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【寄稿】16万人の署名はなぜ否決されたのか?
~市民団体「原発県民投票静岡」の活動報告~
(2012/10/26 「原発県民投票静岡」中村英一氏)

静岡県の中部電力浜岡原発(御前崎市)の再稼働をめぐり、その是非を問う住民投票条例案が10月11日、県議会で否決された。この条例案提出は、「原発県民投票静岡」を中心とした市民グループが、県民約18万余人の署名を集め、それを受けて川勝平太静岡県知事が行ったものだった。しかし、議会は「国策である原発政策を地方は決められない」「条例案に不備がある」との理由で否決。県内に大きな波紋が広がった。ここでは緊急企画として、署名集めを主導した市民団体「原発県民投票静岡」の中村英一氏にご寄稿いただき、一連の動きを住民側の視点で見ていくことにする。

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老若男女、確かな民意が姿を現す

静岡県議会で「意見陳述」する請求代表者の1人、中村英一氏。うしろは小楠和男県議会議長 静岡県議会で「意見陳述」する請求代表者の1人、中村英一氏。うしろは小楠和男県議会議長

 「浜岡原発の再稼動の是非を問う住民投票条例」の制定を求める直接請求の運動は、2012年3月初旬から本格化しました。県当局との協議を重ね、県が作成した直接請求のマニュアルに従って準備は進められました。そして、4月末に条例制定請求書などの必要書類を提出。県の審査の結果適正とされて、5月中頃に県知事名での必要書類の交付を受け、署名活動がスタートしました。

 署名活動を行う受任者の数は、当初は3,000人程度でしたが、途中からグングン増えていき最終的には8,000人以上にまでなりました。そうした受任者の多くは、従来の脱原発運動などには関わりのなかった人たちです。茶農家や小さな子どもを抱えたお母さん、サーファー、定年退職した元県職員、お坊さん、カフェ経営者、大学生など、さまざまな人たちがこの活動に参加し、従来の市民運動とはまったく違う雰囲気の活動が県内各地に広がっていったのです。

 その結果、当初の予想を大きく上回る18万余の署名が集まり、県内すべての市・町・区の選挙管理員会の審査を受けることとなりました。その結果、約16万5,000の署名が適正に収集された有効な署名であると認定。これを受けて、8月末に県に提出し、その翌日には適正な署名であるとする県知事名での書類が交付されたのです。

 これは、「自分にも意見を言わせてほしい」、方言で言うならば、「オラにも意見を言わせてくりょお!」という強い思いが、多くの県民の心の中に幅広く存在していたからです。その思いが署名活動を通して結集し、確かな民意として姿を現したのだと思っています。

知事が賛成、議会が反対、議会は不備を指摘

 この条例案に否定的な見解を示してきた知事は、署名が提出された日に突然、態度を変え、賛成の意思を表明しました。これで県民投票実現へ大きく事態が動き出したかと思った数日後、県当局が「条例案に不備がある」と発表。県は、これまで適正に進められてきて、県自らが2回、各市町区の選挙管理委員会も適正とした、この直接請求の手続きに法的不備があるかのような宣伝を始めたのです。

 不備があるとされたこの条例案はもともと、議会での修正が前提とされたものであり、そのことは県作成のマニュアルにも明記されていたことで、何の問題もないものでした。しかし、県の宣伝の力は強く、本来は修正案を作成したうえで本質的な議論を行うべきだった議会での議論も混迷していきました。

集まった署名を県原子力安全対策課杉浦課長に渡す「原発県民投票静岡」の方々。 集まった署名を県原子力安全対策課杉浦課長に渡す「原発県民投票静岡」の方々

 一方で自民系会派は、賛成した知事が条例成立のための努力をしていないと批判。また民主系会派は、支持基盤である電力労組の圧力もあって、修正案をまとめられない状態です。そうした状況の中で、原発政策に県民の意思をどう反映させるのかといった本質的な議論ではなく、修正点などをめぐる形式的な議論が繰り返されました。

 その結果、修正案が出されぬまま委員会で原案は否決。本会議最終日に、民主系会派の一部と公明などの超党派での修正案が提出されましたが、「国策である原発政策に県民投票はなじまない」といった自民系会派の意見のもと、反対多数で修正案も否決されるという、本当にガッカリする結果となってしまったのです。

県民投票実現はあきらめない

 ところが翌日から、静岡新聞や中日新聞といった地元メディアを中心に『宙に浮いた民意』『置き去りにされた民意』という見出しが紙面を飾り、『川勝知事は、条例の否決要因の全てを原案の不備にあるとして、請求代表者を批判したが、筋違いだろう』(静岡新聞・社説、2012年10月12日)、『自民系最大会派の議員は「国策の原子力行政が地方の住民投票で左右されてよいのか」と訴えた。明らかに間違いだ』(中日新聞・社説、2012年10月12日)という論が張られるなど、知事・議会を批判する報道が大々的になされる展開になりました。

 こうした中、私たちは、直接請求による県民投票条例案は否決されたが、県民投票を実現する方法はまだほかにもあると思い至りました。条例案に賛成した県知事から議会に提案してもらい、キチンとした審議のうえに可決してもらうという道です。そこで、知事の提案として条例案を議会に再提出することを求める要望書を、知事に提出しました。

 同時に、議会の否決と知事の再提出について、多くの県民がどう思っているのかを調査して民意を明らかにしようと、原発県民投票に関するインターネットアンケート調査を「政治山リサーチ」に依頼することとしました。

 その結果、県民投票に賛成が約65%、知事が再提出することに賛成は約60%という調査結果が得られ、その数字はメディアを通じて広く報道されました。この結果から民意は確実に、県民投票の実現を求めていると思います。私たちは、こうした民意を背に受けながら、最後まであきらめずに県民投票実現へ向けて歩んでいきたいと思っています。

(文・中村英一)

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