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地図と行政情報を組み合わせて新しい価値を~「GIS活用講座」開催(2013/02/14 政治山)

有用な具体例が示され、集まった議員や職員は熱心に耳を傾けた 有用な具体例が示され、集まった議員や職員は熱心に耳を傾けた

 戦略的な地域経営のための地理情報システム(=Geographic Information System、以下GIS)活用と、産官学連携を学ぶ研修会「GIS活用講座のご案内~議会におけるQ&A提案~」が13日、東京都中央区の早稲田大学日本橋キャンパスで開催され、50人を超える地方議員や地方自治体職員が参加した。会では、新潟県の新潟市と糸魚川市、福島県相馬市、千葉県浦安市の各自治体から、行政が持つさまざまな情報と地図を組み合わせて行うGIS活用の全国先進事例が紹介された。

 GISとは、地図データの上に、テキストや位置情報などを結び付けるシステムのこと。車のカーナビゲーションで、渋滞情報や飲食店の情報などが表示されるのをイメージすれば分かりやすいだろう。自治体での活用としては、行政が持つさまざまなデータ、例えば家屋や下水道、道路、高齢者の世帯の分布などと地図情報を組み合わせて、防災対策や効率的な行政経営に生かしている例がある。

 研修会では、GISをすでに活用している各自治体の担当者が登壇、導入事例の発表が行われた。新潟県糸魚川市役所東京事務所長の斉藤清一氏からは、地形図に不審者出没位置や防犯パトロールのルート、24時間営業の店舗情報を重ね合わせることにより、街路灯をどこに優先的に設置するかの判断材料にした事例が紹介された。その中で斉藤氏は「行政の情報を地図に重ねることで、新しいものが見えてくる。さらに、行政の知識だけでなく、地域の人だけが知っている『地域知』を加えればさらに価値のある情報になる」と、行政と住民が協力する重要性について触れた。

 福島県相馬市の秘書係長・阿部勝弘氏は、選挙ポスターが張られている掲示場の数の見直しに、GISが使われた事例を発表。2007年7月の参院選から導入されたこのシステムは、地図と掲示場の位置、有権者数の分布や新興住宅地の情報などを重ね合わせ、重複している地域や、有権者が少ないなど、効果が乏しい掲示場の数を選定し直すもの。掲示場を従来の191カ所から40カ所減少させ、経費を約40万円削減した。阿部氏は、「GISは“政策決定ツール”。情報を地図の上で可視化することで分かりやすくなり、説得力を増す。政策の決定もスピードアップできる」と述べた。

人材育成の大切さを強調する、千葉県浦安市市民税係の小泉和久氏
人材育成の大切さを強調する、千葉県浦安市市民税係の小泉和久氏

 千葉県浦安市では、待機児童の分布と希望の保育園の配置や、災害弱者と避難所の配置などを判断したり、大震災後に問題となった地盤液状化の予測を、建物ごとに把握したりするなど、積極的に活用している。同市市民税係の小泉和久氏は、「GISの活用は、1人のヒーローがいるよりも、10人の『チョイ役』がいることが大切。1人ではブームはつくれるが、文化にはならない」と、今後のさらなる導入に向け、人材育成の重要性を指摘した。

 新潟県新潟市都市政策部GISセンターの長谷川普一氏は、新潟市が大震災時にGISを使って相馬市を支援した例を引いて、「防災への政策判断~相馬市の復旧支援事例より~」と題した講演を行った。相馬市にGISを活用する人材とインフラが整備されており、GISの活用で数多くの自治体と協力の実績がある「ESRIジャパン」社や新潟大学、新潟市といった「産学官連携」が行われたことで、GISが被災地支援に効果的な役割を果たした、と指摘。具体的には、家屋・人的被害の把握や罹災証明発行業務の効率化、航空レーザー測量によって、地形と津波の高さの関係を解析するのに役立ったという。「『安全な居住地はどこか』というのが被災民の知りたいことだった。必ずしも『高い場所が安心』というではなく、地盤や津波の特性、地形によって『安全』は変わる。これは、GISを活用したからこそ分かったことだ」と、GISの有効性を述べた。

 最後に、早稲田大学大学院教授の北川正恭氏が総括。その中で「地方議会のさらなる進化論」に触れた北川氏は「GISなど新しい取り組みを議会が取り上げ、執行部が動くことはいいことだ。新しいことを切り開いていくのは難しいこと。これが浸透すれば、世の中は変わっていく」と期待を語り、研修会を締めくくった。

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