「子どもの医療費を助成した市町村国保の国庫負担減額」の見直し、2016年末に結論―医療保険部会 (2016/5/26 メディ・ウォッチ)
子どもの医療費を助成した市町村に対し、現在、国民健康保険の国庫負担が減額されているが、この仕組みをどう見直していくか―。
こういった議論が社会保障審議会の医療保険部会で始まりました。今年末(2016年末)までに結論を出すことになります。
26日に開かれた医療保険部会では、「子どもの医療費負担(自己負担)も全国一律とすべきで、いっそのこと『未就学児は自己負担ゼロ』とするなどの医療保険制度改正を行ってはどうか」との意見も出されていますが、厚生労働省は「減額措置の見直し」を念頭に置いるようです。
子ども医療費を助成した場合、波及増を考慮して国保の国庫負担を減額
我が国の医療保険制度では、▽小学校入学前までは2割▽小学校入学以降70歳になるまでは3割▽70-74歳は2割(段階的に3割に引き上げ)▽75歳以上は1割―といった具合に一部負担が定められています。これは、応能負担(能力、つまり収入に応じた負担)である保険料だけでなく、応益負担(医療を受けた患者の負担)である窓口一部負担を組み合わせることで「より公平な負担」を目指すとともに、一部負担を課すことで患者に「医療はタダ(無料)ではない」というコスト意識を持ってもらい、無用な受診を避けることを狙った仕組みと言えます。
この点、医療費自己負担については、市町村が独自の判断で「助成を行う」ことも可能です。現在、すべての市町村において、何らかの形で「子どもの医療費自己負担に対する助成」が行われています。
自己負担の助成を行うことには「医療を受ける際の経済的不安を軽減する」というメリットがある一方で、「受診の増加(つまり医療費の増加)」というデメリットもあります。そこで厚労省は、助成を行う市町村について、助成の内容に応じた「国保に対する国庫補助の減額」を行っています(減額調整)。「自己負担助成に伴って増加した医療費は、他の市町村を含めた国民全体ではなく、当該市町村でやりくりしてもらう」という考え方に立った仕組みです。
しかし、市町村サイドからは「少子化対策に逆行する仕組みであり、見直してほしい」という強い要望が出されています。
そこで厚労省は、「子どもの医療制度の在り方等に関する検討会」を設置。検討会ではさまざまな意見が出されましたが、「一億総活躍社会に向けて政府全体で少子化対策を推進する中で、要求に見直すべき」との意見が大勢を占めています。ただし、見直しに際しては、▽医療保険制度全体の規律や医療提供体制に与える影響▽必要となる公費財源や財源の有効活用など財政再建計画との関係―などを考慮すべきとの注文も付いています(関連記事はこちらとこちら)。
自治体サイドは改めて「国庫負担の減額調整」を2017年度から廃止するよう要望
ところで、安倍晋三内閣は「ニッポン一億総活躍プラン」を近く閣議決定する予定で、その中で「子ども医療費」について「2016年末までに検討し、結論を得る」よう指示が出される見込みです。
そこで厚労省は医療保険部会でもこのテーマについて議論することとし、26日の会合で議題の1つとして取り上げましたが、検討会と同様にさまざまな意見が出されています。
まず福田富一委員(全国知事会社会保障常任委員会委員長、栃木県知事)の代理として出席した山本圭子参考人(栃木県保健福祉部保健医療監)は、自治体サイド(全国知事会、全国市長会、全国町村会)の総意として、「2017年度から減額調整の廃止」「子ども医療に関わる全国一律の制度構築」を行うよう改めて要望。山本参考人は「減額調整廃止に伴う財源で、一層の少子化対策が可能となる」とも強調しました。
また遠藤秀樹委員(日本歯科医師会常務理事)は「福島県では震災対策の一環として18歳未満では自己負担をゼロとする助成を行っているが、1件当たり医療費は伸びていない」として、減額調整を廃止しても医療費は伸びないのではないかとの見解を示しています。
減額調整廃止に明確な反対意見は出ていないが、「慎重な検討」を求める声も
こうした減額調整廃止論に対して明確な反対意見は出されていませんが、別の角度から「慎重な検討」を求める意見も少なくありません。
白川修二委員(健康保険組合連合会副会長)は、「自治体によって子ども医療費自己負担が事実上異なっている現状に疑問を持つ。やはり自己負担は全国一律とすべきで、いっそのこと『未就学児は自己負担ゼロ』などとする医療保険改革を行うべきではないか。ただし、自己負担減に伴って医療費が増加してしまうことから『償還払い』(一度医療機関の窓口で自己負担を支払い、後に国保などから自己負担の払い戻しを受ける仕組み)を導入するなどの工夫が必要」とコメント。遠藤委員に対しては「自己負担がゼロになれば、薬店で薬を買うよりも医療機関にかかるほうが安く済む。医療費の波及増は生じる」と反論しています。
また岩村正彦部会長代理は、「経済的な不安で子どもが医療機関にかかれないケースがあることは承知しているが、そこに医療保険の中で一般的に対応することが適切であろうか。児童福祉などの医療保険とは別の仕組みの中で、『助成が必要な人』に限定して実施することが適切であろう。その際には、預貯金などの負担能力を厳密に判定する必要がある」と提案しました。さらに「我々は、自己負担をゼロにするとどうなるのか、老人医療費無料化という歴史的事実として知っている」と指摘し、自己負担をゼロとする考えをけん制もしています。
堀真奈美委員(東海大学教養学部人間環境学科教授)も「10年前と比べて0-4歳の1人当たり医療費は大きく伸びており、この背景に自治体による自己負担軽減があるとも考えられる」「少子化対策は医療保険とは別の仕組みの中で行うことが有効と考える」とし、岩村部会長代理と同じ見解であることを強調しました。
このようにさまざまな角度からの意見が出されましたが、厚労省は「減額調整の見直し」を念頭に置いており、「全国一律の仕組み」について議論されるかどうかは不透明です。
なお減額調整を廃止した場合、国庫負担が増えることになります((2013年度ベースで、未就学時についての減額調整を廃止すると79.2億円の国費増、小学生についても減額調整を廃止するとさらに35.7億円増)(関連記事はこちら)。この財源確保も含めて、医療保険部会や厚労省内で、具体的な見直し策を検討することが必要です。
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