消費者契約法から考える「電力自由化」と「2年縛り」料金プラン (2016/1/28 企業法務ナビ)
せまる電力自由化の日
「おトクになるかも!?」「今より安く!」「使えば使うほど安い」といった宣伝文句が飛び交っている。他でもない、電力自由化の話である。今年4月1日に家庭向け電力販売が自由化され、消費者が電力会社を自由に選べるようになる。今回新規に電力事業に参入する企業は1月現在でなんと130社以上である。各企業が料金プランを打ち出し、消費者に向けたアピールを続けている現状だ。
以前にも商用対象の電力は自由化されていたが、家庭対象の自由化は行われていなかった。しかし、2011年の東日本大震災による福島第一原発事故などを受け、2012年に政府は方針を転換し、電力・ガスの一体改革の1つとして家庭対象の電力の自由化をはかることを決めた。その後2014年6月に「電気事業法等の一部を改正する等の法律」が成立し、2016年4月1日からの自由化が決定したという経緯だ。ちなみに、ガスの自由化も2017年4月に予定されている。
料金プランに現れる「2年縛り」
新規参入をする企業は様々で、携帯電話会社、ケーブルテレビ運営会社、ガス会社、総合商社や、家電メーカーなどバラエティに富んでいる。各企業が元々販売していた他の商品とのセット割引やポイントサービス、独自の料金体系など今後も様々なプランが提供されると思われる。
既に新しい料金プランを提示している企業も多いが、消費者はどのプランを選ぶか情報収集する中で「2年契約」「2年縛り」というどこかで聞いたような言葉を聞くことになるだろう。
割引率の高いプランについては、2年の継続契約を条件にしているものが多いのである。例えば、中部電力では2年契約による割引プランを複数用意している。東京電力でも「プレミアムプラン」として2年契約の料金定額化に、キャンペーンとして1万円以上のポイントサービスや商品券を加えている。
「2年縛り」でどうしても思い出すのは携帯電話の料金プランである。これは、契約から2年間は解約しないことを条件に、月額料金を大きく割り引くというプランであり、短い更新期間内に解約しないと多額の違約金がかかるしくみが、実質的に利用者を不当に縛っていると総務省から見直しを提言されたことも記憶に新しい。
「2年縛り」は消費者契約法違反か?
実は「2年縛り」については最高裁の判断が出されている。「2年縛り」途中解約の違約金とは「賠償額の予定」(民法420条3項)のことであり、契約書の中で損害賠償額がいくらになるか争いにならないように事前に定めておくのは良くあることである。しかし、この違約金の条項が消費者契約法違反とならないか問題となったのである。
消費生活を営む上で必要な情報、知識、交渉力等について消費者と事業者の間に大きな格差が存在する。そこで、消費者利益が不当に害されることを防ぐために事業者と消費者の間の契約では消費者契約法が適用されることになっている。
消費者契約法9条1号では損害賠償額の予定が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの」であったときは超える部分は無効であると規定している。また、同法10条では「消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」と規定している。裁判では、違約金の条項がこの2つの規定に反し無効であるという主張がなされた。
結果としては、最高裁は違約金の条項は9条にも10条にも反さないと判断している。
携帯と電力の「2年縛り」は違う?
電力プランについても同じように消費者契約法上の争いは生じないだろうか。これについて経済産業省は「電力の小売営業に関する指針(案)」を出しており、この中で「望ましい行為」、「問題となる行為」という項目を設けている。「問題となる行為」として「高額違約金を設定すること」「解除を著しく制約する条項を設けること」が盛り込まれているが、これはまさに携帯電話の2年縛りが消費者契約法上の争いになったことを受けて記載したものだろう。
実際、電力プランでは2年契約による割引を設定しているが、今のところ途中解約による割引の撤回はあれども、違約金については設定していないものがほとんどである。
まとめ
もっとも、指針でいう高額違約金とは一体どれほどの額を指すかもはっきりしておらず、今後多数の料金プランが出てくる中で、消費者契約法9条の違反を問われるような契約が出てくる可能性は否定出来ない。また、携帯電話の「2年縛り」の大きな問題点として複雑な料金プランを消費者が把握しきれなかった点があるが、電力のプランも半ば同じような状況になっており、情報の格差という点で両者の問題の構造は似たようなものがある。
まだ始まってもいない電力自由化だが、電力事業に新規参入する企業は、消費者契約法を違反していないか気をつける必要があるだろう。また、消費者契約法上の問題は携帯や電力会社に限ったことでなく消費者と直接契約をする企業全てにあてはまるものである。自分の結んだ契約が無効だと主張される恐れはないか、今一度見なおしてみることも必要かもしれない。