トップ    >   連載・コラム    >   LM推進地議連連載    >   崖っぷちの日本、まずは埼玉から変える!

【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第17回「崖っぷちの日本、まずは埼玉から変える!」(2012/12/26 埼玉県議会議員 沢田力/LM推進地議連初代共同代表)

ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟 連載・コラム

 政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。9月からは、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を開始しています。第17回目は、埼玉県議会議員の沢田力氏による「崖っぷちの日本、まずは埼玉から変える!」をお届けします。

◇        ◇        ◇

福澤諭吉の問題提起:独立自尊の精神

埼玉県議会議員・沢田力氏 埼玉県議会議員
沢田力氏

 埼玉県は、廃藩置県を受けて1871年(明治4年)10月14日に誕生し、それ以来140年ほどの歴史があります。同じころ、福澤諭吉(1835~1901年)は「一身独立して一家独立し、一家独立して一国独立し、一国独立して天下も独立すべし」と唱えました。独立自尊の精神は、『学問のすゝめ』(1872~76年)をはじめ、『分権論』(1877年)や『脱亜論』(1885年)などの著書に貫かれています。一国の独立はどうあるべきか、政治の中央集権を進め、どのように近代国民国家を形成するか、また行政の地方分権を進めて、地方自治をどのように育てるかなど、国づくりの基本方向や人材育成の重要性を説いています。福澤諭吉の著書は、ひも解くたびにいつも新鮮な感銘を与えてくれます。

戦後日本の「くびき」:日本国憲法と日米安保

 140年ほどが経過したいま、日本は米軍に守られているものの、近隣諸国に領土や主権を侵害され、国民の財産が日々減っていっています。さらに、いじめや虐待、自殺などが増え、殺伐とした世の中は混迷を深め、国難の度合いを増しています。近世以来、南蛮渡来とともに鎖国し、黒船来航とともに開国。その後、多くの先人の犠牲のもと、今日まで繁栄してきた日本は、果たして独立国と言えるか、日々考えさせられます。国家としての一体感がずいぶん希薄になっていまいか、公益よりも私益を優先する社会になってしまったのではないか、と思います。

 2012年は日本国憲法が施行されて65年目で、日米安保体制が発効してから60年目の節目の年でした。2013年はカイロ宣言から70年目を迎え、日本を取り巻く国際環境を見つめ直す好機を迎えます。戦後日本の基礎となっているポツダム宣言とサンフランシスコ体制、これらの「くびき」から解放され、日本が真の独立国になるためにも、私たち若い世代の役割や責任は重大であると思います。

 領土問題を巡る中国や韓国の言動は、かつての西欧列強諸国に似た帝国主義を想起させます。また沖縄駐留の米軍兵士による相次ぐ不祥事には憤りを覚えます。こうした中、愛国心をあおることは簡単ですが、内政外交ともに頭の切り替えと大胆さが必要でしょう。本稿では、最近の政治史を振り返りつつ、特に地方自治の視点から、埼玉県の挑戦の一端をご紹介させていただきたいと思います。

問題(1)政治の中央集権:未完の「政党政治」

2012年夏、衆議院議員・小泉進次郎氏(左)と、沖縄・糸満市の平和祈念公園「摩文仁の丘」を訪れた筆者子 2012年夏、衆議院議員・小泉進次郎氏(左)と、沖縄・糸満市の平和祈念公園「摩文仁の丘」を訪れた筆者

 福澤諭吉の唱えた政治の中央集権と行政の地方分権は、古くて新しい課題と言えます。1980年代から始まる政治構造改革の流れの中でも、東京大学教授であった佐々木毅氏が、「政治の集中と行政の分権を推進すべきだ」と指摘されていたのを思い出します。

 政治の中央集権は、自民党政権を覆した1993年と2009年の政権交代を経て、1994年に導入された小選挙区制ととともに、2大政党制が本当に定着したのか、民主主義が深化したのか、はなはだ疑問です。政党は、依然として離合集散を繰り返し、地元への利益誘導や対外強硬論にかたよりがちで、そのプロセスも輿論(よろん。「世論」にあらず)を形成する公器としては不十分です。日本に政党政治が誕生して100年以上の歴史がありますが、もっと成熟する必要があるようです。

 2003年1月に誕生した「マニフェスト」という言葉が、民主党とともに信頼を失い敬遠されがちな現状は、残念でなりません。「マニフェスト」を使いこなす政党やマスメディア、何より人材がもっと育つ必要があるでしょう。

問題(2)行政の地方分権:未完の「地方政府」

 一方、行政の地方分権は、2000年施行の地方分権一括法をはじめ、国と地方との対話が始まるなど、一定の進展をみています。理念としては、自治行政権をはじめ、自治立法権と自治財政権との併せ持った政府や議会が身近なところに存在し、自分たちの声を税制や条例などの形にして運営する仕組みを確立したいものです。ところが、地方自治体は団体にすぎず、「地方政府」とは言えない状態が続いています。

 目下、震災復興支援をはじめ、原発再開の是非、消費税増税、デフレ克服、TPP交渉、領土問題、1票の格差是正など、山積する諸課題を中央政府がいかに解決するかが喫緊の課題となっています。国の出先機関改革や道州制問題など、統治機構の抜本的な変革は二の次とせざるを得ない状態です。そうした中、関西地方の7府県と4政令指定都市が「関西広域連合」を形成し、九州や中部、あるいは東北地方などでも同様に特別地方公共団体(広域連合)を検討する動きがあります。

 統一国家としての一体感を保ちつつ、地方自治を確立するために、その裁量権や予算編成の範囲などを巡り、試行錯誤が繰り返されています。722名もいる国会議員の皆さまにおかれましては、ぜひとも利益の再分配ばかりを考えずに、地方自治や地方経済をいかに活性化するか、具体的な方策を現場とともに徹底的に議論し、着実に実践していただきたいものです。

問題に挑戦する埼玉県:日本をリードするモデルを提示

 ところで、140年ほどの伝統ある埼玉県では、こうした政治の中央集権と行政の地方分権の流れの中で、国がダメなら地方から改革に取り組み、全国をリードする新たな社会モデルを構築していこうという取り組みを試みています。

 2011年7月に上田清司知事が3期目に当選して以来、3種類の実験に挑んでいます。まず、商店街へ太陽光発電を導入など、市町村単位でエネルギーの地産地消を実現する「エコタウン・プロジェクト」を、本庄市や東松山市などで取り組んでいます。そして、企業内保育所の整備など、女性が働きやすい環境を整備して、女性の力で社会・経済を元気にする「ウーマノミクス・プロジェクト」を推進しています。さらに、急速な高齢化に直面するなかで、生活習慣病対策を徹底することで医療費を抑制し、高齢者がアクティブに社会に参加する枠組みをつくる「健康長寿プロジェクト」を、坂戸市や朝霞市などで実践しています。

 これらの試みは、県内各地のみならず、全国各地へと普遍性を持ちつつあります。ほかにも、自治会などによる防犯パトロールの普及拡大、商店街などを巻き込んだ高齢者の支え合い事業の展開など、公に頼らない自立自尊と共助の精神を埼玉県では体現しつつあります。

埼玉県議会も大胆な改革に挑戦

 定数94名の埼玉県議会もまた、議会改革などに果敢に取り組んでいます。

 まず、超党派で議会改革に取り組んでいます。2005年9月に自民党、公明党、地方主権の会および民主党の4会派で「議会あり方研究会」を設置して以来、議長公館・議員会館の廃止、議会バスの廃止(保持せず借り上げにした)、議員共有車3台の削減・廃止、費用弁償の減額、政務調査費の公開化(2010年7月から領収書1円以上公開)、知事部局が作成する5カ年計画に対抗して、議会主導で5カ年計画を作成(知事提出5カ年計画の審査基準とする)、および本会議の録音許可などを推進しています。

 次に、県議会の議席の6割を占める自民党県議団によって、議員提案の政策条例が続々と成立しています。2002年12月定例会以降の10年間だけも、11本の条例を作成・提案・可決してきました。中小企業振興、防犯対策、スポーツ振興、防災ヘリコプターの運航、歯科口腔保健および観光振興など、現場を知り尽くした議員が自ら筆を執って、成文化してきました。現在、生活保護受給者が増加しつつある現状を踏まえ、保護施設の不正を取り締まる条例案を作成中です。

 さらに、本会議や委員会での質問に備え、県議自らが視察へ赴く機会が増えつつあります。議会事務局経由で視察のアレンジを依頼する件数は、2009年度が27件、2011年度で56件、2012年度は11月末現在で61件と、増加傾向にあります。議員の政策立案能力の向上が、積極的に取り組みつつあります。

ポピュリズムの顛末(てんまつ)

 100年ほど前、言論弾圧が続き、時代の閉塞感が積もる中、政党はポピュリズムへ走り、輿論をまともに形成することなく、日本はその後、国際感覚を失って漂流した経験があります。そして今日、緊張感が増す国際環境のもと、山積する諸課題をどのように解決するべきか、国政や地方政治の現場から英知を結集する必要がある、と痛感します。「政党政治」や「地方政府」の完成に挑戦することなく、私たちが独立自尊の精神を忘れて私益に走るとき、日本の存亡にかかわる影響が直ちに出ると思います。

著者プロフィール
沢田力(さわだつとむ): 1967年12月25日、旧大宮市(現・さいたま市大宮区)生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。90~98年三菱商事勤務。穀物貿易や海外子会社経営などの従事。91~93年台湾師範大学・北京大学国際経済学院修了。90~2011年旧大宮市議、さいたま市議(連続3期)。市民生活委員長、浦和競馬議会副議長など。04~05年早大院修了(公共経営修士)。大隈賞受賞。05~07年ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟初代共同代表。11年~現在、埼玉県議会議員(1期目)。企画財政委員会副委員長など。自由民主党所属。
HP:沢田力公式サイト
BLOG:沢田力のブログ (埼玉県議会議員・大宮区選出)
facebook:tsutomu.sawada
LM推進地議連の連載コラム
第16回「議会不信からの巻き返し──『チーム大村市議会』の着実な歩み」(大村市議会議員 村崎浩史)
第15回「地域政党・長崎ちゃんぽん党!?」(長崎県議会議員 松島完)
第14回「真の地方分権時代に向け、いま議会・議員に必要なこと」(藤沢市議会議員 有賀正義)
ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟(LM推進地議連)連載コラム一覧
関連ページ
「第7回マニフェスト大賞 全国先進事例を学ぶ研修会」開催(2012/11/05)
第7回マニフェスト大賞 最優秀賞に『倉敷市議会 青空市民クラブ』など(2012/11/02)
第7回マニフェスト大賞授賞式・フォトギャラリー(2012/11/03)
第7回マニフェスト大賞 優秀賞38件が発表 優秀賞一覧表(2012/10/02)
ページトップへ