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「オンナに議長が務まるのか?」相崎佐和子伊丹市議会議長の決意 (2017/4/13 伊丹市議会議員 相崎佐和子)

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「え?あなたが議長ですか?」

 女性であり、かつ44歳(就任時42歳)で育児をしながら市議会議長を務める私が、よく言われる言葉である。女性の活躍が叫ばれ、様々な取り組みが試行錯誤しながら進められている現在の日本。しかし、こと“議会の議長”においては未だ絶対数が少なく、女性の活躍が進んでいない。そこで実際に議長を体験中の立場から、女性議長について現状やメリットを記してみたい。

相崎佐和子伊丹市議会議長

相崎佐和子伊丹市議会議長

女性議長の現状

 まず、日本における女性議長の現状はどうなっているのか? 女性議長の割合は以下の通りである。

●都道府県議会議長
 1人/47議会(2.1%)
●政令指定都市議会議長
 0人/20議会(0%)
●市町村議会議長
 40人/1,721議会(2.3%)

※都道府県:H27年12月15日現在(全国都道府県議会議長会調べ)
 市:H27年10月1日現在(全国市議会議長会調べ)
 町村:H27年7月1日現在(全国町村議会議長会調べ)

 この数値をどう感じられるか? 議会における女性議長は極めて少ない現状と言えるだろう。国では“2020年までに女性管理職30%”と目標値を掲げるが、議会議長において到達の可能性は低そうである。

 こんなことがあった。全国の市議会議長が集まる会に出席した時のこと、挨拶にきてくださった他市議会の議長が、私ではなく随行の議会事務局長(50代男性)に名刺を差し出したのだ。事務局長を議長と勘違いしたのである。間違いを指摘された先方の議長は慌てて謝罪してくださり、逆に和やかな雰囲気になった出来事であったが、これは“議長はベテランの熟年男性”との固定概念があったせいであろう。それもそのはず。実際のところ議会議長は男性が大半なのである。

女性議長のメリット

 では、議長が女性である場合、いかなるメリットがあるのか?自身の経験から特に3点を挙げたい。

1.女性活躍社会への意識向上

 写真にお目通しいただきたい。当方の本会議場の様子だが、女性が少ないことに気づかれることだろう。市長はじめ市幹部が着席しているが、ほぼ男性である。この状況下、中央の議長席に女性。これは視覚的に“女性もリーダーとして活躍する時代”の象徴となり得ると感じている。

本会議場のほとんどが男性

本会議場のほとんどが男性

 他にも市内外のイベントや会議に出席する機会が数多くあるが、議長として私が登場すると多少のどよめきが起こる。珍しいので驚かれるのだ。“市議会のリーダーである議長”として女性が存在することは、視覚的・感覚的に女性リーダーのイメージを印象づけ、女性活躍社会への意識向上に繋がる。単純なことだが、効果は高いと肌で感じるところである。

2.女性が活躍しやすい議会への体制整備

 議会は住民の代表として声を上げる役割を担っていることから、議会における男女比は住民の男女比とほぼ同数であるのが望ましい。しかし、実際は男性議員が圧倒的に多いのが実情である(伊丹市議会では女性議員7人/定数28)。

 このアンバランス解消には、議会の仕組みなどにおいて女性が活躍しやすいよう整備を進めることが肝要であり、女性議長であれば自身の経験を活かしながらリーダーシップを発揮して進めることができる。

 例えば私の場合、1期目の時に次女を出産した経験を踏まえ、現職女性議員が出産する際、また現職男性議員のパートナーが出産する際に希望する休暇が取りやすいように規則を改正した。「その改正は必要か?」との声に対して「必要です!」と明確に発言したのを覚えている。

 もちろん男性でも女性活躍社会推進の意義を理解して改善に取り組むことは大いに可能であり、実際にかような男性が増加していることを心強く思っているが、当事者として女性がリーダーの立場で取り組むことは、発言力や説得力に重みが増すものであり、意義深いと実感している。

3.子育て世代における政治への関心向上

 我が国が抱える大きな課題の1つが人口減少であり、少子化対策が必須なのはご承知のところだ。先進諸国と比較して子育て施策の脆弱さが指摘されているが、原因の1つは政治がこれまで、子育てに遠い類型の方々ともいえる年配男性を中心に担われていたことではなかろうか。

 政治における年配男性の役割を否定するつもりはない。ただ、少子化対策を進めるなら、当事者である子育て世代が政治に関心を持ち、子育て施策の充実を掲げる政治家を増加させることは重要なポイントだ。しかるに現状は、高齢者に比べて子育て世代の投票率は低く、政治への関心が高いとは言い難い。

 子育て世代も様々な社会的課題に直面している。それを例えば昨年の「保育園落ちた、日本死ね」のようにインターネット等で訴えることも1つの方法ではあろうが、政治的な課題は概ね政治でしか解決できず、そのためにはまず選挙で投票するなど政治に参画することが重要であろう。

 かような観点から、子育て中の女性が議長をしていることが、子育て世代にとって政治に関心を持つ契機になり得るだろうし、そうなりたいと考えている。

議長に求められる資質

 では議長になるにはどうすればよいのか?

 まず議長選出の方法と背景を述べてみよう。議長の選出方法は選挙である。議員が1票ずつ投票し、最多得票者が議長に選出される。議長選挙では、会派(議員のグループ)の人数構成やパワーバランスがカギになる。まず会派内で候補者となり、会派間の合従連衡で当選に必要な票数を集めるわけだが、会派内の候補者になるのは一般的に期数の多い議員である。期数の多い議員となると年配議員となり、年配議員となると男性が多いことから、議長は年配男性が多くなるのであろう。

 私の場合は、所属会派に若手が多く3期目の私は期数が多い方であったこと、先輩議員が直前に副議長だったことなどから、まず会派内で候補者となり、さらに所属会派が最大会派だったことから議長に選出されることとなった。

 議長はこのような背景で選出されるわけだが、とはいえ議長という自分たちの代表を決めるわけであるから、人物評価も大いに影響する。「議会を代表するのに相応しい人物か?」との観点の元、“全体を見渡す力”と“調整する力”が問われるのだ。この資質は男女を問わない。

 自己の主張に固執し他者の意見に聞く耳を持たなかったり、熱意や発言力に欠けていたりすると「議会をまとめられるのか?」「議会の代表として相応しいのか?」と黄色信号がともる。個性が強い議員達の代表として、中立な立場で全体を見渡し、しかるべき調整をしてまとめ上げられる資質が問われるのだ。私自身はその力に長けているとは思っておらず、反省しながら精進する日々だが、議長になるにはこれらの資質を備えることが必須だと実感している。

 女性の議長は否が応でも注目される。期待や応援の言葉をいただく一方で、常に厳しい目で見られている。実際に「オンナに議長が務まるのか?」などの言葉をいただいたこともある。

 しかし女性議長は、女性活躍のフラッグシップとして存在し、リーダーシップを発揮して女性活躍の取り組みを進め、また政治への関心を向上させることが可能である。女性議長の存在と取り組みが、多くの女性が様々なことにチャレンジする刺激と契機になれば、これほど嬉しいことはない。そして女性議員が増加し、さらに女性議長が増加することを願っている。

 冒頭に記した「え?あなたが議長ですか?」とのセリフ。そんなセリフが出てこないような、女性のリーダーが至って普通のことである社会になればと、心から願っている。道を切り拓くという使命を胸に刻み、誰もが輝ける社会を目指して、持てる限りの力を尽くしていっそう取り組む決意である。

相崎佐和子 伊丹市議会議員

著者プロフィール
相崎佐和子(あいざきさわこ) 伊丹市議会議員
 [ホームページ]
1973年兵庫県生まれ。親和中学校、親和女子高校、奈良教育大学を経て、奈良教育大学大学院を修了。地元ケーブルテレビのアナウンサー、第12代の兵庫県広報専門員(倍率132倍)を経て、2007年に伊丹市議会議員に初当選。現在3期目。2015年5月からは、伊丹市議会の第61代議長を務める。2016年の「第11回マニフェスト大賞」では、優秀賞を受賞。家族は夫・長女・次女。趣味は読書・水泳(大学時代水泳部)。資格は小学校・中学校(社会)・高校(地理歴史)教員免許。
相崎佐和子氏プロフィールページ

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