【仙台市×サーキュレーション】外部人材活用で新規事業創出、「地方中小企業のモデルケース」を全国へ発信――仙台市経済局長・遠藤和夫さん  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   【仙台市×サーキュレーション】外部人材活用で新規事業創出、「地方中小企業のモデルケース」を全国へ発信――仙台市経済局長・遠藤和夫さん

【仙台市×サーキュレーション】外部人材活用で新規事業創出、「地方中小企業のモデルケース」を全国へ発信――仙台市経済局長・遠藤和夫さん (2018/5/18 nomad journal

関連ワード : インタビュー 仙台市 宮城 

全国的に深刻化の一途をたどる人材不足。大都市圏はもちろんのこと、地方の中小企業にとっては特に大きな課題となっています。これを解決するために、プロフェッショナル人材が持つ豊富な経験と知見を地方の中小企業へ移転できないか――。そんな目的意識のもと、仙台市とサーキュレーションはこの春、政令指定都市では初となる「外部人材による新規事業創出プログラム」を立ち上げました。

プログラムを主導する仙台市経済局長の遠藤和夫さんは、「新しい風を呼び込み、仙台から中小企業の新たなモデルケースを発信したい」と話します。なぜ仙台市は外部人材活用による新規事業創出を目指すのでしょうか。その背景と展望、地元中小企業への期待について、サーキュレーション執行役員・福田悠が伺いました。

仙台市経済局長の遠藤和夫さんとサーキュレーション執行役員・福田悠さん

仙台の中小企業がワンランク上を目指すためには、「新規事業」が必要

福田 悠(以下、福田):今回のプロジェクトに至る背景として、まずは仙台市のビジネス環境や中小企業の状況について教えていただけますでしょうか。

遠藤 和夫氏(以下、遠藤):調査データを見る限り、現状は比較的安定していると言えるでしょう。ただ、東日本大震災の後の復興特需で大きな風が吹いていた頃と比べると、現在はそれが収まった「凪」の状態だと思います。阪神・淡路大震災の後は、神戸市の中小企業が復興後の事業拡大に苦労していたと聞いています。同様のことが仙台でも起きるのではないかと心配しているところです。

福田:「凪」の状態のままではいられないと。

遠藤:はい。すでに復興の先をにらみ、前を向いている中小企業経営者は多いのですが、そのための人材確保が非常に難しいという現状もあります。意欲があっても、実行するための資源確保ができない。これは多くの企業に共通する課題だと思います。

福田:首都圏も含め、全国的に「超人手不足」と言える状況が続いていますね。特に地方の中小企業は大きなダメージを受けていると思います。そうした中で、今回なぜ「新規事業」にフォーカスしたのでしょう?

遠藤:経済産業省などの白書を見ると、企業がワンランク上のステージへ成長するために必要なのが新規事業であることは間違いありません。それが直接的に増収や雇用増につながるからです。既存事業で雇用維持はできたとしても、新規事業がなければ新たな雇用を生み出すことはできない。しかし、新規事業に取り組んでいる地元企業はまだまだ少ないのが実情です。

福田:仙台の中小企業には、既存事業に頼りがちな傾向があるということですか?

遠藤:その傾向はあると思います。新規事業を展開するためには、現状の社内にはない知識やスキルを持った人材が必要です。ただ内部で人を育てるのは非常に時間がかかりますし、新たにそのような人材を雇用しようとすると一般的には年収1000万円レベルが必要となるでしょう。そうした投資を中小企業が行うこともまた、難しいのです。だからこそフレキシブルに外部人材の力を活用できる仕組みが必要だと考えていました。

仙台市経済局長の遠藤和夫さん

「既存人材や組織との摩擦」を恐れなくてもいい

福田:そうした必要性の一方、外部人材を活用していくことを考える上で、「既存の人材や組織との間に摩擦が起きるのでは」といった懸念はありませんでしたか?

遠藤:もちろん仙台市経済局の内部ではそうした議論もありました。ただ、外部人材活用といってもさまざまな分野があります。既存事業の生産性向上や、管理部門の効率化といった分野では、社内人材との摩擦が生じることもあるかもしれません。しかし今回私たちが掲げているテーマは「新規事業」です。新しい取り組みを始めるわけですから、既存の人材や組織との摩擦はそこまで心配しなくてもよいと考えています。経営者が掲げるビジョンや戦略に見合う外部人材と組むことを前提に考えるなら、なおのこと摩擦の恐れはなくなるでしょう。

福田:「この取り組みによって本来発生するべきだった雇用が奪われてしまうのでは?」という声はありませんでしたか?

遠藤:新規事業を形にしていくことは、企業の増収増益に寄与し、新たな雇用を生むことにもつながります。結果的にこのプロジェクトは雇用を増やす方向へと作用するはず。外部のハイレベルな人材に来ていただくことで、新たなビジネスを前に進められるようになることはもちろん、企業の風土そのものを進化させることも期待できると思っています。積極的に変化と進化を続けるような企業が、ここ仙台にも増えていくのではないかと。

福田:おっしゃる通り、外部人材を活用することが新規事業の展開だけでなく、風土改革にもつながることを示せれば、大きな発信となりますね。地方中小企業のモデルケースにもなれるのではないでしょうか。

遠藤:そうですね。ぜひとも、仙台から全国へ良い事例を発信していきたいと思います。

サーキュレーション執行役員・福田悠さん

必要となる場面に応じて、さまざまな外部人材の力を借りられる

福田:私たちもぜひ、全国へ良い事例を届けていきたいと考えています。今回のプロジェクトを発足させるにあたり、パートナーとしてサーキュレーションを選んでいただいたポイントは何だったのでしょうか?

遠藤:さまざまな観点でパートナー選びを進めました。決め手となったのは、サーキュレーションさんからご提案いただいた「アイデアフラッシュ」の手法です。企業の課題や目指す姿に合わせて、約1万名の専門家から新規事業のアイデアを募ることができるというのは大きな魅力ですね。「想定よりもずっと優れた仕組みだ」と感じました。

福田:ありがとうございます。中小企業と一口に言っても、「こういうことをやりたい」とアイデアがすでに明確になっているケースもあれば、「何をやればいいのか分からない」というケースもあると思います。

遠藤:同感です。アイデアの「熟度」も経営者や新規事業担当者によって異なるでしょうし、いざアイデアが固まれば、その後には実行に移すための実務力も必要ですからね。リスクを背負って1人を雇用するのと、場面に応じて複数の方に支援をいただける可能性があるのとでは、中小企業にとっての取り組みやすさも変わってきます。

福田:私たちがこれまでに関わってきた事例の中には、外部人材である専門家が企業に深く入り込み、結果的には役員になったというケースも多々あります。まずは外部人材の知見や経験を仙台の中小企業へ移転していきたいと考えていますが、将来的には「さらなるコミットメント」も期待できるかもしれません。

仙台市経済局長の遠藤和夫さんとサーキュレーション執行役員・福田悠さん

経営アドバイザーとして力を借りることは、次期経営者の育成にもつながる

福田:遠藤さんは今回のプロジェクトを進めていくにあたり、どのような成果を期待されていますか?

遠藤:私は現職の前に、仙台市の東京事務所で勤務していたんです。その頃に東京で目の当たりにした人材の流動性に比べると、仙台は皆無に等しい。今回のプロジェクトを通じて外部人材を活用するモデルケースができれば、それが事例となって、「地元だけではない、新たなつながりの可能性」を多くの中小企業に感じてもらえるようになると期待しています。

福田:中小企業経営者にとっては、身近な地域、身近な仲間の中でモデルケースが生まれることも重要ですよね。

遠藤:はい。中小企業においては「代替わり」の時期を迎えているところも多く、経営者が自分で新規事業をやるというよりは、次代の方が意欲を燃やしているというケースもあります。しかし、後を継ぐ若い人たちの右腕となるような人材が社内にいないんです。経営アドバイザーのような形で力を借りることにも、外部人材活用の意義があると思いますね。

福田:「次期経営者を育成する」という観点もあると?

遠藤:はい。特に新規事業への投資判断などは、相応の経験がなければ難しいと思います。豊富な経験・知見と、外部人材ならではの俯瞰的な視点からアドバイスをいただけることは、次世代の経営者にとって大変貴重な経験になるはずです。

福田:このプログラムの先に、仙台市としてはどのような展望を描いているのでしょう?

遠藤:外部人材の活用によって新しい風を呼び込めれば、その後は新規事業だけでなく、さまざまな分野で同様のスキームを展開していけるのではないかと考えています。ベンチャーが地域の中核企業として育っていけるような環境も整えたいですね。都市としての規模が近い福岡市さんとよく比較されるのですが、中核企業や上場企業の数では大きな差があります。そうした意味では、私たちも新しい取り組みに関するPRを積極的に進めていかなければならないと思っています。

仙台市経済局長の遠藤和夫さんとサーキュレーション執行役員・福田悠さん

仙台の中と外で、うまくキャッチボールをしていきたい

福田:仙台にはユニークなベンチャーが続々と生まれている印象もあります。震災後に、東京などから地元へ戻って働きたいと考える方が増えたことも影響しているのでしょうか?

遠藤:そうですね。東京に限らず、日本全国から人が集まっています。「地域や社会のために働きたい」という考えで仙台周辺へ来てくださる方も増えました。こちらへ定住し、社会課題解決型のビジネスを立ち上げた方の話も聞いています。農業や漁業などの産業は一度壊滅してしまいましたが、そんな状況から「元通りにしよう」とするだけでなく、新たな付加価値を生み出そうとする試みも進んでいます。ものによっては1000円を超えるような価格がつくいちごを作ったり、クラウドファンディングのようなスキームで支援を募って漁業の新しい可能性を見出したり。

福田:まさにイノベーションですね。仙台市では、そうした動きをどのように後押ししているのですか?

遠藤:「アシ☆スタ」という起業支援センターを作り、厚生労働省とも連携して起業・創業の支援を行っています。セミナーや交流イベントを開催したり、ビジネスプラン策定のアドバイスを行ったりという形です。また最近では、社会課題解決型の起業を目指す方を集めて、「ソーシャルアクセラレーションプログラム」を開催しています。さらに、よりステップアップしていく意欲をお持ちの経営者へ向けて、加速を支援するアクセラレータープログラムも実施していますね。海外との関係も強化し、フィンランド共和国との連携協定で、健康・福祉分野におけるITを活用した製品の開発も進めています。

福田:多様な取り組みを進めていらっしゃるのですね。最近では経済分野にとどまらず、地方創生や活性化が日本中でキーワードになっています。この点で、重要であると思われるポイントがあればぜひ教えてください。

遠藤:人口減少という観点では、東北はもちろん縮小傾向にあるマーケットです。しかし、違う地域と連携することで可能性が広がります。仙台はもっともっと、東京をはじめとする他地域との連係を深めていく必要があるでしょう。これは人だけではなく、モノについても同じことが言えます。モノの回転速度が倍になればお金の回転速度も倍になり、その分所得を増やすことができます。中から外へ売ることだけを考えると一方通行になってしまうので、「仙台の中と外でうまくキャッチボールをしていく」という姿勢を大切にしたいですね。

福田:ありがとうございます。今回のプロジェクトには、多くのプロフェッショナル人材に手を挙げていただきたいと考えています。最後にぜひ、仙台市の魅力を教えていただけますでしょうか。

遠藤:一般的な仙台人の気質を考えると、外部から来た人を迎え入れた経験が少なく、最初は「とっつきにくい」と感じることがあるかもしれません(笑)。しかし、一度腹を割って話すと深い絆を持てるようになるのが仙台人でもあります。今回のプロジェクトはもちろん、その先もずっと続く良い関係性の入り口にできればと思っています。また、ワークライフバランスやQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を考えると、仕事も生活も充実させられるという意味で、仙台市は非常にバランスの良い都市だと思っています。東京までは新幹線で1時間半という恵まれた立地でもあり、おもしろい技術やビジネスモデルを持つ企業もたくさんあるので、ぜひご自身の肌で体感して頂きたいですね。

取材・記事作成:多田 慎介

提供:nomad journal

関連記事
女性リーダー育成プログラム好評 仙台市など企業向けに毎年開催 自身の強み分析し成果生かす
民泊規制の条件「管理体制」が最多 「全面禁止」18.9%、「規制必要ない」16.7%
仙台市が条例で民泊を規制 住居専用地域の営業は土曜日のみ
大田区が自治体初の試み 特区民泊にサイクルポート
未来自治体全国大会2018―「30年後、最も住みたい街」をネット投票で決定!
関連ワード : インタビュー 仙台市 宮城