橋下市長、世界共通「第2の都市」問題に挑んだ… 海外メディアも大阪都構想否決に注目 ニュースフィア 2015年5月20日
大阪市を廃止し、かわりに5つの特別区を設置する「大阪都構想」について、17日、賛否を問う住民投票が大阪市で行われた。有権者およそ211万人のうち140万人が投票し、66.83%という高い投票率を記録した。結果は、「反対」70万5585票、「賛成」69万4844票と、「反対」が1万票余り上回り、得票率の1%に満たない僅差で都構想は否決された。
◆首都に吸い取られる「第2の都市の窮地」は世界各国で共通?
「都市人口1930万人は世界11位」「コメディアンで有名」「何世紀もの間、日本の商業の中心地だった」「『もうかりまっか』(まだ利益は上がっていますか)は、商人の町だった歴史にさかのぼるあいさつ」「地元の阪神タイガースは、日本で最も度を越した野球ファンを有する」「お好み焼きの本場」――
これらは、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙による大阪紹介の一部である。何世紀にもわたって、大阪は日本の最も有力な商業中心地で、東京(江戸)がワシントンDCだとすると、ニューヨークのような存在だった、と同紙は語る。AFPも、数百年前、大阪は、日本最大にして最も富んだ商業の中心で、米やその他の主要物資が、「天下の台所」での競りのために、日本中から船で集まってきた、と語っている。
けれども、近年は、苦しい衰退に耐えている、とFT紙は語る。企業、人、経済力が東京に吸い上げられて、東京への一極集中がますます進んでいるためで、これは、イギリスのバーミンガム、アメリカのシカゴ、フランスのリヨンなど、世界各国の「第2の都市」で起こっている問題だ、としている。(「第2の都市」は厳密な語句ではない。大阪は、規模や人口では横浜に抜かされているが、日本第2の都市だと一般に見なされている、と同紙は語っている)
大阪は、アイデンティティーの危機にいくらか苦しんでいる、とAFPは語る。しかし、大阪は独特の文化を失っていない、とも語っている。FT紙は、大阪は料理とお笑いで、独自の気取らない文化を持っている、と語る。
◆市長にとって大阪の栄光を取り戻すための構想だったと海外メディア。投票には年齢差が
橋下徹大阪市長の「大阪都構想」は、大阪の現状の打破を狙いとしたものだった。この構想により、大阪が東京の陰から抜け出すことが可能になる、と橋下市長が語っていたとAFPは伝える。FT紙は、大阪が東京ともっと張り合えるように、市長はこの改革を提案した、と語っている。これにより、大阪が、栄光の時代を取り戻すことを望んでいた、としている。
結果は、僅差での否決となった。この投票結果には法的拘束力がある。
ロイターは、投票者のうち、一部はこの計画によって社会福祉が弱まると心配して、一部はただ困惑して、反対票を投じた、と語っている。
FT紙は、投票傾向には、年代によって差があったことを伝えている。若者は賛成に投票したが、高齢者の大きな層が、これまでの人生でずっと知っていた大阪の姿を保とうと反対に投票した、と語っている。
朝日新聞と朝日放送(ABC)が行った出口調査では、20代から60代では賛成が過半数を占めた。中でも、20代が61%、30代が65%と高い数値を示している。一方、70代以上では61%が反対だった。毎日新聞が行った出口調査では、20代から50代で賛成が過半数を占め、60代以上で反対が過半数を占めた。
また毎日新聞によると、男女別で見た場合、男性は賛成が56%に対して、女性では52%が反対を投じていた。そして、投票数では、女性が男性を約10万人上回っていた、と同紙は伝えている。
◆海外メディアは橋下市長をさまざまに形容
橋下徹氏という強い個性を持った人物に対して、海外メディアはさまざまな形容を与えている。
橋本氏は、物議をかもす(controversial)、弁護士兼TVタレントから転身した政治家、と語るのはFT紙である。AFPは、異彩を放ち衆目を集める(flamboyant)けれども、対立をもたらす(divisive)人物だとしている。ロイターは、日本で最も刺激的でおもしろい(colourful)政治家の一人、と語っている。
海外では、2013年に、「慰安婦」制度を大目にみるような発言をしたことで、最もよく知られているかもしれない、とロイターは語っている。
◆政界引退を表明した橋下市長。安倍政権の憲法改正の取り組みに影響が?
ロイターは、橋下市長が17日夜、開票後の記者会見で、12月の任期終了とともに政界を引退する、と発表したことを報じた。安倍首相は戦後の平和憲法の改正を推し進めているが、橋下氏はその潜在的な協力者だとしている。そして、橋本氏の政界引退が、首相の憲法改正の取り組みにも影響することをほのめかしている。
憲法改正の手続きを進めるには、まず衆参両院それぞれで、総議員の3分の2以上が賛成する必要がある。現在、衆議院では、自公連立与党が議席の3分の2以上を占めているが、参議院では、自公は過半数を確保しているものの、3分の2には達していない。このため必然的に他党の協力が必要となる。橋本氏が最高顧問を務める維新の党は、その有力候補と目されていた。
菅義偉官房長官は18日午前の記者会見において、橋本氏が政界引退を表明したことで、憲法改正の戦略に影響はないか、との質問に対して、「そんなに影響はないと思う」と答えている。憲法改正にあたっては、国民の間の議論を深めていく必要がまずある、と語っている。
ロイターは、維新の党が党としての結束を保つことができるかは、橋本氏自身の将来と同様に不明確だ、と語る。政界を引退するという約束にもかかわらず、橋本氏が来年行われる参議院選挙に出馬するかもしれない、と憶測している者もいる、と語っている。