闇サイト殺人から10年。闇サイト規制の現状は? (2017/9/9 JIJICO)
闇サイト殺人事件から10年
2007年に、名古屋市で発生した強盗殺人事件、いわゆる闇サイト殺人事件から10年が経ちました。この事件では、「闇の職業安定所」という犯罪仲間を募集するインターネットサイトで知り合った男3名により、会社員の女性(当時31歳)が名古屋市の路上で拉致され、現金を奪われた上殺害されました。主犯格の男は死刑判決を受け、既に死刑が執行されています。
被害女性と犯人らに面識はなく、黒髪の地味なOLなら貯金があるだろうという考えで、偶然通りがかった女性を尾行し残忍極まりない犯行に及んだ犯行の卑劣さと、誰もが被害者になり得ることへの恐怖に世間は震撼しました。
今なお存在する闇サイトと警察の動き
上記のサイトは事件後閉鎖されましたが、犯罪を請け負ったり、犯罪仲間を募集したりする温床となる闇サイト(掲示板を含む)は、今でも存在しています。また、闇サイトが原因となる強姦事件、誘拐事件、放火事件などが現に発生しています。
警視庁は、2010年から、闇サイトを監視する特命チームを創設し、闇サイトの取り締まりにあたっていますが、闇サイトを直接規制する法律はなく、取り締まりは容易ではありません。
この点、インターネット掲示板への違法な書き込みは、それが特定の人や団体に向けられたものであれば、名誉棄損罪、業務妨害罪などが成立する場合があります。しかし、抽象的に犯罪を勧誘するだけの場合には、直ちに刑法犯として立件することは難しいのが現状です。
もちろん、一部の法律、たとえば出会い系サイト規制法などでは、出会い系サイトの掲示板などに、児童への性交渉や金銭を伴う異性交渉を持ちかけること自体を取り締まっていますが、特定の犯罪行為に関する特定の行為のみを規制するもので、一般の刑法犯すべてを対象にすることはできません。
このため、警察当局も、おとり捜査の手法で、犯人に具体的な犯罪行為を行わせた段階での取り締まりも視野に入れています。この場合には、犯罪の準備行為自体を罰する殺人予備罪や強盗予備罪などでの検挙が想定されているものと思われます。
闇サイト犯罪を現行法で立件・規制できるのか?
闇サイトを契機とした犯罪を現行法の中で規制できないかを考えてみましょう。
闇サイトで犯罪行為を依頼した場合には、たとえば集団的犯罪等の請託罪(暴力行為処罰法違反)での立件があり得ます。実際に、闇サイトで不倫相手の妻の殺害依頼をした事案で同罪での立件事例もありますが、抽象的な犯罪実行に関する事案での適用は難しいでしょう。
他には、既に施行されているテロ等準備罪(改正組織犯罪処罰法)での立件も考えられますが、立件には、組織的犯罪集団の関与であることや、計画に基づく実行準備行為が必要ですから、単なる犯罪計画の書き込みで取り締まることは難しいと考えるべきです。逆に、テロ等準備罪で、幅広く掲示板での書き込みが摘発されるとすれば、国民の表現の自由の侵害にもつながりかねません。
このように、特定人を対象としない抽象的な犯罪の勧誘や請負を取り締まることは現行法ではかなり難しく、また闇サイトの存在自体を取り締まることはさらに難しいのが現実です。
抜本的な規制には、今後の法改正や法律の新設を待つしかありませんが、前述のとおり、闇サイトや違法サイトに対しては、警察当局が常に監視の目を光らせていることや、事案によって適用できる法律自体は複数存在することを認識し、広告収入目的などでの安易なサイト立ち上げや、サイトの利用は厳に慎む必要があります。
- 著者プロフィール
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永野 海/弁護士
多様な事件の相談に親身に応じる弁護士のプロ
行政事件、知的財産事件、会社更生事件から医療過誤事件(患者側)まで、比較的専門性の高い分野も含めて幅広い分野の経験があります。
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