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過労死を未然に防ぐために家族ができることは? (2016/12/11 JIJICO

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近年の過労死は労働時間の長さだけが原因でないことが多い

電通の新人女性社員の自殺が過重労働に耐えかねてのものだったということが明らかになって、雇用する企業の側の問題だけでなく、過労自殺に追い込まれる前に周囲の人たちが何かサポートできなかったのだろうかという視点からの対策も求められるようになっています。

悩む

これまでは、過労死というと、過労によって発症する心筋梗塞や虚血性心疾患などの心疾患や脳梗塞や、くも膜下出血などの脳血管疾患といった病気が一般的でした。そしてこれらによる死亡が過労に起因しているものか争われたケースが多く、このような場合には、労働時間が一つの判断基準となって、過労死と認定される例は少なくありませんでした。

ところが、近年増加している過労自殺の場合には、単純に労働時間が長いということだけで自殺に追い込まれる例は少なく、これに加えて、ハラスメントまがいの不適切な業務命令やいつまで経っても仕事から解放されないことによる絶望感などが自殺の引き金になっているケースが多く見受けられます。

このような場合、後から振り返ると、本人の不調をうかがわせる予兆が思い起こされることもあり、周囲の人たちは、「あのとき自分が適切に対処していたら悲劇は起こらなかったのに」と自分を責めることになります。特に、家族であれば、その思いはひとしおでしょうから、そのような事態に至る前に、家族として何ができるのかを考えてみたいと思います。

過労死の前兆を知っておく

過労死は、自殺に限らず、その前の段階で、身体的にも過労をうかがわせる症状が現れていることが殆どです。具体的には、なかなか寝付けない、簡単にできていたことができなくなる、何に対してもやる気が起きない、顔色がすぐれないなど、こちらが今まで通りに接していても違和感を覚えるような反応が返ってきたら危険信号かもしれません。

特に、過労死に至るまで頑張ってしまう人の場合、家族に心配をかけまいとして、自分で抱え込んでしまうことがあります。過労死になるような人は、責任感が強く、仕事がうまく行かないのは自分のせいと思いこんでしまいがちで、周囲から心配されても「大丈夫」と気丈に振る舞って、かえって孤立してしまうことも少なくありません。

そのようなときに、朝起き上がれないなどの身体症状が現れる場合も少なくありません。しかし、そのように目に見える症状がある場合は、周囲が気付くことで過労死に至る前に苦しい状態から脱出する可能性は高いのですが、そのような症状が現れることなく頑張ってしまう人は、あるときポキッと折れてしまうことがあるのです。

普段からのコミュニケーションが大切

仕事に就いている人は、多かれ少なかれ、何らかのストレスを抱えながら仕事をしています。多くの人は、そのストレスのレベルが低い段階でとどまっているか、うまく発散することで自分に対するダメージを少なくとどめながら、折り合いを付けて生活しています。しかし、その発散が不得意な人もいます。そんな人に対しては、仕事とは関係のない話題で良い(むしろその方が好ましい)ので、他愛のないおしゃべりをしてみるということも良いかもしれません。

そんなコミュニケーションの中で、違和感を覚えるような反応が返ってきたときには、仕事を休ませることも必要な場合があります。本人は、大事な仕事を任されていて、自分が休むことでその仕事に穴を空けるようなことがあれば、将来のキャリアに大きなマイナスになると考えて頑張ってしまうのですが、特に若いうちは、幾ら回り道をしたって十分にやり直すチャンスはあります。

具体的に、どんな時間割で仕事をしているのか、与えられた仕事について、分からずに躓いていることはないか(上司の指示にうまく応えられずに仕事が停滞して、それが不必要な残業に繋がっている例が少なくありません。)、職場の人間関係(周囲で働いている人の人物評)などを聞いてみましょう。会話の中で何か言いよどむようなことがあれば、そこに問題が潜んでいることがあります。

気になる予兆が感じられたときに周囲がとるべき行動

そして、気になる予兆が感じられたときには、ご家族であれば、(仮病を使ってでも)仕事を休ませて、心療内科などを受診させることを考えた方が良いです。周囲の人が気付くような異変が現れている場合は、「うつ病」という診断名はつかなくても「うつ状態」といった診断が下されることは少なくありません。

その診断書を元に、会社と働き方についての協議をするべきです。そのような協議を求めたのにきちんと対応してくれないような会社であれば、従業員の命よりも会社の利益を優先する姿勢が見えるので、退職という道を選択した方が良いと思います。

厳しい就職戦線を勝ち抜いて入社した会社なので、その会社の中で頑張れなければ、それまでの努力が無駄になると思って必死になる。そんな心情は誰でも持つことではありますが、そこから一歩引いたところで、自分の人生を考え直すゆとりがもてれば、過労死は防げるはずです。

医師や弁護士などの専門家に相談することもかなり有効な対策に

また、過労死レベルの残業をさせている会社の場合、労務管理に何らかの違法性が伴うことが殆どです。ですから、その違法状態を改善させる方策として、弁護士に相談してみるというのも一つの方法です。

その違法な労務管理が会社ぐるみで行われている場合には、会社に留まって改善させるのは難しいところがありますが、特定の上司の異常な業務命令に起因しているのであれば、弁護士を介して会社側と適切な折衝をすることで、配置転換など業務環境の改善ができる場合もあります。

事案によって、希望通りにならないこともありますが、一人で悩まないで、医師や弁護士などの第三者的な視点で協力してくれる専門家に相談することはかなり有効な対策です。

家族の立場でも、どうしてよいか分からないまま不安な日々を送るよりも、ご本人と一緒に専門家のアドバイスを受けることで、解決の糸口が見つかるかもしれません。

提供:JIJICO

著者プロフィール
舛田 雅彦/弁護士

舛田 雅彦/弁護士
札幌総合法律事務所
1957年、北海道札幌市出身。中央大学法学部卒。 1987年、司法試験に合格し、90年に弁護士登録。山本隼雄法律事務所に勤務した後、93年に独立。2007年には中小企業診断士の資格を取得。中小企業の経営者の相談役としての業務により力を注ぎ、企業経営の改善に取り組む人々に向けた「企業経営勉強会」(後に「マスダアカデミー」に改称)を開催。企業法務や中小企業の経営支援に携わる。また、2008年より、消えた年金問題解決のために設置された総務省の年金記録確認第三者委員会の委員(部会長)として議論の取りまとめをしている。

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