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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】
第7回マニフェスト大賞応募スタート特別企画「審査委員インタビュー連載」

マニフェストの課題と可能性 ~地方から政治を変える原動力に~
人羅格・マニフェスト大賞審査委員(毎日新聞社論説委員)
1/2ページ(2012/08/23 早大マニフェスト研究所)

政治山では、ローカル・マニフェストによって地域から政治を変える活動を行っている「早稲田大学マニフェスト研究所」(所長:北川正恭早大大学院教授)と連携し、「議会改革」と「マニフェスト」をテーマに連載しています。マニフェストをテーマとした連載「マニフェスト学校~政治山出張講座~」では、議員・首長などのマニフェスト活用の最新事例をもとに、マニフェスト型政治の課題や可能性について考えていきます。

◇        ◇        ◇

 地方政治の先進的な取り組みを表彰する「第7回マニフェスト大賞」の応募期間が7月2日にスタートした。応募は8月末まで、その後は審査委員会の審査を経て、11月2日に東京都港区・六本木ヒルズで授賞式が行われる。

 政権交代後の民主党の政権運営により、有権者の間でマニフェストが信頼を失っている状況の中、早大マニフェスト研究所では、中央と地方におけるマニフェストの現状、2009年衆院選の民主党マニフェストに対する評価や国政マニフェストの行方について、同大賞審査委員で毎日新聞社論説委員の人羅格(ひとら ただし)氏にインタビューを行った。

中央と地方では、マニフェストの様相が違う

――現状のマニフェストに対する評価をどう見ているか。

人羅格・マニフェスト大賞審査委員(毎日新聞社論説委員) 人羅格・マニフェスト大賞審査委員
(毎日新聞社論説委員)

人羅 民主党政権の運営を見ていると、マニフェストをめぐる課題がいろいろ出てきていることは事実だ。その批判の過程を通じてマニフェストがあたかも詐欺の代名詞のように扱われていることはとても残念に思う。ただ、中央と地方ではかなり様相が違うことも強調したい。

 地方選挙でマニフェストを掲げることはすでに当たり前になっている。注目される首長選挙があった場合、まず、地元メディアなら候補者に「あなたがたはどのようなマニフェストを出しているのか」と聞き、政策比較から始めるはずだ。7月の山口県知事選でも、マニフェスト型公開討論会が山口県知事選挙として初めて行われた。

 議員選挙でもかなりマニフェストが普及し、地方の選挙が政策主導型へと大きく変化していることがわかる。この流れは止まらないだろうし、その中でマニフェストが原動力としてあり続けるという確信をもっている。中央で批判を受けている今こそ、日本では2003年の統一地方選挙で「地方からマニフェストがスタートした」意義が生きてくるのではないか。

変化を定着させるのは地方から ~事業仕分けとの共通項

 マニフェストと似たような評価に、事業仕分けがある。民主党政権の行政刷新会議が事業仕分けを行い一時、蓮舫議員などがとても注目を浴びた。しかし、今は、民主党政権の事業仕分けというと「実際にどれだけ行革ができたのか」「効果や強制力がどれだけあったのか」など、むしろ否定的・懐疑的な見方が増えている。

 だが、事業仕分けは、もともと地方自治体が着々と行ってきたもので、「中央でやってダメだったからもう止めようか」という議論にはなっていない。事業仕分け自体は、従来通りこの夏も地方で行われている。中央政界は毀誉褒貶(注1)、評価も含めて流れが激しいので、日本の政治で本当に変化を定着させたい場合には、地方からスタートして流れを形づくった方が中長期的には逆に近道ではないか。中央とは別に「地方から地道に政治を変える」パターンが根付く象徴例としてマニフェストがあってほしいと思う。

――「消費税増税は公約違反だ」という批判については。

人羅 消費税増税は、事実上の公約違反だと思う。民主党のマニフェストには、税率について上げるとも維持するとも書いていないが、増税をしない路線で選挙を戦ったことは紛れもない。だから野田佳彦首相も「おわび」せざるを得ない。民主党は「公約違反はしていない」などと言わず「事実上の公約違反をしたが、何故、なぜこのような結果に至ったのか」と、理由と事情をきちんと説明すべきだ。むしろ、公約違反よりも説明の仕方に問題がある。

 マニフェストで掲げた公約を実現しなければ、ブーメランのようにわが身に返り、批判を受ける。今まさに民主党はその状況にあって、達観した見方をすれば、そういう意味で政権公約を具体的にした意義はある。だが、それでも問題点の多い公約で政権を獲得したという問題は残る。2003年、2005年、2009年と、これまで衆院でマニフェスト選挙が3度あったが、2009年に民主党の政権取りのツールになったきらいがあることは残念だ。迷走について全般的に点検・検証すべきだ。

 何が何でも政権公約に縛られなくてもいい。ただ、内容を変える場合は、国民に理由をきちんと説明することが必要だ。逆に「選挙で政権をとったから」「マニフェストに書いてあったから」すべて授権(注2)されるわけでもない。だからこそ、優先順位や基本政策をもっとはっきりさせるべきだ。

(次ページへつづく:「連立政権、ねじれを意識したマニフェストが残る」、「分権の納得感は、地方議会が鍵」 など)

  • (注1)毀誉褒貶…きよほうへん。ほめたりけなしたりする世間の評判。[記事に戻る]
  • (注2)授権…じゅけん。一定の権利や権限を特定の人に与えること。[記事に戻る]
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