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【早大マニフェスト研究所連載/週刊 地方議員】

第6回 マニ研調査から読み解く議会の現状(3) IT活用に消極的(2012/07/19 早大マニフェスト研究所)

 政治山では、ローカル・マニフェストによって地域から政治を変える活動を行っている「早稲田大学マニフェスト研究所」(所長:北川正恭早大大学院教授)と連携し、「議会改革」と「マニフェスト」をテーマに連載をスタートしました。「議会改革」をテーマにした「週刊 地方議員」の連載では、研究所の調査結果をもとにして議会改革の最新事例を紹介しながら、議会本来の役割について考えていきます。第6回は「マニ研調査から読み解く議会の現状(3) IT活用に消極的」をお届けします。

自分が出した結果を公表しない

 議会の役割は、1つの議案に対して議員全員で“議論を行い”“結論を出す”ことです。議会は議員の集合体ですから全員の意見が一致することもあれば、それぞれの意見が違う場合もありますので、その際は結論を出すために最後に多数決を用います。

 皆さんお住まいの地域のことは、議会で決まった結論の通りに政策が進められます。それだけ、議会の議決責任は重要なのです。この重要な決定結果を公表することはもちろんのこと、結論に至った“過程”を明らかにすることは、実はもっと重要です。

【表1】常任委員会の動画配信率(2011年調査より)【表1】常任委員会の動画配信率(2011年調査より)

 なぜなら、住民はそれぞれ異なった意見を持っているからです。すなわち、1つの事案に対して多様な意見が存在しています。住民の代表である議員は、その多様な意見を議会に届け、それをもとに1つの議案を多角的に検証し、結論を導き出さなければなりません。このため、その検討内容は公表され、住民と共有されなければならないのです。

 決定した「結論」だけでなく「結論に至った過程」を主権者である住民と共有する環境を整えることは、多様な意見を集約し合議する議会の役割です。早稲田大学マニフェスト研究所では、議案を検討する場(常任委員会)をどの程度、映像などで公開しているのかを自治体ごとに調査してみました(表1)。これによると、ほとんど非公開になっているのがよく分かります。なぜ映像配信しないかと尋ねると「カメラがあると自由な意見が言いにくい」が最も多い回答で、次に多いのが「ITでの映像配信はよく分からない」です。

進まないIT化

 総務省の調査によると、日本におけるインターネットの利用者数は9,462万人(78.2%)、個人におけるパソコン利用率は67.4%、携帯電話利用率は73.6%となっています(総務省報道資料『平成22年通信利用動向調査の結果』)。皆さんの周りを振り返ってみてください。インターネットを利用して情報のやり取りをする人やモノであふれていませんか。私達の生活にインターネットは欠かせなくなっています。インターネットを活用したIT技術は日々進化し、私達の仕事や私生活は便利になりました。

【表2】本会議・委員会へのパソコン持ち込み可能議会の割合(2011年調査より)【表2】本会議・委員会へのパソコン持ち込み可能議会の割合(2011年調査より)

 ところが、地方議会ではIT普及率が極めて低いのが実情です。議場や委員会室へパソコンを持って入ることを許可している議会がほとんどありません。資料をデータで保管し共有することで、ペーパーレスになりコスト面でも環境負荷の面でもメリットは大きいのではないか、迅速な情報共有が取れるのではないか、双方向での情報交換ができるのではないかなど、少し考えただけでも多くの効果が想定できます。

 また、議員は住民の代表ですから、これからの地域のIT戦略など未来を描く構想も議論しなければなりません。そのためには議員はITに精通していなくとも、少なくともITを自分で使用してみて、どのようなものかぐらいは知っておく必要があると思います。ところが、議会へのパソコンなどの持ち込みを許可している議会は大変少ないのです(表2)。

 議会へのパソコンなどの持ち込みを許可していない理由には複数ありますが、最も多い回答は「年長議員がパソコンを使えないため」だということです。皆さんは、この現状をどのように思われるでしょうか。議員は住民の代表です。その住民の多くはパソコンなどを使用してインターネットを活用し、生活の中に取り入れています。代表である議員が「自分は使えない」と言っているのです。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。

関連リンク
早稲田大学マニフェスト研究所ホームページ
Twitterアカウント(@wmaniken)

週刊 地方議員
第5回 マニ研調査から読み解く議会の現状(2) 周回遅れの情報発信
第4回 マニ研調査から読み解く議会の現状(1)ブラックボックス化
第3回 議員は日ごろ何してる?~「見えづらい議会活動」が変わっていく
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