高校生にイノベーション教育を!―i.clubが提案する「未来をつくる」授業 (2017/6/6 70seeds)
2017年3月4日、東京大学にて、高校生が地方資源を活用したイノベーションを発表するピッチイベント「Think Next! i.club Meetup! 2017」が開催されました。
酒粕の独自性を身近なスイーツを通じて伝える「酒粕ミルクスイーツ」や、おかずとして食べられていた車麩の使い方を根底から覆した「車麩ラスク」、ほしいもを180°イメチェンさせた「ほしいもグラノーラ」など、従来の地域資源の用途からは想像できない新しいアイデアがそこにはありました。
このイベントを主催した一般社団法人i.club(アイクラブ)は、高校生に「未来をつくるアイデアを出すことを考える『イノベーション教育』が必要だ」と主張します。
i.clubの提案する「イノベーション教育」とはどんなものなのか?
今回の70seedsは、i.club代表理事の小川悠(おがわ ゆう)さんに、高校生に必要なイノベーション教育の魅力を聞きました。
未来をつくるアイデアのための5つの“作法”
――i.clubではどういった活動をしているのでしょうか?
i.club、イノベーション・クラブ活動の略で、「地域の高校生にイノベーション教育を、地域の大人にイノベーションを。」というコンセプトのもと、高校生には地元に愛着や誇りを持ってもらい、地域の大人にはイノベーションを起こしてもらう、そんなきっかけを与えられるような場(クラブ)づくりを目指しています。現在行っている具体的な活動としては、高校と連携し、地域の高校生に「イノベーション教育」を教育プログラムとして開発、提供をしています。また、地域の大人に対しては、高校生から生まれたアイデアを商品化(事業化)につなげるためのプロデュースを行っています。
――「イノベーション教育」とはなんでしょうか?
イノベーション教育は、もともと私が大学生のころに受講していた東京大学i.schoolで受けた教育プログラムが原型になっています。そこでは「未来をつくるアイデアを出す」という行為は、天才と呼ばれるような一部の人のみができることではなく、「作法」を身につけることができれば、誰にでもできるようになるということを学びました。私にとってこうした教育はとても衝撃的で、そこから「大学生からではなく、中高生からこうした教育に触れることにも大きな価値があるはずだ!」と思い、i.clubの立ち上げにいたりました。
「イノベーション」というと、日本語では「技術革新」という訳し方をすることが多いです。しかしながら、私たちはイノベーションを「技術革新」だけに限らず、「未来をつくるアイデアを出す」といった、より広義的な捉え方で定義しています。イノベーション教育では、こうしたイノベーションの定義のもと、未来をつくるアイデアを出すために必要な“作法”を教えています。
――“作法”とはなんでしょうか?
i.clubではイノベーションを起こすために必要な5つのステップを”作法”と呼んでいます。
(1)いいね!さがしをする
(2)先入観をみつける
(3)起こしたい変化を考える
(4)類似思考で発想する
(5)変化の場面を確かめる
イノベーション教育では、この5つのステップを踏みながら、未来をつくるアイデアを出すことに挑戦するわけです。
――なるほど。このステップについては、後ほど具体的な例とともに掘り下げようと思います。このイノベーション教育が、従来の教育と違う点はどのようなところでしょうか?
もっとも違う点は、未来をつくるアイデアを出すことに挑戦するといった、「答えのないもの」に対してアプローチしていく、という点だと思います。現代の教育プログラムの多くは、「すでにある解」にいかにうまくたどりつくかが重要とされていると思います。こうした部分は決定的に違うといえる点ではないでしょうか。
――答えのないものにアプローチ…たしかに、そういった授業はあまりないですね。
「どんな未来をつくりたいのか、そのためにどんなアイデアを出すのか」という答えのないものに対して、自分のビジョンを持つ。そしてそれを人に伝えるように自信を持って発表、表現する。こうしたことができるようになるためには、私は結構な練習が必要だと思います。でもそうした機会は、既存の教育ではあまりありませんでした。だからこそ、こうした機会を学校教育の中で得るということは、とても大切と考えています。そしてそれが、イノベーション教育です。
イノベーション教育を地方でやる意義
――お話を聞いていて、イノベーション教育は特に場所を選ばないと思いました。あえて地方の高校で実践するというのは、なにか理由があるのでしょうか?
私が地方でイノベーション教育を提供することになったのは、大学院生の時に東日本大震災で、気仙沼に行ったことがきっかけになっています。被災地に対して、中長期的な支援としてなにが自分はできるのか。そうした問いをもちながら、現地の方とコミュニケーションをとるうちに、若者からは「マックもスタバもない、そんな地元から早く出たい…」。大人からは「地元の若者がいなくなると、この先どうなるか不安だ」。この2つの声があるということを感じました。
――若者が地元に対してかなりネガティブな印象を抱いていますね。
地域の高校生の多くが「地元を出たい」「都会で生活をしてみたい」と憧れを感じることは、自然のことだと思います。しかしながら、「地元が嫌いだから地元から出てしまう」ということに課題があると感じています。将来、地元にいても、いなくても、つまり物理的に離れていたとしても、精神的なつながり、「地元が好き」というポジティブな心のつながりはもち続けられるのではないかと思っています。
そして、そうしたポジティブなつながりこそが、地域を豊かにすると思い、必要なことだと思います。しかしながら、そうした精神的なつながりをもちたいと思う気持ちを若者がもってもらうためには、いくつかの機会がそもそも高校生たちに足りていないのではないかと感じました。
――どんな機会ですか?
それは
・高校生が地元にいる間に地元の良さを触れる機会
・高校生が地元にいる間に世代を超えたつながりを持つ機会
・高校生が将来で地元でイノベーションを起こせる力を身につける機会
この3つの機会です。そして、この機会は私が学んできた「イノベーション教育」を地域を舞台にアレンジすることで、つくれると考えました。
――そこから「地域の高校生にイノベーション教育を」というコンセプトにつながっていくわけですね。
ほしいもを「さわやか」にー高校生が未来をつくるアイデアを出す
――さきほどの“作法”について茨城県の大成女子高等学校の実践を見ながら掘り下げていきたいと思います。
~おさらい:未来をつくるアイデアを出す5つの作法~
(1)いいね!さがしをする
(2)先入観をみつける
(3)起こしたい変化を考える
(4)類似思考で発想する
(5)変化の場面を確かめる
――大成女子高等学校は「ほしいもグラノーラ」を発表したのですが、まず(1)いいね!さがしという所で、主にどのようなことをしたのでしょうか?
水戸の高校生たちがイノベーション教育を学ぶにあたって、設定した地域資源のテーマが「ほしいも」でした(テーマ設定の部分は、地域の事業者、先生、そして高校生からのインタビューから事前に設定する場合が多い)。生徒たちは、ほしいもの魅力を探究するために、ディスカッションだけでなく、地元のほしいも農家や、ほしいもを使ったお菓子をつくる職人さんにインタビューを行いました。
これによって、今まで知らなかったほしいもの世界に飛び込み、テーマである地域資源であるほしいもそのものはもちろん、ほしいもに関係する様々な人々に対する自らの共感を高めます。
――次に「(2)先入観をみつける」ですが、ここではどのようなことをしたのでしょうか?
ここでは、人々がその地域資源に対して、どのような先入観をもっているのか調査します。まずは自分たちがほしいもに対してどのような印象を持っているのか、率直に意見を出し合ってもらいました。その中でみんなのほしいもの対する先入観を表したものが「ダサい」だったわけです。でも、本当にダサいものなのか。ほしいも=ダサいものであると決めつけてしまっている先入観があるのではないか。ということをみつけるわけです。
――「ダサい」といいますと?
直接的に「ダサい!」と言っていたわけではないですが、「学校に持ってきてわざわざ友達と食べるものではないよね」や、「家では食べるけど、人前に持っていくのはなんだか恥ずかしい」という意見には、多くの高校生たちがうなずいていました。それを「ダサい」と表現したわけです。
――なるほど。先入観を見つけたら次は「(3)起こしたい変化を考える」ですね。
はい。ここでは先ほど出たほしいもの「ダサい」という印象をどのように変化させたいのか、という視点で考えてもらいます。先入観を変える際に出たキーワードが「さわやか」と表現でした。
――ほしいもが「さわやか」は新しいですね!
そこからは「(4)類似思考で考える」で、まず「さわやか」から「朝」を連想しました。「朝に食べるさわやかなイメージがあるものは?」といった連想ゲームのような感じで、「グラノーラ」にたどり着き、ほしいもとグラノーラを掛け合わせてみよう!という発想にいたったわけです。
――そこから「(5)変化の場面を確かめる」ということですね。
はい。アイデアをつくって終わり!ではなく、実際に高校生たち自身で簡単な試作(プロトタイプ)を作ってみたり、想定するユーザに試食していただいたりしながら、アイデアによって作法③で考えた起こしたい変化は本当に起きるのかを確かめるわけです。
こうして5つの作法をもとにつくり上げたアイデアは、最後は地元の事業者に提案します。熱い想いでアイデアを発表する高校生たちをみた事業者の多くは、その情熱に共感し、事業者自身も「何か」やりたいという気持ちが芽生えます。そうした事業者とともに、高校生のアイデアの本格的な試作品づくりにご協力いただきます。これが、i.clubのコンセプトにおける「地域の大人にイノベーションを」につながるわけです。完成した商品は、文化祭などでテスト販売し、実際にお客様からの反応をさらに確かめながら、事業者とともにアイデアを磨いていき、好評の場合は商品化までを行います。
だれもが未来をつくるアイデアを出せる未来を
――これからイノベーション教育をどのように広げていきたいと考えていますか?
これからイノベーション教育を普及させていく上で大切に考えているのがプラットフォームづくりです。それこそが、今回の3月の初開催となった「Think Next! i.club Meetup!」です。将来的には、全国から集まった高校生たちが地域で未来をつくるためのアイデアを出す、つまりイノベーションの取り組みを発表する舞台であり、全国の高校生たちが目指したいと感じる夢の舞台にまでつくりあげていきたいと考えています。
そして、こうした舞台を通じて、多くの方にもイノベーション教育や、大人たちがそれを形にすることで起きたイノベーションについても知っていただけることにつながるはずです。
――最後に、小川さんは、どんな未来をつくりたいですか?
私はi.clubを通じて「だれもが“未来をつくる”アイデアを出せるんだ!出したいんだ!」と思えるような未来をつくっていきたいと思っています。みんなが「こんな未来をつくりたい!」と思えて、それに向けてのアイデアを出し合っている…そんな状況をつくっていきたいです。さらにいえば、そのアイデアを大人たちと連携しながら、世の中に出し、イノベーションを起こしていく。そして、いつの日かi.clubが提供するイノベーション教育というものが、「学んで当たり前になる」という日が来てほしいと思っています。
今年度も引き続き「Think Next! i.club Meetup!」を開催し、イノベーション教育を拡げていきたいと思います。
――i.clubがもっと広まって、私の地元でイノベーションが起きる日が待ち遠しいですね…これからも応援しています!ありがとうございました!
- WRITER
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丸山 彬
長野から上京してきた大学2年生。自分の「面白そう!」「会ってみたい!」な感覚をたよりにジャンルフリーにあっち行ったりこっち行ったり。学生、若者の「ハートに火をつける」手法を模索中。
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