【早大マニフェスト研究所連載/週刊 地方議員】
第10回 議会改革先進事例の紹介(4)
議長選挙のあり方が議会を変える:塩尻市議会(2012/09/13 早大マニフェスト研究所)
政治山では、ローカル・マニフェストによって地域から政治を変える活動を行っている「早稲田大学マニフェスト研究所」(所長:北川正恭早大大学院教授)と連携し、「議会改革」と「マニフェスト」をテーマに連載をスタートしました。「議会改革」をテーマにした「週刊 地方議員」の連載では、研究所の調査結果をもとにして議会改革の最新事例を紹介しながら、議会本来の役割について考えていきます。第10回は「議会改革先進事例の紹介(4) 議長選挙のあり方が議会を変える:塩尻市議会」をお届けします。
議長の役割
市役所や町役場には、「市長」や「町長」と呼ばれる首長がいます。首長は、職員を1つにまとめ地域課題に対応する組織の運営を行っていかなければなりません。
一方、「議会」は複数の議員が構成する組織です。それぞれの立場や主張を持った方が、議論をして1つの結論を導き出す組織なので、議会は「合議体」と呼ばれています。
この議会にも代表者がいます。それが「議長」と呼ばれる人です。議長は地方自治法などで議会へ与えられている権限(市長が行おうとしている事業が適当かどうかチェックしたり、議会から新しい条例を提案したりするなど:第2回参照)を議会が適切に行使できるよう、議会全体を取りまとめていかなければなりません。
これまでの議長の選ばれ方
このように議会は、自治体で現在行われている事業や自治体の将来に大きく関わる政策などを決定する場所であり、そのような重い決断をするための組織を取りまとめる議長の役割は、大変重要です。
ところが、重要ポストであるべき議長の選び方は、とても簡単なものでした。例えば、「当選回数の多い順に行う」「会派単位で順番に議長ポストを回していく」「4年の任期内にできるだけ多くの議員が議長を経験できるよう就任期間は1年とする」などです。これらのことを、一部の議員だけで打ち合わせ、自分たちの組織を作り上げてきた議会が多くありました。形式上、議長を選出するための選挙は実施されるのですが、それまでには裏で調整が行われ、いざ議場に着席する際には話ができ上がっている、というわけです。ここには「政局」はあっても、「政策」で議長を選ぶということはありませんでした。
議長選挙の導入
自治体の現在や将来を決定していく議会のトップ(議長)を、オープンな場で施策を議論し公正に選ぼうという動きは次第に、議会で取り入れられ始めています。例えば、神奈川県議会で松田良昭議長(当時)が選出された際の議長選では、「議長マニフェスト」を候補者が掲げ、議論の結果、松田氏が選出されました。議長任期終了時には、外部の学識者にマニフェスト評価を依頼し、その後に検証まで行っています。
長野県塩尻市議会も2009年5月の議長選挙の際、それぞれの候補者が所信表明を行い、議長が選出されました。
議長選挙の効果
塩尻市議会の議長選挙における候補者の所信表明は、翌日の新聞にも掲載され、市民らと広く情報共有が図られました。そのときの議長選挙では、立候補者全員が議会改革の必要性を訴え、議会基本条例の作成を公約に掲げていました。こうした経過を踏まえ、議長選出後は議会基本条例が作成され、議会改革に向けて順次着手しています。その結果、早稲田大学マニフェスト研究所が行っている議会改革度ランキングで塩尻市議会は、2010年度は224位であったのが、2011年度は72位まで急上昇しています。
塩尻市議会に見られるように、議会の代表である議長の選出方法によって、その後の議会運営が大きく左右されます。議長は「私は任期中に○○をやります」と目標を掲げているため、就任後に何をやらなければならないかが明確となり、迷うことなく施策を進めていくことができるのです。
このように議長選挙の在り様によって議会改革の取り組み姿勢やスピードは異なり、いまでも慣例どおり仲良しこよしの談合型で議長選出を行っている議会との意識の違いはますます拡大していくこととなります。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。