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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第6回「『地方自治体における新世代の未来モデル構想』私案」(2012/10/10 神奈川県議会議員 中谷一馬/LM推進地議連)

ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟 連載・コラム

 政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。9月からは、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を開始しています。第6回目は、神奈川県議会議員の中谷一馬氏による「「地方自治体における新世代の未来モデル構想」私案」をお届けします。

◇        ◇        ◇

 神奈川県は日本で第2位となる907万人の人口を抱える、33市町村からなる県です。神奈川県議会の議員定数は107人で、私はその中の最年少議員として活動を致しております。

 議会では、将来にツケを残さず、希望に溢れた輝かしい未来を「想造」するために、そのトータルデザインとして、「地方自治体における新世代の未来モデル構想」私案を作成し、神奈川県で財政の健全化を図るための活動を中心に取り組んでいます。

将来世代が抱える問題の現状と新世代の未来モデル構想

 OECD(経済協力開発機構)によると、2012年時点の日本の債務残高は、対GDP比で219%を超え、地方債をあわせると約1000兆円の莫大な金額となります。これを国民1人当たりに換算すると約750万円であり、しかもこの負担を将来世代へ先送りされています。

 現在の社会保障制度は、現役世代が負担した保険料や税を集めて、その時点での高齢者に対して給付する賦課方式であり、2050年には現役世代1.3人で高齢者1人を支えなければならない状況で、これ以上踏襲できない状況にあります。また、医療・年金などの高齢者向けの社会保障支出と教育・子育て・労働問題などの未来を育てる投資との対比は約10:1程度の差があり、未来への投資をせずしわ寄せばかりが大きくなっています。

 私たち世代が将来の破綻を防ぐためには、異なる世代同士が対等に議論し、限られた資源を公平に配分して、全世代が共に豊かになるための成熟社会における持続可能な新しい行政システムを考えていく必要があります。そういったシステムを構築する次世代の政治家には、経済感覚・ICT・知識・経営能力が必要であり、そうした能力の重要性を将来世代の政治家・官僚が共有することが不可欠です。

 そうした観点から国民1人ひとりの生産性の向上を図るべく、行政・医療・教育など各分野に対してBPR(注1)を踏まえたICT化を推進し、クラウドなどの活用によるスマート化された社会を実現することで業務を効率化させ、時代の変化に合わせて社会ニーズを最速で実現できる自治体モデルを確立していきたいと考えております。まだ全国的にも実施例が少ない現状ですが、神奈川県が最先端事例となれるよう、実現に向けて尽力して参ります。

賦課方式の説明(出典:NPO法人Lights)
賦課方式の説明(出典:NPO法人Lights)
若年世代と高齢世代の「世代間対立」が取りざたされている(出典:NPO法人Lights)
若年世代と高齢世代の「世代間対立」が取りざたされている(出典:NPO法人Lights)

 また、地方自治体には、税収の落ち込みによる 厳しい財政運営を迫られている一方で、多様化・高度化する行政ニーズに対して、限られた行政資源を最も有効に配分することが、提供方法も含めて求められています。このため、行政資源を効率的かつ効果的に活用できるような行財政システムを確立することが必要不可欠です。

 そうした観点から、行政評価システムにおいても政策・施策の達成度を評価し、その必要性・妥当性・効果・効率性をより詳細に吟味し、実施すべき行政事業を適正化していく必要があります。具体的施策として、「トータルコスト(注2)」「アウトカム指標(注3)」での事業管理、二重行政の検証、約3,056あるすべての事務事業を評価、事業を性質によっての評価方法の仕分けなどといった視点を行政改革指針に取り入れるよう要望し、活動を行っております。

全国で初めてリバースオークションを導入 リバースオークションを導入

 その他、県緊急財政対策本部において、原則全廃の視点に立った県有施設の見直しが進められており、本庁機関も時代のニーズを見据えた再編が始まりました。 また、私自身、「財政再建の切り札」として常日頃から提言をさせて頂いていた、競り下げ方式の入札方法である「リバースオークション(注4)」を全国の地方自治体で初めて導入しました。その効果も予定価格の半額(49.9%)で調達が行われた事例を作ることができるなど、大きな効果がありました。

 このように1つひとつ着実に歳出削減と歳入確保策を図ることで、若年層世代の代弁者として財政の健全化を実現できるように尽力して参ります。

環境・境遇に関係なく頑張った人が夢を叶えられる社会の実現へ向けて

 私自身、母子家庭に育ち、当時は生活保護を受給していた世帯出身であることからこれまで、貧困の世代間連鎖防止に向けた取り組みに尽力して参りました。 振り返れば、当時の私は思春期以降、学習意欲がまったく沸かず、そのうえ、社会や環境に対する疑問や葛藤ばかりが募っており、中学校から全日制高校には進学せず、同じような思いを持った友人たちと不遇の思いをぶつけ合いながら日々を過ごしておりました。

神奈川議会議員 中谷一馬氏 神奈川議会議員 中谷一馬氏

 しかし、貧困から経済的自立に焦っていた私は、「このままではいけない。自分達を女手一つで育ててくれた母を支えてやりたい」といった思いが年齢を重ねるにつれて大きくなり、半ば諦めかけていた高校の卒業を経て、国家資格を取得し、手に職をつけることができました。しかし、その他の多くの仲間たちの口からは、機会や環境に恵まれていないことなどへの焦りや不満が次々と飛び出しました。 私はこの状況の一端が、社会に問題があるということを痛感し、「未来を担う若者達が夢を持てる社会を実現したい」という思いを抱き、他のすべての道を絶ち、思い切って政治の世界に飛び込み、未来の形成に人生を投じる覚悟をもって議員となりました。 私には人脈もお金も学歴もありませんでしたので、そこから政治家になるのはとても大変でした。しかし、「諦めずに努力やり続ければ夢は叶えられるんだ!」ということを私自身が体現することで、諦めてしまっている人たちに夢や希望を与えたいと思っています。

 貧困の世代間連鎖を解消するためには、十分な教育を受けることができず、必要な技能を持たないまま社会に出て行く貧困層の子供たちに対し、努力や能力の欠如として個人の責任に帰するのではなく、社会的な責任により、十分な教育の機会を与えていかなければなりません。だからこそ、たくさんの若者たちが輝けるための環境を整備し、その才能を最大限に生かし、日本から世界に変え、世界から未来を変えていくことこそが、私の議員としての挑戦です。

(注1)BPR…業務プロセス改革(Business Process Re-engineering)のこと。[記事に戻る]

(注2)トータルコスト…事業にかかる総費用のこと。初期費用であるイニシャルコストと維持費、更新費などランニングコストで構成される。[記事に戻る]

(注3)アウトカム指標…事業で直接発生した成果物(アウトプット)で表すのではなく、事業によって発生した効果・成果(アウトカム)を表す指標のこと。[記事に戻る]

(注4)リバースオークション…競り下げ方式の入札方法。買い手が欲しい商品の条件、希望額を提示し、最も安い額を提示した売り手と取り引きをする方法。[記事に戻る]

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著者プロフィール
神奈川議会議員 中谷一馬(なかたに かずま):1983年生(29歳)。母子家庭で育ち中学校卒業後、母親に負担をかけないよう、自らアルバイトをしながら高校に進学。その後、家庭を安定させるために手に職をつけようと柔道整復師の資格を取得。その傍らベンチャー企業の経営に参加し、後に慶応義塾大学に進学する。その過程において、社会への疑問・葛藤に直面し、使命感に駆られ、他のすべての道をたち切って政治の世界に飛びこむ。菅直人(第94代内閣総理大臣)の秘書を3年間務めた後、首藤信彦の公設第一秘書を務め、2011年統一地方選挙にて27歳で初当選し、神奈川県議会での史上最年少議員となる。またWorld Economic Forum(ダボス会議)のGlobal Shapers2011に選出され20代の日本代表メンバーとして多方面で活動中。2012年、第7回マニフェスト大賞で優秀政策提言賞を受賞。
HP:中谷一馬 オフィシャルウェブサイト
Blog:中谷一馬オフィシャルブログ「おもしろき こともなき世を おもしろく」Powered by Ameba
facebook:中谷一馬
twitter :@kazuma_nakatani
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