実践者たちが語る 自治体・首長・議会改革(2012/02/02 政治山)
先進的な地方政治改革の手法を学ぶ研修会「自治体サミット2012 vol.1~新しい時代の地方政府とは その意義と実践~」(主催:自治体サミット研修会、協力:早稲田大学マニフェスト研究所)が2日から2日間にわたり、東京・日本橋で開催され、議会改革、公会計改革、自治体の情報活用などをテーマに、事例紹介や議論が交わされた。首長、議員、自治体職員限定の研修会ではあるものの、実践に役立つ内容ということもあって、定員100人を大幅に超える参加者が訪れて会場は熱気であふれた。
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1日目のトップバッターは松沢成文・前神奈川県知事。マニフェストを基本とした自身の県政運営をもとに「神奈川県におけるマニフェスト改革」と題した講演を行った。
松沢氏がまず直面したのは、知事が選挙で掲げたマニフェストと自治体が作成する総合計画との整合性の問題だった。総合計画は中長期的な自治体の方向性を定めるもので、10年ほどを想定しているものが多い。一方の知事の任期は1期4年なので、2つの間で整合性を取る必要がある。
松沢前知事は当選を決めた4月の選挙から約2か月をかけ、自身のマニフェストを基にして4年分の総合計画を作った。これにより知事と行政が同じベクトルに向かって動き出すことができたという。
また、成立させるのが難しかった条例の成立過程を3つ紹介した。知事の任期を3期12年に制限した「多選禁止条例」は、総務省の憲法解釈では不可能とされていたものに対し地方独自の法解釈で条例制定にこぎつけたと言い、「霞が関の言いなりではいけない。地方分権は勝ち取るものだ」と語った。
そのほか、公共施設でのたばこ喫煙に制限をかけた受動喫煙防止条例、自動車の排気ガス規制と電気自動車の利用推進を挙げ、徹底した議論の必要性や、重要な事業を推し進めるためには政策を工夫し動機付けを与えることが重要だと強調した。
政策を作り出す過程をオープンにして情報公開をすすめ、毎年、自身のマニフェストの進捗をチェックし、次回の選挙の判断にしてもらう。これらができれば、今の「政局中心の政治」ではなく「政策中心の政治」に変えることができるとした。
続いて「首長と議会の関係」を中心テーマとし、北川正恭同研究所所長をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われた。
パネラーは、おのおの違った背景で議会の議長経験がある3人。浅田均・大阪府議は、大阪維新の会の政策担当で、橋下徹市長が府知事のころから府議会議長を務めている。一方の横井利明・名古屋市会前議長は、大阪府の事例とは違い河村たかし名古屋市長と対立、首長と議会は緊張関係にあった。会津若松市の目黒章三郎議長は、多数会派から選ばれることの多い議長のなかでは珍しい少数会派出身の議長と、バラエティに富んだ顔ぶれだった。
浅田氏はかつて松井一郎府知事とともに自民党に所属していたが、橋下市長と意気投合し新政党を結成。橋下氏を大阪の改革を進めようという「僕たちの思いを遂げてくれた知事」と説明し、地域政党の確立を通して都構想実現へ意欲を語った。
また、2年前に議員の役割を改めて明文化する議会基本条例を制定した際に、議員職を「住民意志を代表し、政策を形成」することと規定したことに触れ、議員提案の条例を増やすとともに、現在は関わることができない予算編成過程に議会が関わるべきだと主張。議長に予算の執行権があるヨーロッパ型の「議会内閣制」を目指すべきだとした。
場内から名古屋の地域政党や石原新党との連携について聞かれたが、現状では一つのグループになる気はないと答えた。
横井氏は「議会を改革するには、変な市長が出てくれば変わります」と冗談混じりに話した。しかし、実際に河村市長の出現によって議員が市民に向き合うきっかけになり、議会基本条例の制定につながったとした。
改革のなかでも自信を持って紹介したのは、議員間討論の採用だ。通常、議案が議論される委員会では、議案の提出者、つまり主として行政側に対して質問が行われる「議員対執行部」の構図である。これを議員と議員の間でも自由に討論ができるようにし、議員間でも政策を練り上げていくという手法だ。横井氏は「採用すれば絶対、議員の意識が変わります」と強調した。
また、議会で多数派の政党党首が自治体の首長を務めることについて、自身の経験から「政策決定は早いかもしれないが、ストッパーがない。議会が政策形成に干渉、評価していくことで民意を反映していくべきだ」と述べた。
目黒氏について北川氏は、「ノーマルに議会改革を進めた指導者」と評した。もともと町おこし運動を指導していた経験から、いかに議会改革を活性化させるかに注力。少数会派出身ながら地道に活動し、改革を進めた。
2日目に登場する元栗山町議会事務局の中尾修・東京財団研究員が挙げた議会改革の3要件、「議会として市政報告をしているか、議員間の自由討論はされているか、市民からの請願・陳情は保障されているか(※)」を引き合いに出し、特に市政報告会を市民の問題を発見する場だと指摘した。また、議会改革の要点を「議会事務局に頼ること」だとも語った。
質疑応答でも、議員間討論の方法や反問権の有無の質問、「議会内閣制」が必ずしも民意を反映していない危険性などについて活発に質問が出された。
会はその後、奈良市の事例を紹介しながら自治体の監査体制改革を提言する「パブリック・ガバナンス革命の現場」(仲川げん奈良市長、新日本有限責任監査法人)、震災を契機に活発化した自治体の情報発信のあり方を概観した「ポストPC時代における自治体の新たな情報活用戦略とは」(NRI社会情報システム、日経メディアマーケティング)、そして同研究所員によって2011年の「議会改革度ランキング」の発表が行われた。
※議会改革3要件の3つ目を「請願・陳情・傍聴は保障されているか」と記載しましたが、「請願・陳情は保障されているか」の誤りでした。お詫びして訂正します。(2012/02/10 政治山)
パブリック・ガバナンス革命の現場
ポストPC時代における自治体の
新たな情報活用戦略とは
2011年議会改革度ランキングの発表
関連リンク
早稲田大学マニフェスト研究所
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<なぜ議会改革が必要なの?>議会の役割を改めて見直す議会改革まとめ