【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】
第7回マニフェスト大賞応募スタート特別企画「審査委員インタビュー連載」
マニフェストの課題と可能性 ~地方から政治を変える原動力に~
人羅格・マニフェスト大賞審査委員(毎日新聞社論説委員)2/2ページ(2012/08/23 早大マニフェスト研究所)
連立政権、ねじれを意識したマニフェストが残る
――迷走する、国政マニフェストの行方は。
人羅 国政選挙で一つの政党が過半数をとることはだんだん難しくなってくると思う。連立政権の可能性や、参議院のねじれの問題を考えなくてはならない。どの政党が与党になってもこの状況が続く可能性がある。そうした場合、政党のマニフェストに書いたことは書いたこととして、連立政権ができたときの公約はどうなるのか、衆参がねじれて現実の政治を動かすときにどう合意形成していくのか、という課題は残り続ける。だからこそ、政策の優先順位をきちんと示すことが必要だ。
例えば、今度の選挙でエネルギー政策は、非常に注目されるだろう。そのときに、「脱原発」を掲げる政党が「脱原発でない」他党と連立政権を組むとなった場合、どうするのか。各政党は、連立政権を組むにあたり、「絶対に譲れない政策」を選挙の際に示すべきだ。ねじれも同様で、参議院が立ち往生しようが「この点だけは譲れない」ことを選挙の際に言っておかないと、同じ問題が起こる。後で嘘つきと言われないためにも、事前にきちんと優先順位を明示しておくことが重要だ。
――新聞社としてマニフェストをどう見ているか。
人羅 昨今、政治のテレビ化、劇場化と言われているが、基本的にマニフェストは活字の知的な世界だ。「政治のポピュリズムを懸念する、劇場型はよろしくない」と言われる方こそ、活字のマニフェストを重視してほしい。「熟議」の政治を冷静に動かしていくためにもマニフェストの意義を強調したい。
分権の納得感は、地方議会が鍵
――マニフェスト大賞に期待することは。
人羅 一番期待しているのは、地方議会部門。分権を進めていくうえで最大の問題は国民に「分権は必要だ」という納得感が足りないことだ。有権者が、「何故なぜこんなに細かい地方のことまで、国がやっているんだ。自分たちにやらせろ」と怒り心頭に発すれば、衆院選は小選挙区制で世論に敏感になりやすい制度だから、政党や候補者は必ず選挙のときに「分権をしよう」とこぞって主張するはずだ。だが、残念ながらそういう機運が澎湃(注3)として起きていない。
一方で橋下徹・大阪市長の大阪都構想の法制化論議が進むなど、地方のあり方はどんどん変わってきている。仮に地方が「勘弁してくれ」と言ったとしても、嫌でも業務と責任を背負う時代が来る。地方議会がきちんと動いているところが見えないと、住民に「身近な行政は、やはり身近な市町村で決める方がよい」という納得感は広がらないのではないか。
例えば、自分の住む地域の議員の名前と顔が一致せず、4年に一度の選挙でポスターを見て「この人がいいな」と投票し、選挙を通ったら地方議会が4年間で政策条例もまったく作らないという感じでは、地方議会に本当に任していいのか不安に思うだろう。分権の受け皿として、地方議会の機能と議員の資質の問題が出てくる。だからこそ、地方議会は、会派や個人で政策を掲げて条例を作ったり、たとえば毎週木曜午後7時に必ず開会してサラリーマンの人も傍聴や議会に参加しやすくなるよう運営を工夫するなど、努力が必要だ。地方議会の姿が変われば、地方自治のあり方も変わる。
――全国の首長と議員にメッセージを。
人羅 印象論ではあるが、一部の常連的な人たちがやっているのではないかと、誤解されることもあるのではないか。もちろんそうではないので、これまで参加されていない首長、議会関係者に門戸を叩き、広く参加していただきたい。わからないことは大賞事務局に聞けばいいし、中央でマニフェストが批判されている今だからこそ、マニフェスト大賞に参加する意義がある。
今年、設けられた、震災復興支援・防災対策賞も、積極的に応募してほしい。取材で会う自治体関係者に「応募してみたらどうですか」と聞くと、「復興支援の取り組みを賞に応募するのはためらいがある」と話されていた。謙虚で控えめな日本ならではの難しさがあるかもしれないが、応募することで、「なるほどこういうやり方があるのか」と、全国で共有され、有意義な取り組みが普及する面もあるはずだ。ぜひ、応募していただきたい。
- (注3)澎湃…ほうはい。物ごとが勢いよく起こるさま。[記事に戻る]
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- 人羅格(ひとら・ただし) 毎日新聞社論説委員
- 1962年北海道札幌市生まれ。東北大学法学部卒業後、毎日新聞社入社。政治部官邸キャップ、同副部長などを経て08年4月から現職。政局取材を主に担当したほか、地方自治を専門領域とする。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。