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公取委が上半期の取組状況を発表、消費税転嫁対策特措法について (2017/10/24 企業法務ナビ

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はじめに

公正取引委員会は20日、今年度上半期の消費税転嫁対策特別措置法についての取組状況を発表しました。今年度上半期の勧告がなされた件数は2件とのことです。今回は消費税を適切に転嫁するための措置法である消費税転嫁対策特措法による規制について見ていきます。

消費税

消費税の適切な転嫁

消費税が上がった場合、その商品自体の価格は変わっていないにもかかわらず消費者の支払う金額は増加します。消費者の購入意欲はそれによって低下することになります。そこで小売業者は増税分値引きすることによって消費の回復を図ります。その際その値引き分を仕入れ価格から引くことによって仕入れ業者に負担させるといったことが起こりえます。本来消費者が負担すべき増税分を仕入れ業者などの立場の弱い業者が負担させられることになります。消費税転嫁対策特別措置法ではこのような消費税の適切な転嫁を阻害する行為を禁止しております。以下禁止行為の要点を見ていきます。

対象となる事業者

本特措法の対象となる「特定事業者」とは「大規模小売事業者」とその他の事業者に分けられます。大規模小売事業者とは一般消費者が日常使用する商品の小売業を行っており、前年度の売上が100億円以上の事業者を言います(2条1項1号)。それ以外の事業者としては、個人事業者や資本金の額が3億円以下の事業者から継続して商品または役務の供給を受けている事業者が該当します(同2号)。そしてこれら「特定事業者」に対して商品や役務を提供している事業者、つまり立場が弱い側を「特定供給事業者」と言います(2条2項)。

禁止される行為

(1)買いたたき・減額
仕入れ業者から納入される商品や原材料、その他のサービスなどについて、増税分を適切に反映した価格よりも低い額、あるいは増税以前の額を据え置きした額での仕入れを行った場合は買いたたきに該当し禁止されております(3条1号)。増税分を適切に上乗せした額で契約していたとしても、事後的にその分を減額した対価で支払った場合は減額に当たり、これも同じように禁止されます。また適切に上乗せした価格で取引していても、内容量を増量させていたり、仕様を変更させ、供給事業者の製造コストが増えてしまっている場合も実質的に買いたたきに当たることになります。この規定はあくまで立場の強い小売業者側からの要求で減額等を行うことを禁止しており、供給業者側から納得した上で価格据え置きでいい旨の申出があれば問題はありません。

(2)商品購入、利益提供の要請
消費増税分を上乗せした価格で取引する見返りとして不良在庫やチケットなどの商品の購入を要請したり、従業員を派遣させたりする行為が禁止されます(同2号)。10%の価格に値上げするかわりに棚卸し作業や値札付け替え作業を仕入れ先業者の従業員にさせるといった行為が該当します。これもやはり立場の強い小売業者による不当な強制を禁止する趣旨であることから、仕入れ業者側が任意に申し出る場合は該当しないことになります。

(3)本体価格での交渉拒否
仕入れ業者が消費税を含まない税抜き価格で価格の交渉をしたい旨申出た場合、小売事業者側はこれを拒むことができません(同3号)。税込みの総額表示でしか交渉しないとなれば、その価格に適切に増税分が反映されず、増税分を仕入れ業者が実質負担せざるを得ないことになり得るからです。増税以前から契約書に◯◯円(税込み)という記載で取引していたとしても相手方が税抜きの本体価格の交渉を希望するのであれば拒否することができないということです。

(4)報復行為の禁止
上記の行為がなされているとして仕入れ業者側が公取委や主務大臣、中小企業庁にその旨通報した場合、それを理由に取引を停止したり、取引数量を減らすなどの不利益な取扱が禁止されます(同4号)。

転嫁カルテル

従来事業者間で価格の引き上げについて取り決めを行うことは価格カルテルとして独禁法違反となります(3条後段、不当な取引制限)。しかし増税による価格の引き上げの負担が大きい零細事業者を救済する目的から、消費増税分の値上げに関しては事業者間で取り決めを行うことが認められております。これを転嫁カルテルと言います。同様に増税後の価格表示方法についてもカルテルが認められております(11条)。ただしこれらのカルテルを行うには事前に公取委に届出をすることが必要で、さらに参加事業者の3分の2以上が中小事業者であることが要件となります。

コメント

公取委の発表によりますと、本特措法が施行されてから現在まで指導・勧告がなされた件数は製造業が864件で最も多く、次に情報通信業の474件、建設業の450件となっております。行為類型別に見ると全3,753件中3,286件と圧倒的多数が買いたたきとなっております。今年上半期に出された住友不動産とニチイ学館に出された勧告も買いたたきの事例となっております。いずれも増税分を上乗せせず取引価格を据え置いたものとされております。

公取委の指導・勧告によって上乗せされていなかった分の原状回復額は今年上半期で4億267万円、これまでの総額では24億1823万円が是正されたことになります。増税後もそれ以前と同じ価格(税込み)で据え置いた場合、合理的な理由がない限り「買いたたき」となるとされております。

また公取委は契約書に◯◯円(税込み)と記載されていることは増税後に取引金額を据え置く合理的理由にならないとしております。増税によって消費が落ち込むことは避けがたいところではありますが、転嫁カルテル等を駆使して、仕入先業者等に不当な負担をかけないよう適切に消費者に消費税を転嫁していくことが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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