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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】
第7回マニフェスト大賞応募スタート特別企画「審査委員インタビュー連載」

マニフェストの課題と可能性~作成の手続きと体制を検証せよ~
藤森克彦・マニフェスト大賞審査委員(みずほ情報総研 主席研究員)
2/2ページ(2012/08/09 早大マニフェスト研究所)

――作成プロセスの他に、どのような違いがあるのか。

藤森 日本の政党は、シンクタンク機能が弱い。一時期、民主党も自民党もシンクタンクの組織化を試みたようだが、いつの間にか消えてしまったと聞く。優秀な人材を集めるにはお金がかかるし、政権を取ったら官僚を使えばいいという考えがあったのかもしれない。

 しかし、政党交付金が支払われているのだから、有効な使い道を考えるべきだ。また、政権交代を前提にしたシステムを考えるのであれば、官僚には今まで以上に政治的中立性が求められる。政党内でシンクタンク機能を強化することが必要になると思う。

――選挙前にマニフェストの外部評価は行われていたが、何が足りなかったのか。

藤森 財源の検証ができていなかったことが最大の問題だと思う。これだけ財政状況が悪化している中で、いくら素晴らしい政策を掲げても財源の裏付けがなければ「絵に描いた餅」だ。選挙の時に、メディアや民間シンクタンクは、もっとマニフェストの内容を吟味して、詰めた議論をしないといけない。また、その前提として、政府の情報公開もいっそう必要になる。今後の外部評価の課題だと思う。

――「細かすぎるマニフェストは必要ない」という議論も出ているが。

藤森 「細かすぎる」とは、どのレベルで言っているのかわからない。マニフェストは、選挙時に有権者に対して何をやろうとしているのかを「具体的に示す道具」なのだと思う。例えば、「失業者を減らす」といったときに「どうやって、どの程度の失業者を削減するのか? そのための予算はどこから持ってくるのか?」と、誰しも素朴な疑問を持つはずだ。国民が1票を投じていくために必要な判断材料であり、判断できる程度に具体化することは必要だと思う。

藤森克彦・マニフェスト大賞審査委員(みずほ情報総研 主席研究員)

 また、マニフェストは「政治の見える化」の役割も果たすので、実行できなければ、国民から叩かれる。だが、それによって政治が育つ面がある。例えば、先に述べた政党のシンクタンク機能の欠如などは、マニフェストを導入したから顕在化した課題だ。

 おそらく民主党も、従来の公約のように「福祉を充実します」「地球にやさしい国を目指します」「むだを削ります」とだけ言っていれば、ここまで叩かれることはなかったはずだ。具体的な内容を盛り込んだからこそ、大きな批判を浴びた。

 しかし、だからと言って、以前の路線に戻れるかと言うと、戻れないだろう。大きな方向性を示す政治理念が重要なのは言うまでもないが、政治理念だけを判断材料に1票を投じることも難しくなっている。「右か、左か」といった単純な図式で政党を選べる時代でもない。また、財源が限られている今、政策の優先順位も重要になる。具体的な内容を示さなくては、実現可能性も優先順位もわからない。

政策は「必要性」だけでなく「許容性」も吟味して

――マニフェスト大賞が始まって7年目。地方政治についてはどうか。

藤森 正直に言うと、マニフェスト大賞が始まったときは、議院内閣制である国政と、二元代表制である地方では前提が大きく異なるので、ローカル・マニフェストに対してやや懐疑的な思いも持っていた。もちろん、選挙で候補者を選ぶ物差しとしてのマニフェストは必要だが、地方では組織力もないので懸念していた。しかし、審査員を3~4年続けた頃から、内容面が優れたマニフェストや、マニフェスト・サイクルの回し方にも優れた事例が出てきて驚いた。

――審査を通じた印象は。

藤森 ここ2~3年で一番感心しているのは、市民団体の活動だ。とくに、模擬選挙、選挙公約の作成、政策討論会の実施など、学校教育の場で政治を育てようとしている姿は、国政が暗闇の中にある中で、希望を感じる。確かに、毎回、膨大な審査資料を読むのは大変だが、「世の中、捨てたものじゃない」と励まされる。 今は「マニフェスト」に対して逆風が吹いているが、マニフェストがあるから「政治の見える化」が進み、政治の欠けている部分が見えてくる。マニフェスト大賞を続けていく中で、地道な動きが世の中を変えていくことを感じている。

――全国の首長と議員にメッセージを。

藤森 質を追求するのなら、マニフェストに対する審査はもっと厳しくてもいいと思っている。「今年は受賞の該当者なし」という年もあっていいのではないか。

 政策提言賞の表彰を毎年担当しているが、やや思い付きの内容が目につく。政策の「必要性」は見い出しやすいが、政策を実行したことによってどのような影響があるのか、財源はあるのかなど、「許容性」も吟味しなくてはいけない。また、昨今増えてきた議会基本条例や議員提案条例についても、それによって「住民生活に役立つ何かが生まれたのか」といった点も考えてほしい。マニフェスト大賞も、そろそろ次の段階へ進むときかもしれない。

◇        ◇        ◇

藤森克彦(みずほ情報総研 社会保障藤森クラスター 主席研究員)
1965年生まれ。国際基督教大学大学院行政学研究科修了後、富士総合研究所(現みずほ情報総研)入社。社会調査部、ロンドン事務所駐在(96~2000年)を経て、2004年10月から現職。主な著書『マニフェストで政治を育てる』(共著、雅粒社 2004年)、『単身急増社会の衝撃』(日本経済新聞出版社、2010年)等。
■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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Twitterアカウント(@wmaniken)
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