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これからの改革は「量」から「質」への転換を マニフェスト・サミット2012開催(2012/08/08 政治山)

マニフェスト・サミット2012開催 写真1

 地方議員、首長、自治体職員を対象とした地方政治の先進事例を学ぶ研修会「マニフェスト・サミット2012 ~地域から新しい日本を~」が8月5、6の両日、東京・早稲田大学で開かれた。同研修会には、地方議員を中心に約120人が参加。1日目は、自治体での弁護士など専門的知見活用についての講演や4市長によるパネルディスカッションが行われ、2日目には大都市制度について政令指定都市4市の議員による討論会が実施された。主催は、ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟ら。

1日目 講演・事例報告「専門的知見の採用」

北川正恭 早大大学院教授北川正恭 早大大学院教授

 冒頭、「地域主権時代は量的削減から質的改革に~専門的知見の採用を考える~」と題し、弁護士などの専門的知見をいかに自治体経営に活用していくのかについて、早大大学院教授の北川正恭氏、日本弁護士連合会会長の山岸憲司氏の講演会が行われた。

 北川氏は、これからの自治体・議会の改革手法について、人員・予算削減などの量的削減から質的改革を進める時期になってきたと指摘。2012年2月、兵庫県明石市で5名の弁護士採用が行われた事例を引きながら、前例主義的な行政判断から、法の支配による公平・公正な法律規則優先の行政判断が行われることに期待を込めた。また、議会でも今より議員提案条例作成の機運が高まれば、今後は政策法務の需要が広がる可能性があるとし、議会事務局への法務従事者の採用を提案した。

山岸憲司 日本弁護士連合会会長山岸憲司 日本弁護士連合会会長

 山岸氏は、諸外国では行政組織の中で働く弁護士である「ガバメント・ロイヤー」が一般的である状況に触れ、組織に所属せず自由業が主流だった日本でも、今後は企業・自治体などで弁護士が予防法務や戦略法務を担当する時代になると語った。そのうえで、自治体が弁護士を雇い入れるメリットとして、法令・条例の解釈の専門的能力や行政対象暴力などに対する紛争解決の経験にあるとした。

 2人の講演を受け、弁護士で大阪市特別参与も務める山形康郎氏が実際に複数の市から滞納家賃などの回収作業の受託を受けている事例を紹介。弁護士事務所名で催促・回収をする方が、自治体が行うよりも費用対効果がよいとする実績が報告された。

マニフェスト型4市長パネルディスカッション

マニフェスト・サミット2012開催 写真4

 続いて、「首長討論会 マニフェスト型首長から見る、マニフェストとは」というテーマで、自身の選挙においてマニフェストを掲げて当選した4市長を招いてパネルディスカッションが行われた。

 第5回マニフェスト大賞のグランプリを受賞している三重県松阪市長の山中光茂氏は、予算案を議会に否決された2週間後に同内容で再度予算が可決された経験について語り、「否決するのはいい。しかし、市長が気に入らないといった感情論で否決するのはいかがなものか。否決行為には議会が責任を持ち、修正予算をあげるなどしてほしい」と述べた。また、選挙時のマニフェストと従来の総合計画の整合性では、当選直後には折り合いをつけなかったとし、市民との懇談会やワークショップを積み重ねて新しい総合計画策定に着手したと語った。

 静岡市長の田辺信宏氏は、選挙の対抗馬の政策に対抗して自身の公約に「市長給与半減」を入れた経験から、マニフェストがポピュリズム的政治と紙一重であり、一線を画すべき点は注意しなければならないとした。「自治体の総合計画は不要では」といった会場からの意見に対しては、「突き詰めて言えば、首長や議会がきちっとオペレーションできているならいらないもの。しかし、前任者との一貫性や財源の担保など、4年ごとの安全弁として総合計画には一定の役割がある」とした。

山中光茂 三重県松阪市長
山中光茂 三重県松阪市長
田辺信宏 静岡市長
田辺信宏 静岡市長

 さいたま市長の清水勇人氏は、市長としてマニフェストを自治体の計画へ落とし込む際に、市職員から抵抗があり半年間かかった経緯を説明。「議会や職員にいかに理解してもらうかが課題だ」と述べた。また、139事業を掲げたマニフェスト項目数については、当選後に市民に講演などで伝えるのが難しく、多すぎてもいけないとしている。マニフェストの課題としては、ポピュリズムに陥らないことと、マニフェストが選挙後に市民に忘れられてしまう点をあげた。

 奈良市長の仲川げん氏は、市職員にとってマニフェストは「市長が持ってきた黒船」と表現し、いかに職員に自身の課題として意識してもらうかが重要だとしている。マニフェストの課題は、どうしても政策をワンセットで選んでもらうことになっている点とし、自身のマニフェスト運用の改善点として、「当選後にマニフェスト項目に対する市民意識調査などを行い、マニフェスト項目の微調整を、事業が始まる前にできたかもしれない」と語った。

清水勇人 さいたま市長
清水勇人 さいたま市長
仲川げん 奈良市長
仲川げん 奈良市長

 この他、日経グローカル誌と早稲田大学マニフェスト研究所がそれぞれ行っている各自治体の議会改革度調査についての発表、およびその調査を活用している大阪府議会事務局と石川県加賀市議の室谷弘幸氏の報告なども行われた。

2日目 横浜、名古屋、大阪市、相模原市ら4市議が大都市制度について討論会

4市議による討論会。左から阿部善博 相模原市議、横山正人 横浜市議、横井利明 名古屋市議、柳本顕 大阪市議。市議による討論会。左から阿部善博 相模原市議、横山正人 横浜市議、横井利明 名古屋市議、柳本顕 大阪市議。

 2日目は、大阪「都」構想などで議論が進む大都市制度について、横浜市議の横山正人氏、名古屋市議の横井利明氏、大阪市議の柳本顕氏をパネラーとして、相模原市議の阿部善博氏をコーディネーターに討論会が行われた。テーマは「続・大討論会 地方議会から考える大都市制度」。横浜市は「特別自治」構想、名古屋市は「中京都」および「尾張名古屋共和国」構想、大阪市は「大阪都」構想と、大都市制度に対して、それぞれ独自の提案がある。

 横山氏は、これまで横浜市では、大都市制度を争点として選挙が行われていないため、市民参加の観点から、次の選挙では争点とするべきだとした。また、国政に対しては、「いろいろな大都市制度への提案が出てくるのは、地方分権改革がまったく進まないから。地方から国へのダメ出しだ」と批判を行った。

 横井氏は、道州制が必要だとする理由として、トヨタや工作機械などの愛知県が誇る産業の世界的競争力を高めていくために、「道州制に移行して立法権を持たない限り、名古屋に最適な優遇税制ができない。全国一律の法律では難しい。道州制では、立法権と税の決定権が付与されるのが望ましい」と述べた。

 柳本氏は、現在、国会で進む特別区設置に関する法案の法制化は、あくまで手続き法であり、実際に設置するかどうかは各地域に委ねられている点を強調した。また、実際に大阪で特別区に移行した場合のメリット・デメリットについては、メリットとして二重行政の解消と財産分配があげられる一方、市は交付団体であり、負債を含めた財産の分配が本当に可能かどうかは疑問だとしている。また、デメリットとして、区割り案と財政調整をあげ、財政調整では、今以上のサービスが調整によって提供可能かどうか懐疑的だとした。

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