ツイート数にも現れた自民党・安倍氏への関心、政策では「原発」に注目 衆議院選挙2012「ソーシャルメディア分析」 (2012/12/21 政治山)
選挙に対するインターネットの影響力は次第に大きくなってきているが、今回の衆議院選挙でもさまざまな情報がネット上を流れていた。その情報が、有権者の投票行動に影響を与えた可能性はないのだろうか? また、選挙後はどのような情報が求められていたのだろうか? 政治山では、「政治山リサーチ」のソーシャルメディア分析機能を利用し、投票日の12月16日を挟んだ5日間、政党名や政治家、政策などに関するTwitterのつぶやき(ツイート)を約11万5,000件収集し、分析を行った。(政治山)
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「原発」に続き「自民党」「安倍氏」のツイートが上位
今回のソーシャルメディア分析では、12月14日の0時から18日24時までの5日間、政党名、政治家名、政策の各ジャンルで、注目が高かまっていた項目をピックアップし、それぞれをキーワードとにデータを収集した。各キーワードは1つの表記ではなく、例えば「野田氏」であれば、「野田佳彦」「野田首相」「野田代表」など、野田佳彦氏について語られているであろうキーワードを集約したデータである。各項目のキーワードは表1の通り。
では、各キーワードごとに、データを収集した期間中のツイートとリツイート(≒引用拡散。以下、RT)の総数を見ていこう(グラフ1-A)。ツイートとRTの合計が一番多かったのは、「原発」だった。続いて「自民党」「安倍氏」が並ぶ。これらキーワードがどうツイートされてきたかは後述するが、この3つのキーワードは投票日(12月16日)前から多くのツイートが記録されており、今回の選挙に際して高い関心を集めてきたことが分かる。
一方、このグラフで特徴的なのが、「野田氏」「石原氏」「嘉田氏」の少なさだ。それぞれ合計1,000件台で、全ツイート・RT数に占める割合でも順に1.2%、1.7%、0.9%という数字に留まっている。「野田氏」「石原氏」「嘉田氏」ともソーシャルメディア上では、マスコミ報道ほどには語られていなかったのだろか。
このデータをもとに、ツイート数、RT数の多少ではなく、そのキーワードがどのくらいのバリュー(価値)や伝播力を持っていたかを計るために、RTをツイートで割った「RT率」を算出した。この数字は1.0がしきい値となる。1.0を超えると1つのツイートに複数のRTがあったということになり、利用者がそのツイートに情報の価値を見出し、広く伝播していったことを示す。逆に、1.0を切ると、1つのツイートに1つ以下のRTしかなかったことを指しており、利用者があまり興味を惹かれなかったことを表している。これらの結果をまとめたのがグラフ1-Bだ。上の赤いエリアが1.0以上、下の青い部分は1.0以下のエリアである。
これを見ると、実数は少なかったものの「野田氏」「嘉田氏」ともにRT率が高かったことが分かった。「橋下氏」は、総数は「安倍氏」より少なかったがRT率では上回り、話題性の高さを示した。一方で、「維新の会」と「石原氏」のRT率の低さが目立つ。「石原氏」は総数も少なく、ソーシャルメディア上であまり語られなかったことが分かった。この結果は、日本維新の会の伸び悩みを示していたのだろうか。
この他、政策キーワードで注目されるのが「国防軍」のRT率だ。「国防軍」は、自民党が政権公約で掲げたもので、憲法改正とセットとなるため同様の傾向が見えると想定していたが、総数は少ないながらも「憲法」より話題性はあったことになる。この「憲法」と「国防軍」の関係は、後半で紹介するツイートのポジティブ/ネガティブ分析でも興味深い結果となっている。
投票日16日に向けて急伸したキーワードは?
次に、ツイートとRTの合計を期間中の日別で集計したグラフ2(A、B、C)を見ていこう。まず、政党名関連のツイートとRTの推移を示したグラフ2-Aだが、投票日の16日向けて「自民党」「民主党」がその数を伸ばしている一方、「維新の会」が微増、「未来の党」にいたっては減少してしまっている。他の政党に隠れ選挙後半戦に向け、各社メディア報道も含め「未来の党」の存在感が薄れていった印象もあったが、ソーシャルメディア上でも同様の傾向を見せていたようだ。
政治家に関連するツイートを見てみると、14日から15日にかけて「安倍氏」が急伸していた。「安倍氏」はその後、16日にかけて微減の動きを見せた一方、今度は「橋下氏」が伸びてきている。また、今回の選挙戦で表舞台にあまり出てこなかった「小沢氏」の動きにも注目したい。
「小沢氏」は、14日の「橋下氏」に匹敵するツイートを記録し、その後も「安倍氏」「橋下氏」に次ぐツイートがあった。「小沢氏」は今回、分析対象とした政治家の中でもっとも選挙期間中のマスコミ露出が少なかった印象だが、ソーシャルメディア上では比較的多く話題にされていたようだ。
グラフ2-Cで特徴的なのが「原発」の動きだ。グラフ2-A、2-Bと見比べていただきたい。「自民党」「安倍氏」と同様の傾向を見せている。「自民党」と「安倍氏」が連動した動きを見せるのは想像に難くないが、「原発」はどのような位置にあったのだろうか。「自民党」「安倍氏」とは、あまり関連せずにソーシャルメディア上で話題にされていた可能性も否定できない。
別な角度から3つのグラフを見てみよう。「原発」は、17日から18日にかけてその数が増やしているが、この同じ動きを示したキーワードは他に2つしかなかった。「未来の党」と「小沢氏」である。日本未来の党は、「卒原発」をスローガンに選挙戦を展開していたが、こうした部分が影響したと推測することもできそうだ。
開票速報を機にツイートが一気に増加
今度は、衆議院選挙投票日当日の16日のツイートとRTの推移を見ていくことにしよう(グラフ3-A、B、C)。対象は、多くの投票所が締め切りとなった20時を挟んだ17時から22時の時間帯とした。
政党から見ていくと、20時に一気に跳ね上がっているのが見て取れる。20時は各テレビ局の選挙速報番組が開始された時間で、各局が番組オープニングから自民党の圧勝を伝えたことは記憶に新しい。20時に「自民党」ツイート・RTが急激に増えたのは、こうした影響もあったと思われる。
選挙速報番組では、自民党の圧勝とともに、民主党の惨敗も伝えられていた。「自民党」ほどでないにしろ「民主党」も20時にツイート・RT数が増加したのは、これを受けてのものだろうか。「維新の会」も同様な傾向だ。
ここで注目されるのが「未来の党」である。時間帯にかかわらず変動がほとんどない。結果だけをみれば、日本未来の党も民主党同様、“惨敗”だったとも言えるが、こちらはツイート・RT数に反応が出ていないことになる。実際、テレビの選挙速報番組なども自民党、民主党が中心で日本未来の党が取り上げられる機会が少なかったのも確かだ。日本未来の党の苦戦が伺える結果である。
政治家関連のツイート・RT数でも「自民党」同様、「安倍氏」の伸長率が著しい。「安倍氏」は唯一、21時、22時と以降も、減少に転じることなく伸び続けている。また、「橋下氏」も20時以降にツイート・RT数を伸ばしているが、それより前の20時に向けて、いったんその数を減らしているのが特徴だ。19時から20時にかけて減少したのは「橋下氏」のみである。
ここでも、「嘉田氏」のツイート・RT数が伸びていない。20時を境に一気に自民党関連、民主党関連の情報発信が増えたとは言え、これらの結果はいかに日本未来の党や嘉田代表が有権者に浸透しきれなかったかを示すものとも言える。
政策関連のキーワードの結果も特徴的な動きになった。まず、「原発」を見てみると、17時から19時まで徐々に数を減らし、20時に増加に転じ以降、22時まで伸長していった。また、「憲法」は20時に一気に増加したものの、以降は「原発」と逆の動きを示して減少に転じた。
ここでの注目は「国防軍」だ。20時で若干の山をつたものの、21時までは低空飛行を続けていたが、22時に一気に数を増やし、ソーシャルメディア上で「憲法」よりも多く語られている。これには、22時前後は大勢が判明し、安倍氏が各テレビ局の選挙速報番組のインタビューを受け始めた時間帯であることが関係しているかもしれない。
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ここまでは、ツイートとRT数からソーシャルメディアの動きを分析してきたが、次ページでは、ツイート内容を解析し、各キーワードが好意的に語られたのか、否定的に語られたのかを見ていく。