着々と進む整備新幹線計画、これ以上の路線新設は本当に必要か (2016/6/6 政くらべ)
昨年の北陸新幹線金沢延伸、今春の北海道新幹線開業、九州新幹線長崎ルートの開業方針決定など整備新幹線計画が各地で進んでいます。北陸新幹線は予想以上の開業効果にわきましたが、北海道新幹線は年間、ざっと50億円もの大赤字が見込まれています。整備新幹線計画は本当に地方に繁栄をもたらすのでしょうか。
続々と決まる整備新幹線の開業予定
整備新幹線は、政府が1973年、全国新幹線鉄道整備法に基づいて計画決定しました。北海道新幹線、東北新幹線(盛岡-新青森駅間)、北陸新幹線、九州新幹線鹿児島ルートと長崎ルートの5路線です。このうち、全線開業したのは東北新幹線と九州新幹線鹿児島ルートの2路線。北海道新幹線は新青森-新函館北斗駅間、北陸新幹線は東京-金沢駅間、九州新幹線長崎ルートは博多-新鳥栖駅間が暫定開業しています。
北海道新幹線の残り区間である新函館北斗-札幌間は2030年度末に開通、九州新幹線長崎ルートは在来線特急と新幹線のリレー方式で2022年度末に暫定開通する予定です。
北陸新幹線の残り区間は、工事中の金沢-敦賀間が2022年度末に開業予定となっていますが、敦賀-大阪間は京都市を通って新大阪駅へ向かう方向を確認し、与党内で詰めのルート選定が続いています。
明暗分けた北陸と北海道新幹線
昨春、金沢まで延伸した北陸新幹線は東京-金沢間を2時間半で結び、予想を上回る開業効果を北陸地方にもたらしました。上越妙高-糸魚川駅間の1日当たりの利用客は約2万5000人。在来線特急時代の3倍に当り、JR西日本が開業前に予測していた2.2倍を大きく上回りました。兼六園など石川県内の有名観光地はどこも首都圏からの観光客ラッシュにわきました。
周辺の宿泊施設や土産物店、飲食店も売り上げが大幅に上がり、ホクホク顔です。これに対し、今春開業の北海道新幹線は滑り出しが低調そのもの。開業日こそ乗車率61%を記録したものの、開業から16日間の1日平均乗車率は27%。JR北海道のほぼ予想通りの数字とはいえ、厳しいスタートとなりました。JR北海道は年間、50億円近い赤字が出ると予測しています。おおむねその方向で事態が進んでいるといえそうです。
新幹線利用に立ちはだかる4時間の厚い壁
両者の明暗を分けた最大の理由は「4時間の壁」です。運輸業界でよくいわれる言葉で、移動時間が4時間を超せば新幹線ではなく空路を利用するようになることを表しています。大量の観光客を集めるとすれば、人口の多い首都圏か京阪神がターゲットになります。北海道新幹線は東京-新函館北斗駅間の移動時間が最短4時間余り。「4時間の壁」に従えば、利用客が空路を選ぶのは当然なわけです。東京―博多間の移動も5時間ほどかかりますから、年間を通じて9割が空路を利用しています。
整備新幹線の残り区間を見ても、首都圏や京阪神からの観光客誘致は北陸新幹線を除き、空路との激しい競争が待ち構えているでしょう。料金だけで比較するなら、高速バスも手ごわいライバルになってきます。地方の人口減少が続くだけに、新幹線が採算を合わす見通しは厳しくなりつつあるようです。
採算性と国民の利便を考えた新交通計画が必要
政令指定都市以外の地方空港は、ほとんどが赤字経営です。整備新幹線の各路線も今後の人口減少を考えると、採算性が厳しいといわざるを得ないでしょう。公共交通機関は国民の足ですから、採算性だけで論じることはできません。しかし、国の借金は2015年末で1000兆円を上回っています。今後、高齢化の進行で福祉、社会保障予算が膨らみ、さらに財政状態が厳しくなると予想されています。
こうした状況にもかかわらず、整備新幹線のめどが立ちつつあるとして、四国や羽越など新たな新幹線計画を求める声が、地方で高まってきました。赤字を垂れ流す新幹線を無理に新設しても、子や孫に重いつけを残すだけです。今こそ利便性と効率性の両面を考えた基幹交通のあり方を議論すべき時期に来ているようです。
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