【地方議員座談会「当選1回議員」/私たちの街の現状と抱えている課題】
<埼玉県の課題>“若い働き盛りの埼玉県”だからこそ必要な「高齢化」「帰宅困難者」対策(2012/06/22 埼玉県議会議員 井上航)
政治山では、5月24日に行った当選1回の新人議員座談会の議論を受け、自治体ごとの現状と課題を比較するために、参加した5議員から「私たちの街の紹介」と題したコラムを寄稿してもらった。それぞれが所属する自治体の「人口規模」「予算規模、財政状況」「高齢化率」「これからの人口の推移」「現在、抱えている課題」「若年層の課題」を提示してもらい、課題に対して議員・議会・自治体が取り組んでいることを紹介していただいた。第2回は、埼玉県議会議員の井上航氏の記事をお届けする。
[関連ページ]【地方議員座談会「当選1回議員」】新人議員たちは、何を考え、どう行動しているのか
◇ ◇ ◇
私は埼玉県南西部に位置する和光市の市議会議員を1期4年間務め、昨年から和光市選出の埼玉県議会議員として活動をスタートしました。この1年の経験を生かし、暮らしに身近な広域自治体「県」の役割を紹介したいと思います。
埼玉県の人口は平成24年5月統計で約721万人と、和光市の人口約7万8,000人と比べておよそ100倍です。市議時代と比べて活動範囲も大きく広がりました。
埼玉の人口構成について、いくつか特徴をご紹介します。埼玉県は生産年齢人口(15~64歳)の割合が全国第3位で、平均年齢が「全国で5番目に若い県」と言われています。今、埼玉県では「ウーマノミクス」と言って、女性の社会進出を促進することにより県経済を活性化させる取り組みを進めています。これも働ける世代の女性が多い埼玉ならではの特徴的政策だと考えています。
一方で、急激に高齢化が進みつつある県でもあります。現在の人口構成は、35~39歳を中心とした山と60~64歳を中心とした山があり、県の将来人口推計では、平成32年頃には65歳以上の老年人口が約198万人と、今より50万人以上増加する見通しとなっております。こうした状況に対応するため、県は「健康長寿埼玉プロジェクト」に取り組み、食育やウォーキングなどを取り入れたモデル事業の支援を行っています。
市民生活に身近な県の役割 だからこそ必要な「懸け橋」
広域自治体である「県」は、基礎自治体の市町村と比べて、単に人口・面積の規模が大きいというだけではありません。所管する行政事業も幅広く、予算規模も大きいです。
今年度の県の一般会計総額は、1兆6,777億2,200万円です。和光市の一般会計総額は毎年210億円規模でしたが、県の場合、1つの事業の予算が億単位になることもあり、規模の大きさを痛感しました。
所管する事業の例は、県道や河川、浄水場管理があり、警察も県の管轄です。その他、県立高校の運営はもちろんのこと、市立の小・中学校の教職員の人件費も県が負担しています。埼玉県では、先に述べた総予算1兆6,777億円の約3割が「教育費」となっています。
こうしてみると、生活インフラや教育、警察など、市民生活の身近なところに県の事業が関わっている、ということがわかると思います。私も、「県を動かすことは、私たちの暮らしを変えることにつながる」と一貫して訴え続けてきました。県政を身近に感じてもらうためにも、今まで以上に市民の意見に耳を傾け、それを県に届けるという「懸け橋」としての役割を果たしていかなければと思っています。
“若い働き盛りの埼玉県”が抱える課題とは
次に埼玉県の県債残高(≒借金)は、今年度末で3兆6,000億円になります。「一般会計予算総額と比較して借金残高が何倍になるか」という視点で財政状況を見極めてみると、埼玉県の場合は概ね2倍、他の自治体ではそれ以上の割合で県債を発行している場合もあります。
埼玉県は行政改革を進めており、県独自の県債については削減傾向にあります。ただ、県債総額は臨時財政対策債(注1)の発行もあって毎年増加していることや、何よりも3兆円を超える借金という額の大きさにこそ、着目する必要があります。県債に頼り過ぎない財政運営へシフトするよう、提案し続けなければならないと考えています。
埼玉県ならではの課題もあります。埼玉県は、交通の便利のよさから、県外へ通勤・通学する人の9割が東京都へ出ています。このため、昨年の東日本大震災で多くの帰宅困難者が出ました。東京都民ならば歩いて自宅に帰れるかもしれませんが、埼玉県民はその何倍、何十倍もの距離を帰らなければならない人もいます。
この課題は多くの議員が議会質問で取り上げています。その結果、県内においては、県、市町村、鉄道事業者、駅周辺事業者及び警察等で構成する「駅周辺帰宅困難者対策協議会」を設置することになりました。また、携帯電話の位置データなどを用いて帰宅困難者数を推計する事業や、徒歩帰宅者のために主要道路へ照明設備、距離標等を整備する「災害時サポートロード」の整備などを計画しています。
私はそれに加え、東京都や企業との連携を強めた上で、「帰宅困難者対策条例」の制定につなげる提案をしています。災害のような市町村をまたいで発生する課題こそ、広域自治体として県民全般のための施策が求められます。
これまで述べてきた「生産年齢人口が多い」や「東京へ働きに出ている人が多い」ということから“若い働き盛りの埼玉県”というイメージを持っていただけたかと思います。
一方で、若い世代が多く、日中のほとんどを県外で過ごしていることにより「地元への関心の低さ」という課題も同時に抱えています。それが顕著な形で現れたのが「選挙の低投票率」でした。昨年の県議選では39.54%、県知事選挙では24.89%と、過去最低の投票率という残念な結果でした。
だからこそ、私たちのように年齢、そして期数の若い議員が県政や県議会のことをわかりやすく伝えていくことで、埼玉県の若い世代の「政治離れ」や「地元への愛着心のなさ」を解消するキッカケにしたいと思います。
(次回は青森県弘前市議の菊池勲氏による「私たちの街の紹介」です)
- 井上 航(いのうえ・わたる)
- 1979年東京都生まれ。転勤により東京、名古屋、広島、兵庫などで生活。95年、阪神大震災に被災、政府や自治体の対応に問題を感じ、「人の暮らし・命を守る政治家になる」と決意。2002年、立命館大学法学部を卒業。福祉系人材派遣会社勤務を経て、07年に埼玉県和光市議選で初当選。11年、埼玉県議選に挑戦し、民主党現職を破って初当選。市議4年間の経験を経て、県議会議員の立場から「住み続けたいまち」和光市をよくするため活動中。
HP:埼玉県議会議員 | 井上わたる
(注1)臨時財政特例債:地方自治体の財源不足を補うために、特例的に認められる地方債のこと。国の地方交付税減額が背景で、地方の財源不足を地方債の発行で一時的に穴埋めする。償還費用は後年度、国が地方交付税で全額負担する。[記事へ戻る]
【表1】埼玉県の将来推計人口の推移 (単位:人数は万人、割合は%)
2010年 | 2015年 | 2020年 | 2025年 | 2030年 | ||||||
人数 | 割合 | 人数 | 割合 | 人数 | 割合 | 人数 | 割合 | 人数 | 割合 | |
総人口(割合は 2010年=100) |
719 | 100 | 725 | 101 | 724 | 101 | 716 | 100 | 703 | 98 |
年少人口 | 95 | 13.3 | 92 | 12.7 | 88 | 12.1 | 83 | 11.6 | 78 | 11.1 |
生産年齢人口 | 475 | 66.3 | 453 | 62.4 | 438 | 60.6 | 429 | 59.9 | 416 | 59.1 |
老年人口 | 146 | 20.4 | 180 | 24.9 | 198 | 27.3 | 204 | 28.5 | 209 | 29.8 |
【表2】埼玉県の平成24年度一般会計予算(項目別)
款 | 平成24年度当初予算額 (千円) |
構成比(%) |
---|---|---|
議会費 | 3,110,817 | 0.2 |
総務費 | 88,022,943 | 5.2 |
民生費 | 284,724,428 | 17.0 |
衛生費 | 55,821,389 | 3.3 |
労働費 | 9,908,675 | 0.6 |
農林水産業費 | 23,620,800 | 1.4 |
商工費 | 18,298,912 | 1.1 |
土木費 | 112,597,760 | 6.7 |
教育費 | 535,371,865 | 31.9 |
公債費 | 251,148,277 | 15.0 |
警察費 | 140,149,456 | 8.4 |
その他 | 154,946,678 | 9.2 |
歳出合計 | 1,677,722,000 | 100 |
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