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松下政経塾「未来会議~これからの政治と教育を考えよう~」フォーラム
政治山レポート
(2012/10/12 政治山)

 「シティズンシップ教育」をテーマとする松下政経塾卒塾フォーラム「未来会議~これからの政治と教育を考えよう~」が9月29日、開催された。同フォーラムでは、松下政経塾の西野偉彦氏や明治学院大教授・川上和久氏による講演のほか、前神奈川県知事の松沢成文氏などが参加してパネルディスカッションが行われた。ここでは、西野氏によるレポートに引き続き、シティズンシップ教育の現状と展望が話し合われた同フォーラムの詳細を、政治山がレポートする。

2つの「世論」が政治をつくる

 フォーラムの第一部として行われた川上氏の基調講演のタイトルは「衆院選前夜!私たちはこれからの政治にどう参加していくべきか」。自身の専門である世論研究と政治参加に関する研究が報告された。その中で同氏は、いわゆる世論には「パブリックオピニオン」と「ポピュラーセンチメント」2つあるが、「今の日本はパブリックオピニオンが不在である」と指摘。それを解決するために「シティズンシップ教育」の拡充が不可欠とした。

 「パブリックオピニオン」とは、中間共同体またはある程度知識のある階層の多面的な議論から生まれてくる熟慮された「世論」であり、一方の「ポピュラーセンチメント」とは、メディアから創出され振り子のように動く「時代の気分」を指すと解説。ポピュラーセンチメントに関してはこれまでも懸念されていたが、主体性のない大衆が政治をつくっていってしまうことは、今も起こるのではないかと疑問を投げかけた。そのうえで、現代の日本も「振り子」と「熟慮」どちらに向かっているか、しっかりと考える必要があるとしている。

 また、例として、2011年の統一地方選挙での投票率低下を挙げた。実際、「明るい選挙推進協会」が同時期に3,000人を対象に行った調査では、選挙への関心が低下しているという結果が出ていたという。では、なぜ、このようなデータが出たのか? 実はその原因の1つはポピュラーセンチメントだった。2011年統一地方選挙の際、新聞・テレビは東日本大震災関連の報道がほとんどを占めていた。またこの頃は、震災に対する政府の対応が原因で、日本の政治の評価が極端に下がった時期でもある。こうしたテレビ・新聞の影響で、振り子のように世論が動いたという。

実践で成果を出した「シティズンシップ教育」

 第二部は西野氏が「“シティズンシップ教育”が切り拓く、新しい社会のカタチ」と題した塾生研修報告を行った。同氏は、シティズンシップ教育を具体的に例を挙げながら説明。その1つが、神奈川県立湘南台高等学校の依頼を受け、自身がシティズンシップ教育の教育アドバイザーとなった経験だった。

 「全国のモデルとなる新しい教育プログラムを作る」という思いで実施したのが「模擬議会」。このプログラムは、授業の一環として同高校1年生全員を対象に、各クラスの生徒を与野党に分け、時事問題などの身近な問題から国レベルの問題まで、生活に密着しているテーマを審議し、裁決するまでを実践させた。

 これは、一票を投票する政治参加が社会に反映される「有効性感覚」を育むと同時に、政治の仕組みを理解してもらうのが目的だったという。プログラムの実施前と実施後に行ったアンケートでは、「政治家を身近に感じているか」「政治に関心があるか」といった設問がそれぞれ好転したという成果が出た。

 また、同氏は「カリスマが現れ、すべてその人に政治を任す」ことに疑問を呈し、身近なことから、日常的に政治について1人ひとりが政治に向き合うことが重要と指摘。さらに、社会保障の将来が不安視され、個々の負担に不公平感が募る今、政府は「納得性」を高める努力をし、なぜ自分がこのような負担を背負わなければならないかという社会的な疑問や不安を取り除き、安定して持続可能な社会を政治はつくっていくべきと話した。

 これを実現するのが「シティズンシップ教育」なのである。

シティズンシップ教育が民主主義を育む

登壇したパネラー(左から、松下政経塾31期生・西野偉彦氏、前神奈川県知事・松沢成文氏、NPO「Youth Create」代表・原田謙介氏、共同通信論説委員の川上高志氏) 登壇したパネラー(左から、松下政経塾31期生・西野偉彦氏、前神奈川県知事・松沢成文氏、NPO「Youth Create」代表・原田謙介氏、共同通信論説委員・川上高志氏)

 第3部として行われたパネルディスカッションには、前神奈川県知事で筑波大学客員教授松沢氏のほか、共同通信論説委員の川上高志氏、NPO「Youth Create」代表でOneVoice Campaign発起人の原田謙介氏が参加した。

 3氏はまず「政治教育」について話し合った。川上氏は、若い人の政治参加、投票率のアップの必要性を感じるが、シティズンシップ教育の効果の測りにくさが難点であると指摘。ただ、シティズンシップ教育が、市議会へ一般市民が参加したり、議論の場をつくったりといった「ぶ厚い民主主義」をつくることのきっかけになると語った。

 松沢氏は、アメリカと比べ、日本は教育と政治に乖離があることを指摘。アメリカのような環境を生み出すには、これからのシティズンシップ教育は、知識として教えるものではなく、現場に合った形で実習しなければならないと提言した。さらに、模擬選挙で実際どう考え、どう投票するかなど、実体験として民主主義を知る必要性を説いた。

 原田氏は、政治教育の中で、県議会や市区町村議会の違いなどの政治の仕組みを理解している人はまだまだ少ないのではないかと分析。シティズンシップ教育の普及と重要性を訴えた。

 続いて行われた来場者との質疑応答でも、シティズンシップ教育の在り方や制度の運営面に関し、活発な意見交換が行われた。

◇        ◇        ◇

 フォーラムの運営を担当した西野氏は最後に、「このフォーラムは3年間の集大成です。とは言え、このフォーラムをスタートラインとして、新しいステージへと走っていかければならないと思っています」と、今後の活躍を来場者に約束していた。

(政治山)

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