【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】
第7回マニフェスト大賞応募スタート特別企画「審査委員インタビュー連載」
マニフェストの課題と可能性 ~『参加型』民主主義を実現する有効なツールに~ 杉尾秀哉・マニフェスト大賞審査委員(TBSテレビ解説専門記者室長)2/2ページ(2012/09/06 早大マニフェスト研究所)
善政競争が住民に浸透しているかをチェックすべき
――審査の課題については。
可能であれば、マニフェスト大賞に応募する首長や議会の住民の声を聞いて、審査に取り入れたいと考えている。やはり、書類だけのやり取りでは観念的になってしまう。今後は、善政競争が実際に住民にとってどのように浸透していて、住民がそれをどう見ているかという視点も必要だろう。
私がよく言うのは、これまでの日本の政治は、「お任せ」民主主義だということ。選挙がまさにそうで、立候補者は「私に清き1票を」と選挙カーで連呼し、自分の名前を覚えてもらうのに奔走する。有権者も「よくわからないけど、この人は家に来てくれたから」「他の人より、ちょっとかっこいいから」みたいな理由で投票して、「選挙が終わったら、あとは知りません」と。地方議会は、特にそうでお任せそのものだった。
だが、やはり「お任せ」民主主義から「参加型」民主主義へ変わらないといけない。2009年の政権交代も、本来はそう変わる転換点にならないといけなかった。その大きな契機となるのがマニフェストだ。中央政界ではうまくいっていないが、地方自治体も参加型民主主義にならないといけないのだから、マニフェストは有効なツールだと思う。
ただ、ここにきて、今回の原発事故など、我々の生命に関わる問題には国民自らが声をあげていかなくてはいけないという、参加型民主主義の1つの萌芽が見えていて、国民の意識が徐々に変わりつつあるとも感じている。インターネットメディアやSNSが1つの有効なツールにもなっていて、そのような問題にマニフェストの具体的な政策をどう絡めて住民に参画してもらうかが、今後のポイントではないか。少しきっかけは見えてきていると思うので、新しい自治体経営のあり方をさらに深めていってほしい。
――全国の首長と議員にメッセージを。
党派を超え、自治体を超え、こうしたよい事例を共有することは、とてもいい試みだと思う。ユニークな取り組みをしている方が毎回いらっしゃって、例えば、第5回最優秀政策提言賞を受賞した、長谷川貴子・足立区議会議員が行政・街づくりへの「カラーユニバーサルデザイン」の導入を提案していて、目の付けどころが新しく、女性ならではの視点が含まれていて印象的だった。
今は、なんと言っても、日本の地方議会の女性議員が少なすぎる。日本の議員の女性比率は12%くらいだが、欧米だと40%を超している。国際的な機関からも指摘されている通り、圧倒的に少なくて、日本はもっと女性の政治参加を進める必要がある。具体的に女性が議員になることがとても重要で、女性ならではの視点がマニフェストや政策につながり、これまので政治を変えていくはずだ。
メディアも検証で報道を変えていく過渡期
――最後に、次期総選挙が近いと言われているが、今後の報道のあり方について。
次の国政選挙で、マニフェストでもアジェンダでも名前が何に変わろうが、政党が具体的な政策を出して有権者に問うという流れ自体は変わらないだろう。我々も2009年の総選挙の失敗を繰り返してはならないという反省を踏まえて、政党が出してくる政策がどこまで実行可能なのか、財源はどうなのか、突き詰めて報道するようになる。そういう意味でも、メディアに課せられた責任は大きい。メディアも報道を変えていく、過渡期にあると言える。
次は、まず2009年の総選挙の検証をして、それから更に、検証を進めていく。橋下徹・大阪市長は賢いところがあるから、政策の数値目標は出さないと言っているが、「維新八策」は項目を並べて、キャッチフレーズを箇条書きにしているだけ。これではやはり駄目だと思う。民主党だって、「子どもは社会で育てましょう」みたいな、ぼやっとしたことしか書いてなかったら、検証しようがなかった。前回は「詐欺」だったかもしれないけど、具体的な政策を出したから「実現できていない」という検証ができた。
とにかく、検証することがとても大事で、どのようにして実現するのかと、われわれ報道がもっと問い詰めていかないといけない。政党が示す実績についても、中身を厳しく精査する必要がある。参加型民主主義を実現していくためにも、次の選挙はとても大事だ。
◇ ◇ ◇
- 杉尾秀哉 TBSテレビ解説専門記者室長
- 1957年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、(株)東京放送入社。『ニュースの森』キャスター、JNNワシントン支局・支局長などを経て、現在、TBSテレビ報道局解説・専門記者室長(局長待遇)。『みのもんたの朝ズバ!』『ひるおび!』などのレギュラーコメンテーター、『サンデースコープ』キャスターなどに出演中。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。