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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】

提言:選挙後はマニフェストの見える化を~「選挙のためだけ」ではいけない~(2012/07/26 早大マニフェスト研究所)

政治山では、ローカル・マニフェストによって地域から政治を変える活動を行っている「早稲田大学マニフェスト研究所」(所長:北川正恭早大大学院教授)と連携し、「議会改革」と「マニフェスト」をテーマに連載しています。マニフェストをテーマとした連載「マニフェスト学校~政治山出張講座~」では、議員・首長などのマニフェスト活用の最新事例をもとに、マニフェスト型政治の課題や可能性について考えていきます。

◇        ◇        ◇

 本連載では、応募を開始した第7回マニフェスト大賞の審査委員インタビュー記事を6月28日から2回にわたり掲載している。民主党の政権運営によってマニフェストの信頼が揺らいでいる状況の中、今回は趣向を変え、マニフェストの運用方法やあるべき姿を提言する。

マニフェストは単なる選挙対策の道具ではない

 当選者は、選挙時に掲げた公約を任期中に実現するため活動に取り組み、成果を挙げなければならない。一方、有権者も、選挙が終わったからといって当選者へ無責任に丸投げするのでなく、就任後も公約実現に向け適正に取り組まれているかどうかをチェックする姿勢を持たなければならない。自ら行政や地域づくりへ参画すること(参画する意識を持つこと)が肝要だ。

 すなわち、真の民主主義・住民自治を実現するためには、双方が自らの責任を果たさなければならないのだ。そのためにはまず、選挙の際に候補者が提案した公約の情報共有が不可欠となる。

 マニフェストは、公約の中でも「政策の中身を具体的に示している」という性質を持っているため、選挙後であってもその内容について検証が可能である点が、従来の「公約」と違う特徴である。内容の検証後、改善されるべき部分は改善され、目標達成に向け実行する「マニフェスト・サイクル(マニフェスト選挙→就任後に実行→チェック→改善)」が良好に回転することが好ましい。

 具体的なマニフェストを作成していない首長でも(例え無投票選挙で当選した首長でも)、選挙時や立候補表明時に住民と交わした約束はあるはずだ。それは当然であるが、守られなければならない。

 しかし、選挙後に内容を確認できる環境を整えている首長はほとんどいない。

マニフェストの見える化~首長が取り組むべきこと~

市のホームページに市長の公約と工程表を掲載。上段は鈴木康友・浜松市長、下段は北橋健治・北九州市長 市のホームページに市長の公約と工程表を掲載
上段は鈴木康友 浜松市長、下段は北橋健治 北九州市長

 当選した首長が第一に取り組まなければならないことは、選挙で交わした公約やマニフェストを選挙時ではない平時であっても、住民がいつでも自由に見ることができる環境を整えることだ。具体的には、選挙時の公約やマニフェストを役所のホームページ(例えば「市長の部屋」の中)に掲載し、住民がそれをいつでも確認できるようにする。首長が「マニフェストに沿って行政を運営している」といくら口頭で説明しても、どのようなマニフェストであったのか、どのように推進しているのか、進捗状況はどうなのかを住民が確認することができなければ、それは真の民主主義とは言えないのではないか。公約やマニフェストは首長や一部の者のみでの情報共有であってはならない。紙ベースでもいいが、最も経費がかからず、住民も自宅に居ながら入手することが可能な電子化こそ得策であり、最初に取り組むべき住民との情報共有だろう。

 次に、選挙時に掲げた公約やマニフェストは任期中に実行され成果を挙げなければならないが、そのための時間的な余裕はあまりないはずである。すなわち、就任後すみやかに役所の組織の中に政策が落とし込まれ実行される体制を整えなければならない。住民との約束であるはずの公約やマニフェストだが、住民の目につかないところでは共有されているのだろうか? 例えば、役所の職員は首長のマニフェストを熟知し政策立案しているのだろうか? 有権者の審判を得たマニフェストは、自治体の政策として本当に実行にうつされているのだろうか?

 公約やマニフェストが表に出てきていないと、何を基準に政策の優先順位を決定しているのか、年次予算はどのように作成されているのか非常にわかりづらい。また、就任後しばらく経った後、公約やマニフェストがどの程度まで進捗しているのかもわからない。

 立候補者は、選挙時にマニフェストを作成しその周知に努めているものの、すべての有権者の手元に届いているかは不明である場合が多い。また、選挙終了後は配布した資料を保管している有権者も少ない。したがって、後日、内容を確認しようにもその手段がないという事態が発生していることが想定される。また、首長が選挙時にどのような約束をしていたか、そのすべてを記憶し続けることは困難である。任期終了時に前回選挙でどのような約束をしていたのかわからなければ、有権者は首長の評価があいまいなまま次の選挙を迎えなければならない。

マニフェストを共有し、真の民主主義の実現へ

 マニフェストは守られるためにある。首長は住民と約束した政策を実現すべく、住民はそれが守られているかチェックし、自分達の責任を果たさなければならない。そのためにも、公約やマニフェストを共有することは必須となる。

 公職選挙法でも、役所ホームページへのマニフェスト掲載を禁じていないため、掲載するか否かは首長の判断に委ねられる。そのため、首長は積極的な情報公開を行い、住民と公約共有を果たすことによって、主権者である住民からの監視の目を広げていくべきだ。そのことが自らを律するだけでなく、真の民主主義の実現へつながるだろう。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
関連リンク
早稲田大学マニフェスト研究所ホームページ
Twitterアカウント(@wmaniken)
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