【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】
第7回マニフェスト大賞応募スタート特別企画「審査委員インタビュー連載」マニフェストの課題と可能性
マニフェスト・サイクル実効性の鍵は市民の関わり
西尾真治・マニフェスト大賞審査委員(埼玉LM推進ネットワーク)1/2ページ(2012/09/20 早大マニフェスト研究所)
政治山では、ローカル・マニフェストによって地域から政治を変える活動を行っている「早稲田大学マニフェスト研究所」(所長:北川正恭早大大学院教授)と連携し、「議会改革」と「マニフェスト」をテーマに連載しています。マニフェストをテーマとした連載「マニフェスト学校~政治山出張講座~」では、議員・首長などのマニフェスト活用の最新事例をもとに、マニフェスト型政治の課題や可能性について考えていきます。
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地方政治の先進的な取り組みを表彰する「第7回マニフェスト大賞」は応募期間を終え、審査委員会の審査を経て、11月2日に東京都港区・六本木ヒルズで授賞式が行われる。
早大マニフェスト研究所では、マニフェスト・サイクルと市民の関わり、地方議会におけるマニフェストについて、同大賞委員で埼玉ローカル・マニフェスト推進ネットワークの西尾真治氏にインタビューした。
検証・改善が進まない国政のマニフェスト
――国政におけるマニフェストの現状をどう見ているか。
「マニフェスト=ニセモノ」というイメージが広がりつつあることは否定できない。国政において、マニフェストが1つの大きなきっかけとなり政権交代が実現した結果、政権が迷走し、政治への不信感、失望感が増大しているため、仕方がない面もあろう。しかし、マニフェストが改善する過程を含んだ「ダイナミックプロセス」であることが生かされていないことに忸怩(じくじ)たる思いを抱いている。マニフェストは、それを目標に掲げて政策を実行し、その結果を検証して次の改善につなげることによって、成果をあげていく。いわゆる「マニフェスト・サイクル」だ。「進化のシステム」といってもよい。たとえやってみてダメであっても、検証・改善のサイクルを回すことによって、政治の質は高まっていくはずだ。国政において、その検証・改善が一向に進んでいない。
――地方のマニフェストについてはどうか。
(埼玉ローカル・マニフェスト推進ネットワーク)
松沢成文前神奈川県知事のときに、知事のマニフェストの外部評価を、NPOが毎年度実施した事例がある。年を経るごとにだんだん実績を積み重ね、評価もあがっていったのだが、個別の政策ごとの評価の動きを分析すると、おもしろいことがわかった。前年度に評価が低い政策ほど、次年度に評価があがる傾向がはっきりと出ており、これを4年間繰り返すことによって、最終的にはマニフェストのほぼすべての項目において一定の成果を達成していた。検証・改善が有効に機能したことを示す好事例だ。
このように、マニフェストの取り組みが先行する地方においては、マニフェストを有効に活用している事例が多く出ている。マニフェスト大賞は、こうした事例を発掘し、世に広める役割を果たしているが、この地方における成果を、混迷する国政に積極的に還元する役割を発揮すべき時期に差し掛かっているのかも知れない。
マニフェスト・サイクルの実効性の鍵は市民の関わり
――西尾さんは、日本にマニフェストが導入されてから、ローカル・マニフェストの調査研究を行ってきた。マニフェスト型地域経営の課題について、どう考えるか。
2003年にはじめて地方にマニフェストが導入されてから9年が経過し、マニフェスト・サイクルも3巡目に入っている。マニフェストを行政に反映し、実行していく方法論が確立してきた。マニフェストをアクションプランの形で行政計画に落とし込み、工程表に基づいて着実に取り組むとともに、目標の達成状況を評価・検証し、PDCAサイクルを回す。さらに、部局長マニフェストを作成して、組織としての実行体制を整備する取り組みも広がってきた。近年、首長部門でグランプリを受賞している葛西憲之弘前市長、山中光茂松阪市長、鈴木康友浜松市長などは、これらのトータルマネジメントにバランスよく取り組み、高評価を得ている。
ただし、このような仕組みは整ってきているものの、その仕組みが実効性を発揮するとは限らない。実効性の鍵となるのは、市民の関わりである。お手盛りの自己評価ではなく、外部評価を取り入れることで評価の実効性を高めようとするケースも増えているが、多くの市民が関心を持つに至っていないのが現状だ。そこで、特に2011年度の首長部門では、こうした市民を巻き込む工夫を行っている事例の受賞が目立つようになった。山本孝二御船町長は、町民によるワークショップを繰り返し、マニフェストの検証を徹底的に行っている。また、マニフェストの作成過程は国政においても課題となっているが、山中光茂松阪市長は、中学校5年生から中学生を集めて勉強会を開催した他、市内70カ所で意見交換会を開催してマニフェストに反映した。
このように、仕組みづくりから仕組みを生かす市民の関わりづくりへと、マニフェスト型地域経営の課題のウェイトがシフトしてきている。
地域政党への脱皮を迫る会派マニフェスト
――地方議会におけるマニフェストについてはどうか。
一方、地方議会・議員におけるマニフェストは、学術的な定義にこだわるよりも、議会改革の道具として活用できるものは活用する、というスタンスで、多様性・多義性があってよいと考えている。毎年度さまざまな意欲的な取り組みがエントリーされ、審査委員としても刺激と勇気をもらっている。
ただし、議会、会派、議員個人と異なるレベルでの取り組みがある中で、マニフェストとの相性、親和性は、会派がもっとも高いと感じている。議会がまとまれば議会改革の大きな原動力になるが、選挙公約としてのマニフェストは、合議体である議会全体としては考えにくい。また、議員個人についても、マニフェストを実現するためには議会の多数派を形成する必要があり、仮にそれが実現したとしても個人だけの成果としては捉えにくい面があるからだ。
会派であれば、会派としてのマニフェストを掲げ、その実現に向けて会派の議員が力を合わせる。会派間でマニフェストをもとにした政策論議を展開することも可能だ。国政における政党政治と同じような活用形態がイメージできる。ただし、そのためには、会派が政策集団としてのまとまりを持つ必要がある。現状の多くの会派のように、議長人事などのパワーゲームによって会派構成をしょっちゅう組み替えるような状態では、マニフェストを掲げることなどできない。逆に言えば、会派としてマニフェストを掲げ、その実現に向けて一貫した言動を行うことによって、政策集団としての求心力、持続性・継続性を獲得できる可能性がある。
近年、マニフェスト大賞でグランプリを受賞している民主党さいたま市議団、自由民主党川口市議会議員団、民主党京都府議会議員団などはいずれも、会派マニフェストを軸として、政策集団としての自律的な活動を展開している事例である。
――注目される地域政党についてはどうか。
昨今、大阪維新の会や減税日本をはじめとする「地域政党」が注目され、認知されつつあるが、実は地域政党には法制度上の位置付けがない。現状の会派は、市民にとって地方政治のわかりにくさの元凶の1つにもなっており、グループを形成するとかえって多様性が損なわれてしまうような小規模な議会は別として、一定の規模以上の議員で構成される議会では、政策集団としての会派、すなわち地域政党が法制度上も確立されるべきである。会派によるマニフェストの活用が、そういった動きにつながることを期待したい。