[用語解説]ダイバーシティ、インクルージョン
アカデミー賞や米大統領選で問われるダイバーシティとは? (2016/3/3 政治山)
2月28日、2016年の米アカデミー賞の授賞式が行われ、華やかな祭典の幕が下りました。今年はノミネートされた候補20人全員が昨年に続き白人のみで、人種問題に絡んで「ダイバーシティ(diversity)」や「インクルージョン(inclusion)」という言葉が多用されました。
日本では女性活用の意味で広がった「ダイバーシティ」
ダイバーシティは、多様性と訳されます。日本では2000年代に入ってから、企業経営における女性活用の人事政策で使われ始めました。
ダイバーシティ・マネジメントといえば、人種・国籍・性・年齢を問わずに多様な雇用や勤務を可能とするシステムを指します。CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)の1つとして注目されています。また、雇用の門戸を広げることで、有能な人材の発掘や、斬新なアイデアの喚起も期待できます。
米国ほど多人種国家ではない日本では、主に女性活用に用いられてきた言葉ですが、社会構造の変化に伴い高齢者や外国人、障害者、場合によってはニートやフリーターも含めて使われることも多くなりました。
ダイバーシティからインクルージョンへ
インクルージョンは、含有や一体性と訳されます。社会福祉の分野で、障害のある子供たちも一緒になって教育を受けられるインクルージョン教育として使われ始め、現在では、あらゆる差別のない社会を指すソーシャルインクルージョンなどの派生語が生まれています。
国や社会がボーダレス化してダイバーシティやインクルージョンが進むことで、逆に排他的な動きも目立ち始めています。
開かれた社会を拒絶する動きも
冒頭の米アカデミー賞授賞式で、司会の黒人コメディアン、クリス・ロック氏は、「私はアカデミー賞、またの名を『白人によって選ばれた賞』の会場にいます」と現状を揶揄しました。
また、米大統領選の共和党候補指名を争っているドナルド・トランプ氏は、メキシコ不法移民の入国を防ぐため、国境沿いに「万里の長城」を築くと主張しています。フランシスコ・ローマ法王は「懸け橋でなく壁をつくろうとする人は、誰であれキリスト教徒ではない」と批判し、過激なナショナリズムの台頭にくぎを刺しています。
- <著者> 上村 吉弘(うえむら よしひろ)
株式会社パイプドビッツ 政治山カンパニー 編集・ライター
1972年生まれ。読売新聞記者8年余、国会議員公設秘書3年余を経験。記者時代に司法・県政の記者クラブに所属し、秘書時代に中央政界の各記者クラブと接してきた経験から、報道機関の在り方に関心を持つ。政治と選挙を内外から見てきた結果、国民の政治意識の低さに危機感を覚え、主権者教育の必要性を訴える活動を行っている。