側も、「相手が歩み寄ってくれたのだから、50万円なら払うか」と、審理の過程で落としどころを考えるようになります」

――使いようによっては、マイナンバーは頼もしい存在になりますね。悪いニュースばかり先行して、世間の誤解も多いように思います。

「誤解と言えば、社内規程や情報管理について、マイナンバーと関わりが深いということで税理士さんに尋ねる企業担当者の方も多いようですが、法務に関連したことですから、本来は弁護士がきちんと対応できるようになっていなければならないと思います」

番号の安全管理、まずは3項目の徹底を

――まだ準備ができていない中小企業の方々にできるアドバイスがありましたらお願いします。

「政府広報で事業者向けの安全管理措置チェックリストがあります。様々なセミナーで多くの対策が列挙されますが、中小企業の方々は、安全管理に関しては、まずは次の3つだけ覚えていただければ大丈夫です。
 1.マイナンバーが記載された書類はカギのかかるところに保管を
 2.PCを使う場合は、ウィルス対策ソフトを忘れずに
 3.必要なくなったマイナンバーは確実に廃棄を」

マイナンバーチェックリスト

番号の受け取り拒否すれば不利益も

――来年早々からトラブルが相次ぐ恐れは?

「漏えい事故は起こるでしょう。それから、通知カードは受け取らなくても不利益は無いという意見もありますが、これは明らかに間違った見方です。マイナンバー法上は問題ありませんが、税法上は告知の義務があります。例えば、少額投資非課税制度のNISAの場合、告知しないと源泉徴収されて税金がかかるなど金銭上の不利益が発生します。

 勤務先への届け出と、役所の手続きは周知されてきましたが、意外とノーマークなのが、証券会社や保険会社など金融機関への個人番号告知も必要になる点です。すでに特定口座がある人には3年間の経過措置がありますが、来年から順次、証券会社などからお手元に書類が届くはずです。

 保険会社は1月1日からすぐに必要です。生損保の年金支払いや解約返戻金の調書作成の際に番号提出が必要になります。新規の特定口座開設なども来年からのスタートとなります」

(特集「マイナンバー導入前夜」は上村吉弘が担当しました)

上村吉弘<著者>
上村 吉弘(うえむら よしひろ)
 ライター
1972年生まれ。読売新聞記者8年余、国会議員公設秘書3年余を経験。記者時代に司法・県政の記者クラブに所属し、秘書時代に中央政界の各記者クラブと接してきた経験から、報道機関の在り方に関心を持つ。政治と選挙を内外から見てきた結果、国民の政治意識の低さに危機感を覚え、主権者教育の必要性を訴える活動を行っている。学生時代、阪神大震災が発生し、東京から被災地に駆け付け約1カ月間、住宅復旧のボランティア活動を行う。また、外国法ゼミの研究テーマとして、環境と国民性の相関性を調査するため、中国からスペインまで列車だけでユーラシア大陸を横断。約2カ月かけて13カ国に滞在した。
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