[埼玉・所沢市]「障害があってもなくても…共に生きるマチ」の記事が教えてくれる 文字だけでは伝えきれない情報の大切さ (2016/7/4 あんびるえつこ)
この記事は「広報ところざわ 平成28年7月号『~障害があってもなくても~共に生きるマチ』、『~障害があってもなくても~共に生きるマチ(つづき)』」を紹介し、コメントしたものです。
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小学校2年生から6年生まで、私はずっとT君と同じクラスでした。T君には障碍があり、時々、発作を起こして、教室を飛び出してしまいます。そんなT君の後を追いかけ、落ち着かせて保健室まで送り届けるのが、私の役目でした。当時の私はというと、大変病弱で、何日か欠席しては、仲の良かった友達と距離ができてしまうという経験を繰り返していました。しかしT君だけは違いました。私を見ると、いつも変わらぬ笑顔で、ほっとしたような表情を浮かべて迎えてくれるのです。私はそこに自分の居場所を見つけることができました。私が休んでいる時にT君が発作を起こすと、その後、先生やクラスメートから「この間はいてくれなかったから大変だった」と聞かされ、私もT君と一緒に毎日学校に行けるように頑張ろうという気持ちにもなりました。
『広報ところざわ 平成28年7月号』に、「障害があってもなくても…共に生きるマチ」という特集が組まれていました。今年4月1日から、いわゆる「障害者差別解消法」が施行されました。これは、全ての国民が、障碍の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障碍を理由とする差別の解消を推進することを目的としています。紙面には、「障害者差別解消法の対象となっている行政機関や事業者でなくても、みんなで障害のある人への理解を深めることが大切です。ちょっとした気づかいが、誰もが暮らしやすいマチをつくります」と書かれていました。
他人に迷惑をかけないことを美徳としながら、自らかけている迷惑に鈍感になりつつある今の世の中。法律で決められるまでもなく、それがごく自然なあり方だということを気づかせてくれる一言が添えられていて、所沢市が目指している社会というものがよく伝わってきました。
それだけではありません。PDFデータを参照して気づかされたことがあります。この「障害者差別解消法」の特集は、なんと表紙から3ページにわたったものでした。広報紙が、どのような事柄に、どの程度の紙面をさいたかによって、自治体としての対象のとらえ方、考え方がわかります。これは文字だけでは伝えきれない重要な情報です。また、紙面全体が、法律を強制するのではなく、共生を感じさせる温かいイメージの紙面の作りになっています。これならば一層、読者に思いが伝わります。ビジュアルも含めどのような見せ方をしているのか…。それもまた文字だけでは伝わらない情報です。
広報誌がデータとして取り扱われるとき、文字になった情報のみならず、こうした文字以外から読者が得る情報を反映させることも大事ですね。私にT君との思い出を想起させたのは、文字情報ではなく、紙面のバックにひかれていた木漏れ日の写真でした。T君と一緒に見上げた、あの校庭の木のイメージが、懐かしくよみがえってきたのです。
- [筆者]「子供のお金教育を考える会」代表、文部科学省消費者教育アドバイザー、神奈川県消費生活審議会委員、経済教育学会理事 あんびるえつこ
- [参考]広報ところざわ 平成28年7月号