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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェスト学校~政治山出張講座~】

九州一安心・安全なまちづくり~宮崎県小林市の事例~(2013/02/21 早大マニフェスト研究所)

ご好評いただいている「早稲田大学マニフェスト研究所」連載。今週は議員・首長などのマニフェスト活用の最新事例をもとに、マニフェスト型政治の課題や可能性について考える「マニフェスト学校~政治山出張講座~」をお送りいたします。今回は、30年後の自治体維持を目指してまちづくりに取り組む宮崎県小林市の事例をご紹介します。

◇        ◇        ◇

 目標を掲げて実現を目指す「目標達成型」の経営手法を取り入れたマニフェストは、行政職員や市民の意識を、同じ方向へと導く効果もあります。今回は、協働(=住民と自治体が協力して活動すること)のまちづくりに取り組む、宮崎県小林市の事例をご紹介します。

防災メール登録者率ナンバー1

九州各都市の防災メール登録者数と登録率 九州各都市の防災メール登録者数と登録率

 市内で災害や犯罪などが発生したときに、携帯などへお知らせメールを送る「防災メール」の登録率で、九州一を目指している小林市。2013年2月15日時点で、九州管内の県庁所在地との比較を参考とすると、圧倒的な一番となりました(表)。2012年8月15日の時点では登録件数が2,765件(登録率約5.8%)だったので、わずか半年で2倍以上の登録者数となったのです。ここには、どのような仕掛けや仕組みがあったのでしょうか。

30年先も持続可能なまちを目指して

 国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計によると、2035年の小林市の人口は、3万5,000人程度まで減少すると見込まれています。今から20年程度で1万人が減少するのですから、現在の地域のあり方や行政サービスの内容など、従来のまちづくりの手法を大きく見直していかなければ、市の維持ができなくなることが予想されます。そこで、肥後正弘市長は「30年先も持続可能な小林市」を目指して、行財政改革やまちづくりに取り組みを始めました。

持続可能なまちをどのようにつくっていくのか

 これまでのように、市内のあれこれをすべて行政が行うことは困難なので、市民や企業が主体的にまちづくりに関わってもらえるようにするために、肥後市長は「協働によるまちづくり」を宣言しました。しかし、市民も行政職員も頭ではなんとなく分かっていても、これがどういうことなのか具体的には理解しにくいので、肥後市長は次のようなプロセスを踏んで事業を実施することとしました。

【事業実施に向けたプロセス】
小林市はどのようなまちを目指すのか、市全体で目的を共有
その目的を実現するために、市全体で何を実行していくのかを確認
「何を」「いつまでに」「どの程度」行うのか、目標を設定
市全体で目標達成に向けて取り組む

 この考え方をもとに、市全体が関心を持って取り組めるテーマづくりが必要でした。小林市は、牛の品評会でここ数年連続して第1位を受賞している宮崎牛を産出している地であり、口蹄疫などのウイルス対策に最も敏感に取り組んできました。また、新燃岳の噴火では噴火石が飛散するなど、住民の関心は先の東日本大震災の衝撃もあり「防災」へと高まっていたのです。そこで肥後市長は、市全体が1つにまとまりやすいテーマを防災と設定し、「九州一安心安全なまち小林市」を目指すことを宣言しました。こうして、30年先も持続可能な小林市をつくるために、市民と行政が協働により取り組めるテーマが決まりました。

何を持って「九州一」となるのか

 どの自治体にも「自主防災組織」というものがつくられていると思います。これは、町内会などで災害が起こったときに、住民同士が自主的に助け合う組織のことです。「私たちは自主防災組織率100%」と胸を張る自治体も少なくありません。小林市もそうでした。ところが、いざというときに本当に機能する組織になっているかというと、決してそうではなく、行政が区割りを設定し、「形式だけ整っているに過ぎない」自主防災組織であることが、実態調査から明らかになってきたのです。

 これまでの行政による「一方的な自主防災組織」でなく、小林市は「真に機能する、自主防災組織率100%」を目標とし、さまざまな活動に市民と行政が一緒に取り組み始めています。その中の1つが、冒頭でご紹介した「防災メール登録者率九州一」です。

 小林市は、肥後市長の強いリーダーシップの下、目的を共有し、市役所と市民が一緒に1つの目標を目指す、という「目標達成型」の地域経営を歩み始めました。

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