【女性のキャリア】リモートワークやタスクの細分化で、ママが働きやすい仕組み、環境をつくる―NPO法人Arrow Arrow代表理事・堀江由香里さん(後編) (2017/8/25 nomad journal)
「ママインターン」という形で、ママの就職を支援する活動を行っている、NPO法人Arrow Arrow代表理事の堀江由香里さん。ご自身も子育て中という堀江さんは、どのような働き方をされているのでしょうか。また、今後の展望や未来のママたちのために、どんな社会をつくりたいと考えているのかについても、お話をお聞きしました。
リモートワークなら、仕事も子育ても、しっかり両立できる
Q:堀江さんご自身は、今どのような働き方をされているのでしょうか?
堀江:私自身も子育て中ですし、メンバー3人のうち2人がママです。創業当時から、「ボランティアやらせてください!」という声掛けが多く、実はいまだに正式な採用活動ってしたことがないんです。うちの団体の個人向け講座である”生き方デザイン学”を受けた人が、のちのちジョインしてくれるパターンが多かったですね。元SE、ライターなど、バックグラウンドはさまざま。団体の仕事は限られた時間の中でやってもらい、それ以外には副業も適宜やっていますよ。
私自身は、少し前まで外部のプロジェクトに参画していたので、忙しかったですね。朝5時に起きて、子どもが起きる前まで自団体の仕事をして、7時15分に保育園に送り届けた後は、外部プロジェクトの仕事。18時に迎えに行き、寝かしつけた後にまた自団体の仕事をしていました。
基本はリモートワークです。最初はオフィスを構えていたのですが、固定費を払う意味がないなと感じまして。在宅時はハングアウトを常にオンラインにしておいて、コミュニケーションが取れるようにしています。会議の時だけ顔を合わせるようにしていますが、状況次第では、もちろんリモート参加もOK。柔軟に対応しています。
タスクを細分化することで、誰でも・いつでも仕事ができるようにする
Q:フレキシブルなリモートワークは理想的ですね。でも、自律できてスキルの高い個人の集合体でないと、リモートワークでの業務は難しい印象があります。工夫しているポイントはありますか?
堀江:自律性の高いメンバー構成というのもありますが、便利なツールはフル活用していますよ。先ほどご紹介したハングアウトもそうですね。他にも、グーグルドキュメントを使えば、ファイルはリアルタイムに共有できます。Todoistというタスク管理アプリを使って、誰が・いつまでに・何をやるかを洗い出します。
ポイントは、タスクの洗い出し方です。私たちは「何も考えずに作業できるレベルにまで、タスクを細かく分解する」ということにこだわっています。例えば、”企画書を作る”というタスクでは粒が大きすぎて、実際に手を動かそうとした時に、思考停止してしまう恐れがあります。だから、”構成を考える””目次を作る” “テンプレートを作る” “1~4ページまで作る”といった、作業ベースに落とし込んでいくんです。そうすると、一つ一つの作業に要する時間は短くて済みますし、後から分析できるようにもなります。家族の体調不良など、突発的なアクシデントがあっても、「この作業だけなら、今日一日休んでもクリティカルではない」という判断もできますし、他の人がカバーしやすいというメリットもあります。
この手法は、中小企業向けのコンサルでも導入しています。産休に入る人が担当している業務のコアを探り、利益を生み出しているポイントを明確にして、業務の集中と選択をします。「ここは、復帰後も絶対本人に任せましょう」「ここは、アルバイトの人にお願いしましょう」といった感じです。
Q:なるほど!業務の利益生み出しポイントは、本人も周囲も、なかなかわかっていないものですよね。コンサルの他には、どういったサービスがありますか?
堀江:コンサルをする中で生まれたサービスとして、「ライト・ライト」という産育休面談シートがあります。組織として、妊娠・出産をする(した)社員に、いつ、何をヒアリングすればいいか。産育休を取得する当事者として、いつまでに、どのような事前準備をし、情報を収集し、組織に伝える必要があるのか。双方が考えていること、漠然としていること、聞きづらいことを可視化し、ミスコミュニケーション防止を目的としたシート設計になっています。シートとDVDがセットになっているので、それだけを購入されるケースもありますし、使い方のコンサルやロールプレイングを行う場合もありますよ。
私たちがお手伝いするのは、社内で第一例、というケースがほとんどです。企業も個人も、お互いどうしたらいいかわからないんですよね。このツールを使えば、企業のマタニティ・ハラスメントを防ぎ、個人には自律的コミュニケーションを促すことができます。
ハローワークで提示されるようになるくらい、ママインターンを当たり前の選択肢にしたい
Q:堀江さんの今後の目標を教えてください。
堀江:ママインターンを拡充していきたいですね。もっともっとポピュラーにしたい。例えば、ハローワークに相談に行ったら、当たり前の選択肢として提示されるくらいまでに。コンテンツはバージョンアップを重ねていますし、提供できるノウハウも増えてきています。
ママインターンは、組織改革のキッカケとして、とても入りやすいと感じています。特に困っていない組織に対して、「女性活用の時代ですよ!」と説いても、あまり響きません。でも、「人が足りない!」というのは緊急かつ重大な事態。加えて、経験豊かなプロフェッショナルを採用するのは、中小企業にとっては難しいハードルです。働き方に制約があっても、ブランクがあっても、”優秀なママ”は、中小企業ととてもマッチする人材なんです。最初は懐疑的でも、ママインターンを通じてその優秀さを実感できると、ママ採用に繋がり、そのために社内制度が変わり、やがて組織変革へと繋がっていくんです。
「仕事を辞めてしまったけれど、復職したい」という人も、「ライフイベントを経ても、仕事を続けたい」という人も、どちらも支援していきたいですね。「社員!Shine!」という研修事業を通じて、管理職になりたがらない女性に対し、キャリアデザイン形成や組織内ネットワーク構築なども行っています。女性のあらゆる悩みに対応していきたいと考えています。
私の子どもは、女の子なんです。娘が大きくなった時、「女性が働くのが難しい時代があったんだね。ウケるー!」と言えるように、社会全体を良くしていきたいと思っています。娘に、自分と同じような葛藤は抱えさせたくないですから。私は、自分の母を見ていて、ママが笑顔でいることの大切さを学びました。私自身も、母として、娘に背中を見せていきたいと思います。
とてもパワフルに、気さくにいろいろお話してくだった堀江さん。「社会を変える」という大きな命題に対し、臆することなく挑んでいく姿がとても印象的で、眩しかったです。変革というのは、小さな変化が堆積して起きるものなんだ、と感じることができました。「私も、キャリアカウンセラーとして個人のキャリアを支援しつつ、ライターとして先進的な事例を発信し続け、小さな変化をたくさん起こせるように頑張っていこう!」と、パワーをもらいました。
今、一生懸命頑張り、もがいているママ・女性たち。それをサポートしている家族たち。制約に捉われず、頑張りを正当に評価してくれる企業。それぞれの努力が日の目を見る日は、そう遠くないかもしれません。
取材・記事作成/天田 有美
- 専門家:天田有美
- 慶應義塾大学文学部人間科学科卒業後、株式会社リクルート(現リクルートキャリア)へ入社。一貫してHR事業に携わる。2012年、フリーランスへ転身。キャリアコンサルタントとしてカウンセリングを行うほか、研修講師・面接官などを務める。ライター、チアダンスインストラクターとしても活動中。
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