寛大さが裏目に?移民大国オランダが“差別合戦”の地に…なぜ人々は荒んでしまったのか? ニュースフィア 2015年11月24日
「私たちは、サンタ・クロースじゃないんだ。援助の手を差し伸べるのは、もうゴメンだ!」と、あるオランダ人男性はそう吐き捨てるようにそう言った。誰に対しても親切に接し、何かを無償で施すことを至上の喜びとする、「サンタ・クロースのように寛大だった」オランダ人たちが今、変わりつつある。
◆外国人に寛大な国、オランダ
国土面積は日本の九州と同程度の小国・オランダは、1970年代から移民・難民をほぼ無条件で受け入れ続け、その懐の深さを国の象徴とし、『寛大な多民族国家』として世界の国々に対しアピールしてきた。在外国人たちの国籍を列挙すれば、世界一周が出来るというのが国民の自慢であり、それを象徴するかのように、首都アムステルダムには現在、約150ヶ国の外国籍を持つ人々が、肩を寄せ合って暮らしている。
なぜ、オランダ国民は外国人に対して寛大なのだろうか。その理由のひとつに、センセーショナルな話題を世界に提供するため、とする説がある。オランダは、隣国ドイツやフランスなどと比較すれば、経済的にも話題を提供する面でも「大国」とは言い難い。それを返上するために、世界をあっと驚かせる政策を前面に打ち出すことに徹したのである。つまり、欧州列強国らに劣らない存在感を、世に誇示するがために施行された政策のひとつが、移民や難民の大量受け入れ体制だったというわけだ。他の列強国が受け入れを渋る移民や難民をすんなりと受け入れられるオランダは寛大であり、かつ裕福なのだ、ということをアピールするための一種のプロパガンダだったといえるかもしれない。
◆差別とは無縁のはずが・・・
しかし、そんなオランダも過去5年間で変貌しつつある。在外国人に対する風当たりは、年を追うごとに強くなってきているのである。国民の右翼政党支持率は年々上昇傾向にあり、「移民や難民の受け入れ反対!」と、大規模なデモを行なう極右団体の台頭も著しい。国民の中には、肌の色たけで相手を判断し、あからさまな差別的行為をはたらく者も現れ始めたほどだ。
外国人受け入れに対して寛大だったはずのオランダが、なぜそうなってしまったのだろうか。現在この国で暮らしている、永住権取得済み外国人の約半数は、1970年代後半から労働移民としてやってきた人たちと、その子孫である。この労働移民たちはもともと、出稼ぎ目的のみで渡蘭したはずだった。しかし彼らは任期満了後も祖国へは戻らず、労働契約期間を更新させ滞在期間を延長し、その期間内に祖国の家族らを呼び寄せ、彼らだけのコミュニティを組織していった。彼らの子孫、つまり労働移民2世、3世の人たちは、オランダで出生しているにもかかわらず、このコミュニティ内で育てられるため、親たちから伝えられるがまま、彼らの生活スタイルを徹底して貫く者がほとんどである。そのため、オランダ生まれながらオランダ語が話せず、それに伴う学業不振から、その先に続く就職にも困難を極め、挙句の果ては生活保護の申請をせざるを得なくなる、といった悪循環を生み出しているのである。さしものオランダ人たちも、これには納得出来なくなったとみえ、「働かざる者、食うべからず」といわんばかりに、差別的感情を抱くようになった背景がある。
また、外国人による犯罪率上昇も、国民が持つ差別的感情を大いに煽る要因となっている。警察の公開捜査番組で映し出される、防犯カメラに写った犯人と思しき人物らは、その95%がオランダ人からしてみれば、「外国人」の容貌を擁しているためだ。この事実は、外国人イコール犯罪者という図式を、人びとの概念に新たに植えつけ、それが差別することに拍車をかけているのである。
◆「差別合戦」
実はオランダでは、人を差別することはれっきとした犯罪だ。たとえば、差別的発言や行為を継続し行った者は、最長で2年の懲役となる。国民もそこは心得ており、国籍や宗教に起因する差別を公にしないことを遵守してきた。しかし、こうした「法」にある意味で守られているお蔭で、言いたい放題の外国人が増大したことも事実である。
たとえば、就職に失敗したのは、「面接時に●●人の子孫だから、と差別されたため」とか、試験に落とされたのは、「苗字が外国風だったから」といった、難癖とも思われる理由から訴訟を起こす者が後を絶たない。こういった、差別を「利用」し己の立場を守る外国人たちの抵抗には、もはや我慢がならぬとするオランダ人たちが、さらに声高に外国人排斥を叫ぶようになり、まさに「差別合戦」といった様を呈しているのが現状だ。
ニューヨークを超えた人種のるつぼ、と称されたされたこともあるメトロポリタン・アムステルダムを首都に持つオランダは長年、外国人に対して寛大で、差別とは無関係であり、誰もが住みやすいユートピアのような国、といわれてきた。しかしその反面、外国人に対する偏見や差別を、ヘイト・スピーチと認められる表現を以てメディアで発した政治家や著名人らが暗殺される、という世界でも類稀な事件が起きた国でもある。
街角で、「あなたは外国人についてどう思いますか?」とオランダ人に尋ねてみたとしよう。10年ほど前までなら、ほとんどの人たちが外国人に関して、ポジティブな意見を述べていたことだろう。しかし、現在はどうだろうか。差別は犯罪といえど、ネガティブな「本音」をまくし立てるオランダ人が多いことは確かだろう。