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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】
第7回マニフェスト大賞応募スタート特別企画「審査委員インタビュー連載」

マニフェストの課題と可能性 ~『参加型』民主主義を実現する有効なツールに~ 杉尾秀哉・マニフェスト大賞審査委員(TBSテレビ解説専門記者室長)1/2ページ(2012/09/06 早大マニフェスト研究所)

政治山では、ローカル・マニフェストによって地域から政治を変える活動を行っている「早稲田大学マニフェスト研究所」(所長:北川正恭早大大学院教授)と連携し、「議会改革」と「マニフェスト」をテーマに連載しています。マニフェストをテーマとした連載「マニフェスト学校~政治山出張講座~」では、議員・首長などのマニフェスト活用の最新事例をもとに、マニフェスト型政治の課題や可能性について考えていきます。

◇        ◇        ◇

 地方政治の先進的な取り組みを表彰する「第7回マニフェスト大賞」は応募期間を終え、審査委員会の審査を経て、11月2日に東京都港区・六本木ヒルズで授賞式が行われる。

 政権交代後の民主党の政権運営により、有権者の間でマニフェストが信頼を失っている状況の中、早大マニフェスト研究所では、2009年の民主党マニフェストに対する評価やメディアの報道、そして地方政治とマニフェストについて、同大賞審査委員でTBSテレビ解説専門記者室長の杉尾秀哉氏にインタビューを行った。

マニフェストの精査を欠いたことが最大の問題

――報道する立場として、国政やマニフェストをどのように見ているか。

杉尾秀哉・マニフェスト大賞審査委員(TBSテレビ解説専門記者室長) 杉尾秀哉・マニフェスト大賞審査委員
(TBSテレビ解説専門記者室長)

 政治部に20年ほどいたが、そのときから政権交代と二大政党制を日本でも実現させるべきだという問題意識がずっとあった。会社組織で例えると、万年与党の自民党が経営陣で、当時は日本社会党をはじめとした野党が労働組合で、労働組合は要求はするけれども経営陣と入れ替わることはない。そういう55年体制で、霞が関の官僚と永田町の族議員が財源の配分を決め、補助金や公共事業という形でバラマキ政治を続けていた。そういった政治の状況をなんとしても変えなければいけないという強い危機意識もあって、政権交代、二大政党制という考え方に、あるところ共鳴していた。

 2009年に民主党がマニフェストを掲げて政権交代を実現したが、実際に政権をとってみると、マニフェストで掲げていた内容が次々に破綻した。子ども手当も廃止され児童手当に変わるなど、実際に「詐欺」と呼ばれるほどにお粗末な現状を見ると、私自身もじくじたる思いがある。

 今の中央政界の最大の問題は、マニフェストの内容にしても、財源にしても、工程にしても、体制にしても、精査を欠いていたということだ。それは、当の民主党が一番反省しなくてはならないが、我々メディアも大いに反省しなくてはならない。民主党のマニフェストの内容の精査を怠ったことが現状を招いたのであって、マニフェストを掲げて政権交代をしたということ自体は、私は今でも間違いはなかったと思っている。

マニフェスト大賞で地方議会に対するイメージが変わった

――地方のマニフェストについてはどうか。

 もともとは、地方のマニフェストに関してはあまり詳しくなかった。北川正恭・審査委員長と『みのもんたの朝ズバッ!』で番組がご一緒だったという縁もあって、2010年の第5回大会から審査委員となり、初めてローカル・マニフェストの現状を知った。

 マニフェスト大賞の審査を通じて、地方自治体の首長さんがマニフェストで財源や期限を定め、実行、検証、修正をして、またさらにマニフェストを高めていくというPDCAサイクルを実践している事例をいくつも見て正直、驚いた。

 地方議会を見る目も、最近はまったく違ってきた。これまでは、日本の地方議会というと、古くから何期も当選している議員が首長となあなあでやってきたというイメージがあった。マスコミで取り上げるときも、政務調査費の無駄遣いや汚職だったり、政策的な中身よりも不祥事が、とくにテレビでは取り上げられることが多かった。地方議会は、住民にとって普段はほとんど縁がない。私自身の経験で言うと、待機児童のいる住民が「保育所に入りたいけどどこかにつてがないと入れないから紹介してほしい」とか、「高速道路の遮音版を付けてほしい」とか。そういう陳情に行ったりするくらいだ。

 だが、マニフェスト大賞に関わって、実際に地方議会が活動されているところを見てみると、市民との対話集会を重ねたり、広報活動を熱心に行ったり、マニフェスト大賞で先進事例を競い合ったりと、新しい可能性を見出すことがたくさんできた。地方議会に抱いていた以前のイメージとはまったく違ってきていて、メディア関係者だってこうなのだから、住民もこうした活動を知ればさらにそう感じるだろう。

――マニフェスト大賞で地方議会の評価に関わってどうか。

 地方議会の評価はとても難しいと感じている。地方議会が政策や条例をつくったからと言って、果たして“成果”と言っていいのか。効果はきちんと出ているのか。首長は、言わば会社の社長だから、実際に執行できていれば成果として示すことができる。日本の地方議会は、立法作業をするところだから、議論を仕事としている。

 ある人が言っていたが、「民主党政権の不幸は、これまで議論ばかりしていて実行したことがなくて、いざ実行側にまわると議論の延長線上にしかいけずに肝心の実行ができなかった」ということ。日本の地方議会は国政とは違い、議院内閣制ではなく二元代表制だから、実行するための議論の材料や論点を多様に提示して、それが実際に反映されていけばいいわけで。その材料の1つがマニフェストなんだ、というくらいのハードルでもいいのではと感じている。

――マニフェスト大賞の課題について。

杉尾秀哉・マニフェスト大賞審査委員(TBSテレビ解説専門記者室長)

 最近、感じていることは、受賞者がいつも常連さんに限られてきていること。熱心な方は、毎回充実した資料を準備して応募していただくが、「まったくマニフェスト大賞を知らない」「知っていても興味がない」「そもそもマニフェストそのものに懐疑的」という方が多いのか、応募する団体と応募しない団体で、ローカル・マニフェストの二極化が進んでいるなと感じている。

 審査をしてみても、常連さんの方がどうしても内容が精査されていて、新しい応募者の中から選ぼうと思って熱心に審査を進めても、中身が粗くて受賞までは届かない。これからは、どのようにマニフェスト大賞の裾野を広げ、底辺を上げていくのかが、最大の課題ではないか。

(次ページへつづく:「善政競争が住民に浸透しているかをチェックすべき」「メディアも検証で報道を変えていく過渡期」 など)

関連リンク
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