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米国政治は民主党vs共和党から共和党内部の主導権争いへ (2014/11/11 早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員 渡瀬裕哉)

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 11月4日に実施された米国中間選挙によって、上下両院の過半数を共和党が占める結果となりました。2年後の大統領選挙に向けて民主党と共和党の政党間競争が始まるとともに、共和党内での穏健派と保守派の主導権争いが深まると言われていますが、これからの米国議会について共和党の実情に詳しい早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉氏に寄稿いただきました。

ワシントンD.C.に建つアメリカ合衆国国会議事堂

ワシントンD.C.に建つアメリカ合衆国国会議事堂

米国政治の構図を変えた1994年保守革命

 1994年の保守革命とは、共和党保守派が民主党に対抗する「選挙マシーン」を構築し、小さな政府を標榜する共和党議会勢力が議会において多数を占めた現象を指します。

 同年の中間選挙では、民主党が構築した大きな政府を求める強力な「選挙マシーン」によって圧倒的な優位を数十年に渡って築いてきた議会における優位が崩壊し、その代わりに共和党保守派が新たに構築した「選挙マシーン」の絶大な力が米国政治の表舞台で誇示されることになりました。

 米国保守派は、全米税制改革協議会などの強力なグラスルーツ、保守派の運動員教育機関であるThe Leadership Institute、ヘリテージ財団などの独立系のシンクタンクなど、強力な仕組みを構築し、民主党を支える組織に対抗するだけの勢力を形成しました。

 これらの組織がフル稼働することによって共和党に連邦議会選挙における勝利がもたらされることになりました(なお、日本ではあまり知られていませんが、米国保守派の政治システムは非常に洗練されたレベルで構築されており、日本の政治のあり方にも大いに参考になるものと思います)。

穏健派と保守派、顕在化する共和党内の主導権争い

 ただし、1994年保守革命に至るまでの過程で共和党は内部に深刻な対立構造を抱えるに至りました。同革命以降、米国共和党内部では穏健派と呼ばれる比較的大きな政府にも妥協的な勢力と、理念的に小さな政府を求める保守派の間で、主導権争いが顕在化していくことになります。

 もともと大きな政府の考え方と妥協的である穏健派は、保守派からは民主党と同じ傾向を持つ党内に存在する潜在的な敵対勢力として見なされており、保守派は常に穏健派から共和党内部の主導権を奪うべく政治力を拡大してきました。

 その圧倒的な政治力が1994年保守革命で示されるとともに、穏健派はRINO(Republican in name only:名ばかり共和党員)と呼ばれ、連邦議会議員選挙の予備選挙などで保守派から強烈な挑戦を受けて共和党の代表の席を奪われることになりました。2014年の中間選挙においても共和党下院の大物であったカンター院内総務が保守派の支援を受けた候補に予備選挙で敗北する事態となりました。

 この両者の対立は民主党vs共和党という政党間の対立以上に、米国共和党内部における深刻な対立を生み出しています。今後の米国政治の展開は、共和党内部の穏健派と保守派の主導権争いに注目することで読み解くことができると言えるでしょう。

民主党と共和党、次期大統領候補者の擁立へ

 今回の中間選挙を経て、次なる焦点は2016年の大統領選挙に移っていくわけですが、オバマ大統領は既にレームダック化しており、民主党側はオバマの次の候補者としてヒラリー・クリントン氏などを押し立てる戦略にシフトするものと思います。民主党側は極めてドライで合理的な判断をしていくことになるでしょう。

 一方、共和党側は早期に強力な候補者を一本化していくということは難しいものと思われます。なぜなら、穏健派と保守派の対立によって、両派の意向が一致した強力な候補者を立てることが極めて難しくなっているからです。現在、ジェフ・ブッシュ、ランド・ポール、マルコ・ルビオの3氏などの名前が大統領予備選挙の候補者として挙がっていますが、いずれの候補者が正式な共和党の大統領候補になるかを予想することは困難です。

Tea Party以外の保守派勢力にも注目すべき

 この難しい状況を見極めるための1つの手がかりとして、CPAC(Conservative political Action Conference)と呼ばれる共和党保守派の運動員が結集する集会に注目していくといいでしょう。近年の共和党大統領候補者の選定では、CPACにおいて実施される保守派からの信任投票で1位となることが極めて重要です。

 年に数回実施される予定のCPACにおける投票において、どの大統領候補者が保守派から支持されるかで、共和党大統領候補者の予備選挙レースの動向を知ることができます。

 実際、2012年のロムニーとサントラム両大統領候補の予備選挙では、CPACにおいてロムニー氏が最高得票を取得したことで実質的に決着しました。この際、穏健派と見なされていたロムニー氏は、保守派に対して様々な妥協的なスタンスを取らされる結果になりました。CPACという政治の場を通じて、共和党の大統領予備選挙において保守派は決定的な影響力を行使することに成功していることが分かります。

 米国共和党関連のニュースは、保守派の一部を形成しているTea Partyの活躍にばかり目を奪われがちですが、その背景に存在している穏健派・保守派の根深い対立構造を理解することで正しい米国政治の状況を読み解くことができます。

著者プロフィール
渡瀬裕哉氏渡瀬裕哉(わたせゆうや)
早稲田大学公共政策研究所地域主権研究センター招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了、創業メンバーとして立ち上げたIT企業を一部上場企業にM&Aさせるなどの起業家としての側面を持つとともに、東国原英夫氏などの全国各地の自治体の首長・議会選挙の政策立案・政治活動のプランニングにも従事。日本版Tea Partyである東京茶会事務局長として、米国共和党保守派との幅広い人脈も有し、保守派最大級のイベントであるFREE PAC 2012に日本人で唯一の来賓として招へいされる。現在、日本版The Leadership Instituteである自由民権塾を立ち上げて活動中。
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