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同一労働同一賃金ガイドラインのポイント (2017/1/11 企業法務ナビ

関連ワード : 労働・雇用 

はじめに

政府は先月20日、パートや有期雇用などの非正規労働者の処遇改善を促すことを目的として同一労働同一賃金のガイドライン案を発表しました。基本給、手当、福利厚生のそれぞれについてどのような場合が問題となるかが具体的に示されております。今回はガイドライン案のポイントを見ていきます。

チームワーク

ガイドライン案策定の経緯

本来賃金等の処遇については労使交渉によって決定すべきものですが、日本の正規・非正規の処遇差は欧州に比べて大きく、昨今同一労働同一賃金を求めて訴訟にまで発展するケースも増えております。そこで政府は正規・非正規の不合理な格差を是正すべく賃金決定や能力と待遇の関連性を明確化したガイドラインの策定を目指しております。ガイドラインの基本骨子は労働契約法20条やパートタイム労働法8条、9条に規定されている正規・非正規間の「不合理な相違」の禁止の具体化にあります。近年の訴訟でも主にその点が争われてきました。また現段階では企業側に不合理な待遇差に該当しない旨の立証責任を負わせる制度は盛り込まれていませんが、賃金決定基準に格差がある場合はより明確な説明が求められております。

ガイドライン案のポイント

(1)基本給について
基本給の決定に際して、労働者の経験や能力、業績や成果、勤続年数に応じて支給しようとする場合には原則的に正規・非正規で同一の支給をしなければならないとしています。つまりパートタイム等の有期雇用労働者がフルタイム労働者と同一の能力等を有している場合には基本給のそれに応じた部分については同一の支給を、一定の差がある場合にはそれに応じた支給をしなくてはなりません。具体的に問題となる例として、職業経験の差を理由に支給額に差が生じていても、現在の業務とは関連性が無い職業経験が加算されている場合が挙げられております。また勤続年数に応じた支給をする場合、有期雇用者の勤続年数を最初の雇用から通算せずに有期契約の時から起算する場合も問題となります。再雇用の際に以前の雇用分を通算しない場合が該当することになります。

(2)手当について
ガイドライン案では各種手当についても支給条件を満たす場合には原則として正規・非正規で同一の支給をしなければならないとしています。具体的に挙げられているものとして、賞与(ボーナス)、役職手当、特殊作業手当、特殊勤務手当、精皆勤手当、時間外労働手当、深夜・休日手当、通勤手当、食事手当、単身赴任手当、地域手当となっております。これらに関しては正規労働者には支給しているが非正規労働者には支給していない、非正規労働者にも支給しているが合理的な理由なく格差があるといった場合は問題となるとしています。今回のガイドライン案ではこれら以外の家族手当や住宅手当に関しては記載が見送られております。

(3)福利厚生について
福利厚生についても基本給や手当と同様に正規・非正規で原則同等の待遇を与えなければならないとしています。食堂や休憩室といった福利厚生施設の利用、社宅の利用、慶弔休暇や健康診断に伴う勤務免除、病気休職、その他の法定外休暇等の付与を非正規にも同様に与えなくてはなりません。慶弔休暇や健康診断に関し、パートタイム労働者の勤務日外に振替で対応といった方法を採る場合には合理的な待遇として問題とならないとしています。

(4)その他
派遣労働者に関しては詳細な記載はなされず、派遣先の労働者と職務内容が同一である場合には同一の支給を行うべきとするのみであり、また定年後再雇用者についても今後の法改正に伴って検討すべき項目としています。裁判所での判断が別れている問題でもあり、今後の最高裁の判断を踏まえた検討を予定しているものと考えられております。

コメント

 今回のガイドライン案はあくまでも現時点での中間報告的な位置づけであり、労働関連法の具体的な法改正に合わせて確定していくことが予定されております。つまり現段階では上記ガイドライン案を踏まえた対応が義務付けられているというわけではありません。しかし最終的にはこれと同等か、さらに踏み込んだ内容のものが確定する可能性もあると言えます。

 労使問題に関しては具体的な裁判例の集積によって基準が形成されていくことが本来想定されますが、それでは相当の時間を要することになります。そこで政府主導での基準の策定に乗り出したものと言えます。また安倍首相の提言する非正規雇用を無くすという思想からも企業にはこれまでと違った対応を求められることになる可能性は高いと言えるでしょう。特に今回は記載が見送られた企業の立証責任や説明責任については何らかの形で具体化されるものと思われます。現段階から非正規職員の待遇について合理的な説明ができるよう準備をしておくことが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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