高齢化が進む日本 医療の中核として期待される在宅医療の今後の行方 (2016/7/24 JIJICO)
高齢化が進む日本で医療・介護の中核として期待される在宅医療
在宅医療の必要性が叫ばれてからしばらく経ちますが、果たして身近な存在となり得たでしょうか?おそらく多くの人には「縁のないもの」と考えられているのではないでしょうか。
しかし日本は超高齢社会であり、その高齢化は増加の一途を辿っています。2025年には全人口の18%が後期高齢者(75歳以上)となり、医療制度の存続そのものも不安視されています。
そこで厚労省は社会保障制度改革国民会議報告書をふまえ、医療・介護分野では「病院完結型」から地域ごとに患者さん本人の意向と生活実態に合わせて医療・介護に切れ目がなくサービスを展開する「地域完結型」へと方針を変えました。在宅医療はこの中核になり得ると言えます。
在宅医療の普及が求められている背景
なぜ在宅医療が求められているのでしょうか。まずマクロ的な視点で在宅医療を見ていきましょう。
必要性の低い入院を在宅にすることで入院でかかっていた医療費を削減することが期待されています。さらに政府は都道府県に対し、病床数を2025年までに20万床近く減らす方針を出しています。必要な医療をより多くの人に提供するためにも在宅医療は期待されています。さらに患者さんとして医療行為を受けるにあたってもメリットがあります。患者さんは住み慣れた環境で医療を受けられるので、精神的にも自分らしく医療と向き合うことができます。
他にも経済的には、入院をすると病院は差額ベッド代と言って場所代(のようなもの)を請求ができます。厚労省によると1日あたり平均5918円かかります。ちなみにこの差額ベッド代は個室に関わらず4人部屋でも請求されることがあります。在宅医療においては差額ベッド代を支払うことなく、受けた医療費のみの負担になるので、安くつくと考えられます。
在宅医療の一番の問題は家族の負担増
一方で在宅医療にも短所があります。一番懸念されることとしてご家族の負担です。
入院すれば看護師や医療スタッフが患者さんの処置を行ってくれますが、在宅医療ではそうした日常のケアの多くをご家族が負担しなくてはなりません。大半のご家庭は医療とは関わりのない環境で生活をしているので、緊急のときどんな対応をすればいいのかわからないという不安も大きいです。在宅医療が根付いていない理由として患者さんを取り巻く環境の整備が間に合っていないというのが実際です。
在宅医療がこれから普及していくために必要なこと
ここまでで述べてきたように在宅医療には一長一短あります。しかし、今後在宅医療がより身近になることは確実でしょう。そこで最後に在宅医療の今後の課題や普及のために行われていることについて触れていきます。
在宅医療を阻む第一の壁として、在宅医療に従事する医師や看護師の人数の問題があります。病院に勤めている私の個人的な感覚ですが、現代医療において死とは遠ざけるものであり大袈裟に言えば敗北ともとらえている傾向があるように思えます。そのため死を受け入れて対応する在宅医療や終末医療に従事する人材を確保、育成することは今後大きな課題となります。
現在、地域を主体として医療・介護・予防・生活支援が一体に提供させることを目的に地域包括ケアシステムの構築を進めています。現状では介護や在宅医療においても境界線がある状態ですが、介護職の人が痰の吸引ができるようになるなど求められるサービスは両者の垣根を超える方向に動いているように感じられます。
またNPOなどのソーシャル・ビジネスが行政と民間の橋渡し的役割を求められることが考えられます。在宅医療においては患者さんのご家族の不安を解消する相談場所の提供や病院以外の機関が死の在り方に対する情報を共有することで、患者さん側も在宅医療に歩み寄らせる工夫となると考えられます。
患者さんがご家族に負担をかけまいと話し合うこともなく、退院を拒むケースや病気と付き合っていくという新しい選択肢に気がついていないということが在宅医療を遠ざけていると思います。行政においても家族の負担を軽減する策を講じたり、医療・介護の連携をいかに高めていくかなど課題が残ります。
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