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金銭解雇の導入について (2017/6/27 企業法務ナビ

関連ワード : 労働・雇用 法律 

はじめに

 厚生労働省では5月末に「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が行なわれました。この検討会では、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」報告書がまとめられています。この報告書の中では、解雇無効時における金銭救済制度が取り上げられています。

 この金銭救済制度が導入されると、法務担当者にとって労働紛争に対応する際の選択肢が増えると予想されます。そうすると、労働紛争対応では、解決方法において金銭賠償における費用を予想することができ、企業にとってメリットも存在します。そこで、今回は解雇無効時における金銭救済制度(以下、「金銭解雇制度」という。)について触れさせて頂きます。

お金とビジネスマン

現状

 これまで、日本において解雇は、正当な理由がなければ行えず、裁判所に解雇権濫用にあたると判断されると解雇が無効となります。解雇が無効となると、解雇された職員が職場に復帰することになります。

 しかし、裁判によって解雇が無効となった場合であっても、職場復帰せず、退職を選択する労働者が一定数存在しました。また、行政によるあっせんや労働審判制度、民事訴訟上の和解において、解雇をめぐる個別労働関係紛争の多くが金銭で解決されているという実態がありました。

 このような状況下において、一定の要件の下で、使用者から労働者に補償金を支払うことで雇用契約を解除する選択肢を用意しようとするのが、今回の法改正の話になります。

 この法改正において注意しておくべきことは、使用者側の都合で金銭解雇を行えないということです。

解雇権濫用法理とは?

 まず、解雇権濫用法理について説明します。

 解雇権濫用法理とは、使用者が労働者を解雇するには、客観的にみて①合理的な理由が必要で、なおかつ、解雇まですることが②社会一般的に相当な処置だと認められなければ、権利濫用として「解雇を無効とする」という法理を言います。

(1)合理的理由といえるものは

1.労働者の労務提供の不能や労働能力、または適格性の欠如・喪失
労働者が労務の提供ができない場合、あるいは勤務成績・勤務態度の著しい不良や適格性の欠如等

2.労働者の規律違反行為
業務命令違反や職場規律違反などで、本来懲戒処分の対象となるような場合

3.経営上の必要性に基づく理由による場合
事業不振などによる使用者の経営上やむを得ない事情に基づくもの

4.その他の事由
使用者と労働組合がユニオン・ショップ協定を締結している場合で、その労働組合の組合員が除名されたり脱退した場合に、ユニオン・ショップ協定の解雇規定に基づいて使用者が解雇する場合

のいずれかに該当する必要があります。

(2)社会的に相当といえる場合として

1.客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められること
2.就業規則や労働協約に定めた解雇の事由に従っていること
3.労働基準法、その他の法律に定められている解雇禁止事由に該当しないこと
4.解雇の予告を30日前にするか、それに代わる解雇予告手当を支払うこと(例外有り)

に該当する必要性があります。

金銭解雇制度

 金銭解雇とは、裁判で解雇が無効と認められた労働者が、職場に戻る代わりに使用者から解決金額を払ってもらい、雇用契約を終了する仕組みのことをいいます。現在、裁判で不当解雇が認められると、労働者は元いた職場に復帰することになります。しかし、一度不当解雇された労働者としては、職場に復帰するのは難しいということが多々ありますので、そういった労働者の選択肢として金銭解決を認めるというものです。

●制度のねらい
 労働者側が退職を選択しても、解決金額を受け取れなかったり少額だったりすることが多く存在しています。そのため、金銭解雇制度は、労働紛争解決のための解決金額を明確化し、不当解雇された労働者の泣き寝入りを防ぐことを目的としています。

●制度予想
 この目的から、金銭解雇制度は、裁判後、企業側が支払いを条件に解雇を実施するものは対象外となると考えられます。また、制度の申し立てをできる者が労働者に限定されることで、労働者の保護という本来のねらいに沿った金銭解雇制度になると考えられます。

 このような制度設計をすることで、金銭解雇制度導入への疑問を解消し、現在も行なわれている労働紛争における個別的な金銭解決との違いを出せると思われます。すなわち、個別具体的な労働紛争解決では、解決金額の設定で多くの時間がかかる場合があります。このような労働紛争の長期化を金銭解雇制度の導入により解消することが、これまでの解決方法との違いとなります。

●裁判前の解雇について
 ここまで読まれると、当然、裁判になる前に、裁判後に支払うことが予想される金額を事前に支払えば、会社側は労働者を任意に解雇できるのではないかとの疑問が生じると思います。この点、厚生労働省では、現在上記場合に任意解雇を認めるかどうか結論が出ていません。

 もっとも、制度のねらいからすれば、金銭解雇制度では、裁判前に会社が労働者を解雇するために、裁判後に支払うことが予想される金額を事前に支払えばよいというものにはならないと考えられます。なぜなら、これを認めると、会社の都合で労働者をいくらでも解雇できるようになってしまうからです。あくまで、金銭解雇制度は当事者に紛争の見通しをつけさせることと、労働者の権利を守るための制度として認められるものです。そうだとすれば、金銭解雇制度としては、当事者の合意があったとしても、事前に金銭解雇が許されることにはならないという結論になると考えられます。

提供:企業法務ナビ

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