フーデックスに賠償命令、業務時間外の使用者責任について (2018/4/25 企業法務ナビ)
はじめに
業務時間外の職場の忘年会での従業員同士のトラブルで企業の使用者責任が問われていた訴訟で東京地裁は企業側の責任を認める判決を出していたことがわかりました。会社としては忘年会は禁止していたとのことです。今回は使用者責任の要件について改めて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、新橋の海鮮居酒屋で正社員として働いていた男性(50)は2013年12月に上司である店長から忘年会にさそわれました。その日は休みの予定でしたが「参加しますよね?」と念を押され、他の従業員も全員参加することから承諾したとのことです。
当日午前2時30分頃から始まったカラオケ店での二次会で男性は同僚の従業員と口論になり殴る蹴るの暴行を受け、肋骨骨折し3週間後に退職したとされます。加害者の同僚は傷害罪で30万円の略式命令を受けております。男性は加害者の同僚と運営会社である「フーデックスホールディングス」(東京)を相手取り約177万円の賠償を求め提訴しておりました。
使用者責任とは
被用者が業務を行う際に第三者に損害を与えた場合に、使用者にも損害賠償責任を負わせるという制度が使用者責任です(民法715条)。被用者の活動によって利益を得ている以上、それによって生じた損害についても責任を負わせ、損害の公平な分担を図るという報償責任の原理が趣旨となっております。一般的には従業員が業務上、取引相手や第三者に損害を与えた場合に適用されます。以下具体的に要件を見ていきます。
使用者責任の要件
(1)使用関係
使用者責任が生じるためにはまず「ある事業のために他人を使用」している関係が必要です。ここにいう使用関係とは雇用契約や委任契約といった契約関係がなくとも実質的な指揮監督関係があればよいと言われております。請負人は原則使用関係にはありませんが下請負人が元請負人の指揮監督にあったと認めた判例もあります(最判昭和11年2月12日)。「事業」の営利性や有償性、継続性は要件とされておりません。
(2)事業の執行
次に被用者が「事業の執行について」第三者に損害を与えたことが必要です。判例は基本的に外形標準説に立っております(最判昭和40年11月30日)。つまり被用者の職務執行そのものではなくとも行為の外形からみて職務の範囲内に属するものと見られる場合も該当するということです。手形の偽造行為といった取引的行為から運送車両の事故といった場合も外形標準説に立っております(最判昭和39年2月4日)。口論から暴行・傷害といった場合には事業と密接な関連性がある場合には該当するとしています(最判平成16年11月12日)。
(3)一般不法行為の要件具備
そしてさらに被用者が一般不法行為の要件を満たす加害行為により「第三者」損害を生じさせたことが必要です。一般不法行為の要件は故意または過失により他人の権利または法律上保護される利益を侵害し損害を生じさせ、因果関係と責任能力が認められることを言います。「第三者」とは使用者と被用者自身以外の全ての者を言います。
(4)免責事由
上記要件を満たしても使用者が選任監督上、相当の注意を払っていたことを立証すれば免責されます(715条1項但書)。しかし実際にはこの免責事由が認められる場合はほとんど無いと言われております。
コメント
本件は同一の使用者に使用される従業員同士の口論・暴行であったこと、そして業務外での忘年会中に起きた事例であったことに特徴があります。会社側は「私的な会合であり本社に報告がなく、忘年会も禁止していた」と反論していました。つまり業務外のことであり事業の執行として行われたことではないということです。これに対し東京地裁は、参加は店長から促され、電車も無い時間に行われており全員が2次会に参加せざるを得ない状況であったことから「仕事の一環だった」としました。
事業の執行との密接関連性が認められたものと考えられます。このような従業員の宴会で使用者責任が認められたポイントは、自由な意思で参加を拒否できる状況であったかという点にあったと言えます。忘年会や新年会、歓送迎会を開催する際には実質的に強制となっていないかに注意し、第三者はもちろん、従業員同士でもトラブルが生じないよう留意することが重要と言えるでしょう。
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