働き方用語の正しい読み方【解雇の金銭的解決制度】 (2017/8/18 瓦版)
お金で解雇を可能にすることは合理的なのか
解雇無効(不当解雇)の判決が出た場合でも、会社が解決金を支払えば雇用が終了したものとし、労働者を職場復帰させなくてもよいという制度。検討段階だが、この通り、正当性がなくても、お金で従業員を解雇できるため、解雇を助長かねないとして、労働側はその導入に反発している。
労働者にとって、マイナス面ばかりが頭をよぎるこの制度をなぜ、政府は導入しようとしているのか。ひとつには、雇用流動化を促進する狙いがある。産業構造・社会構造が変化し、業界ごとの人材需給バランスが激変している。だが、解雇が難しい日本では、人材の移動が硬直化しており、その結果、不人気業種には人が集まらず、厳しい状況となっている。そうした状況に風穴を開けるためにも、解雇に関する新たなルールが必要との観点だ。
もう一つは使用者側の観点として、解雇無効を訴えることのできる労働者はごく一部で、そのほとんどが泣き寝入りしている。同制度はそうした労働者を救える、という主張だ。
後者については一見、理にかなっているようにもみえる。だが、日本労働弁護団事務局長で弁護士の嶋﨑量氏は、実態を示しつつ、そうした論調を真っ向否定する。「使用者側の泣き寝入りがほとんどいう主張は全くの間違いです。キチンと権利行使すればほとんどの事件で解雇無効の判断がなされ、金銭解決を実現しています」と現実には9割以上が金銭解決できていると明かす。
この事実と、雇用流動化を促進したいという背景を併せると、どうしても企業側が金銭的解雇を都合よく活用しようとしている思惑が透けてみえてくる。嶋崎氏によれば、そもそも、あえて金銭的な解決制度を導入しなくても、現状の労働局によるあっせんや労働審査制度、裁判などでも十分対応は可能で、その一層の充実を図ることなどで、事足りるという。
金銭的解雇制度の導入は解雇を助長することになるのか
そこへあえて解雇の金銭的解決制度を追加することにどんな意味があるのか…。金銭での解雇可能ををより明確にするというなら、いささか強引だろう。その適用にあたって慎重が期されるとしても、制度は<金銭での解雇はOK>のイメージを膨らませ、その活用を助長しこそすれ、労働者の不安を解消するものにはなりづらい印象はぬぐえない。
もちろん、労使関係が崩壊し、職場復帰したくないという労働者も少なからずいるだろう。そうした人にとっては金銭的解決も選択肢としてありなのかもしれない。だが、現状の制度でも対応出来るなら、政府はそうした制度の周知や一層の充実に力を注ぐ方が賢明といえる。
少し俯瞰するなら、労働者は所属企業を辞めたくなれば、すぐに決めるかはともかく、転職という選択肢がある。同様に使用者による解雇も民法の規定では自由となっている(民法627条1項)。だが、実質的には、解雇により労働者が受けるダメージは大きく、判例で不当な解雇は権利濫用として無効となり、労働契約法第16条に条文化もされている。こうした経緯からも企業にとって、“解雇問題”は、目の上のたんこぶのような存在といえるのかもしれない。
労働者側にとって不利といわざるえないこの制度。まだ十分に認知されていない側面があるにせよ、反発の声のトーンはそれほど高くない印象がある。その理由を邪推すれば、職場でのよりよいポジションを確保したい“デキのいい社員”にとっては、解雇しづらいという日本企業の事情は、無能社員をのさばらせる温床になりかねないという思いがどこかにあるのかもしれない…。
一方で、企業側が、金銭解決だけでなく次の雇用支援など、労働側が安心して離職できる対案なしに一律に制度導入を歓迎しているのだとすれば、その中身の是非以前に、社会が劣化していく印象はぬぐえない。それだけに導入への議論は、あらゆる実状を十分に踏まえ、細心の注意を払う必要があるだろう。
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