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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】
第7回マニフェスト大賞応募スタート特別企画「審査委員インタビュー連載」

マニフェストの課題と可能性~いまこそ、議会の出番だ!~
千葉茂明・マニフェスト大賞審査委員(月刊『ガバナンス』編集長)
1/2ページ(2012/07/12 早大マニフェスト研究所)

政治山では、ローカル・マニフェストによって地域から政治を変える活動を行っている「早稲田大学マニフェスト研究所」(所長:北川正恭早大大学院教授)と連携し、「議会改革」と「マニフェスト」をテーマに連載しています。マニフェストをテーマとした連載「マニフェスト学校~政治山出張講座~」では、議員・首長などのマニフェスト活用の最新事例をもとに、マニフェスト型政治の課題や可能性について考えていきます。

◇        ◇        ◇

 地方政治の先進的な取り組みを表彰する「第7回マニフェスト大賞」の応募期間が7月2日にスタートする。応募は8月末までとなり、その後は審査委員会の審査を経て、11月2日に東京都港区の六本木ヒルズで行われる授賞式で受賞作が表彰される。

 早大マニフェスト研究所では、政権交代後の民主党の政権運営により、有権者の間でマニフェストが信頼を失っている状況のなか、マニフェストの意義やこれからの議会に期待することについて、同大賞審査委員で月刊「ガバナンス」編集長の千葉茂明氏にインタビューを行った。

柔軟なマニフェスト運営を

――国政でマニフェストが批判されている現状をどう見ているか。

千葉茂明・マニフェスト大賞審査委員(月刊『ガバナンス』編集長) 千葉茂明・マニフェスト大賞審査委員
(月刊『ガバナンス』編集長)

千葉 民主党のマニフェストが批判されているが、要するに作る過程、マネジメントに問題があった。財源を含め、合意形成されていないことが衆院選マニフェストになり、政権獲得後もマニフェストの主要項目を閣議決定しなかったことで、その都度、政党内でさえ、揺れ動くことになった。

 一方で、地方で素晴らしいマニフェストが沢山出てきたのかと言えば、必ずしもそうではないと思う。2003年にマニフェスト運動が起こり、政策を中心に選挙を戦う候補者が増えたころから、地方ごとに政策シンクタンクのような組織や機能が必要だと思った。そうでなければ思いつきの政策を掲げるだけに止まってしまうという問題意識があったからだが、10年近く経っても地方の政策シンクタンクが充実しないのは残念なことだ。地方選挙は選挙期間が短く、マニフェストの内容をどこまで訴えられるかという課題もある。そして、国政以上に、マニフェストの作成過程は不透明なことが多い。地方選挙においてもマニフェストのブラッシュアップは不可欠だ。ただ、ビジョンをどう描くかは政治家として一番重要な要素であり、政策本位の政治・選挙の流れは今後とも逆行することはないと考えている。

――マニフェスト修正についての議論をどう見るか。

千葉 2011年、首長グランプリを受賞した青森県弘前市では今年3月、任期の中間地点でマニフェストの内容を行政計画として落とし込んだアクションプランの改訂版を策定した。いまは社会情勢の変化が激しい時代。また、日本では自然災害が多い。そうした中では自治体も柔軟性のあるマニフェスト運営を考えていくべきではないか。選挙時のマニフェスト自体はもちろん変更できないが、その後の実行プランでは修正がありうる。新人で当選した場合には、財政や行政体制などをすべて把握しているわけではないわけで、実際、就任してみたら事情が異なっていたということもある。修正する場合は、当然のことだが、市民に説明責任を果たすことが必須になる。テーマによっては、「この政策については、住民参加の仕組みを設けて、いつまでに結論を出す」といった形でマニフェストに盛り込むのも1つの方策だろう。

重要なのは「住民の福祉の増進」という視点

――マニフェスト大賞が始まって7年目、印象は。

千葉 これまでで印象的だったのは、第2回大会でグランプリを受賞した松沢成文・前神奈川県知事の「表彰状を渡すことは多いけど、自分が表彰されるのは初めて」という言葉。首長でもそうなのかと驚いた。議員の場合は恐らく、このような思いはさらに強いのではないか。一般に議会や議員は、マスコミ等から批判されることの方が圧倒的に多い。しかし、選挙で住民の負託を得て政治家となっているのだから、真っ当かつ先進的な取り組みは正当に評価されないといけない。それが政治家の励みになり、さらなる進化につながる。その良循環がマニフェスト大賞を通じて、とくに議会では起き始めていると感じる。

 また、マニフェストは運用面でひと工夫が必要という時代に入ってきたと思う。マニフェストの内容がよくても、あまりに細かな政策だけでは、市民に「役所が変わった」「政治がよくなった」といった実感がわきにくい。政策にメリハリをつけると同時に、政策を実行する過程に、市民をどう巻き込んでいくかが課題ではないか。その点で、熊本県御船町のようにマニフェストの柱ごとに住民と議論する場を設けたり、青森県弘前市のように市民団体や学生団体がマニフェストを評価したり政策提言する動きは、双方向性があり、地域の政治を育てていると感じる。

――マニフェスト大賞における、審査のポイントは。

千葉 個人的には、地方自治の目的である「住民の福祉の増進」(自治法1条の2)につながっているかどうかに注目したい。住民参加や議会での合意形成はあくまで過程・手段であり、その先の「住民の福祉の増進」を見据えることが、結果的に住民の負託に応えることになると考えるからだ。

――審査で苦労する点、やりがいを感じる点は。

千葉 応募作の評点には、毎回、とても苦心している。ハイレベルな応募作に、どのように順位をつけるか。相対評価せざるを得ないのは、非常に悩ましいところだ。一方で、毎年、「こういうところがこんな取り組みを始めたのか」「よくぞこんな取り組みができたなあ」という発見がある。2011年に受賞した自民党横浜市支部連合会による「8本の条例制定」を掲げたマニフェストや、「政策サポーター制度」を設けた長野県飯綱町議会などは新しい動きだと感じた。横浜市議会では実際に条例がいくつか成立し、飯綱町議会では8月に議会・執行部・区長会(住民組織)の三者共同で総合計画や新たな行政課題を討論するシンポジウムを開くという。受賞を機に、取り組みに弾みがついたり、さらなる高みへチャレンジする。そのことが、まさにマニフェスト大賞の効果であり、そうした姿を見ることは審査委員としても非常にやりがいを感じる。

(次ページへつづく)

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