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【カラーユニバーサルデザインを考える・前編】消防職員採用時における色覚検査、横浜市や野田市で廃止へ (2018/3/15 カラーユニバーサルデザイン推進ネットワーク)

 北川正恭 早稲田大学名誉教授が審査委員長を務める第12回マニフェスト大賞において、カラーユニバーサルデザイン推進ネットワーク(以下、CUDN)の「消防職員採用時における色覚検査実施状況調査」が、優秀政策提言賞を受賞しました。CUDNの取り組みによって、全国的に消防職員採用時における色覚検査の在り方について、議論が加速しています。

 このCUDNの事務局を務める伊丹市議会議員のやまぞの有理氏、松戸市議会議員の関根ジロー氏、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構の伊賀公一氏・田中陽介氏へのインタビューを2回にわたってご紹介します。

50人以上の議員がSNSなどを通じた呼びかけに賛同

――CUDNはどういったきっかけで立ち上げ、どのようなメンバーが参加しているのか教えてください。

【やまぞの】 CUDNは「超党派議員」「NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構と関連団体」「学生」が協力して、消防職員の採用時における色覚検査実態調査し、その合理性を問題提起する取り組みと、色弱者(眼科学会では色覚異常者)にとっても色の識別がしやすくなったチョーク(以下、色覚チョークと呼ぶ)」を全国の学校に普及させる取り組みを行っています。

【関根】 調査のきっかけは、私が、色弱のある松戸市消防職員から「故郷である東北のとある消防本部に就職したかったが、採用時に色覚検査を求められ門前払いされる可能性があったため、色覚を求めない松戸市消防本部(学生時代に住んでいた街でもある)を希望し入局することができた」という声をいただいたことをきっかけに、「同じ消防業務なのに、地域によって色覚を理由に就職制限されるのはおかしい」と思いました。

 Facebookなどを通じて仲間の議員たちに共有し、全国的な消防職員採用時における色覚検査の実施状況がどうなっているか調査をすることを呼びかけた結果、2017年8月にCUDNのサイトを立ち上げることになり、9月には36都道府県50人以上の超党派議員や、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構、北海道カラーユニバーサルデザイン機構、人に優しい色使いをすすめる会、CUDをすすめる会に協力していただけることになりました。

色覚が採用に影響する理由は合理的か疑わしい

――調査結果を教えてください。

【伊賀】 36都道府県の532消防本部で、(1)採用時に色覚検査をするか(2)その結果は採用に影響するか、というアンケート調査を実施しました。結果は、消防職員採用時において「色覚が採用に影響されない」と回答した消防本部が半数近くを占め(表1)、かつその理由について「色弱があっても消防業務に支障がない」と回答しています。

 また「色覚が採用に影響する」と答えた理由(表2)をCUDNで分析したところ「合理的であるかは疑わしく、カラーユニバーサルデザイン推進をはじめとした職場環境整備・配慮で解決できる可能性が高い」ことが明らかになりました。

カラーユニバーサルデザインを考える(前編)1

カラーユニバーサルデザインを考える(前編)2

【田中】 例えば、「運転免許/青赤黄色判別」(信号機の識別)は、色弱が運転免許の欠格事項となっていないので、事実誤認の可能性が高いです。炎や煙の色判別は、すべての隊員が炎(または煙)の色の違いに対応する知見を持っているか極めて疑問があります。

 実際にとある消防本部に問い合わせたところ、炎や煙の色の判別をするための色票や試験方法は無いとのことでした。顔色などの判別は、色弱が医師免許の欠格事項となっていないなかで、消防職員に色覚を求めることは合理的ではないと言えます。

 トリアージ判別(手当ての緊急度に従って優先順をつけること)については、トリアージタグの判断は必ずしも色だけではなく、タグの切り取り状況から判別可能です。ロープの色判別は、多様な色覚に配慮したカラーユニバーサルデザインを採用すれば解決できます。そのほかの理由も、合理的とは言えず、環境整備・配慮で解決できる可能性が極めて高いです。

横浜市・野田市などの自治体で色覚検査廃止へ

――調査結果をどのように受け止めていますか。

【伊賀】 そもそも、2001年に厚生労働省が労働安全衛生規則を一部改正して、雇入時健康診断における色覚検査を廃止し、就職に際して根拠のない規制を行わないよう通達がなされています。消防職員採用時において、色覚検査を実施する合理性が疑われる調査結果が明らかになったことで、色覚検査を実施している消防本部は見直しを迫られるのではないでしょうか。

【やまぞの】 実際に、CUDNの調査がテレビをはじめ多くのメディアで報道されたこともあり、横浜市・野田市をはじめ全国の自治体で色覚検査の廃止の動きが加速しています。2017年12月7日付の東京新聞によると、合否に影響しないとしながらも色覚検査を実施している横浜市の林市長は、「色覚検査は必要ない。消防局に改善してもらうように話した」と述べています。

【関根】 今回の取り組みを通じて、色弱の年配者から「昔、『リトマス紙を判断できない』との根も葉もない理由で理系の大学に入れないなどの差別を受けた。子どもや孫に同じ思いをさせたくない。色弱者を排除するのではなく、社会の色彩環境を、多様な色覚を持つ様々な人にとって使いやすいものに改善していくという考えに感謝したい」と言われました。反響の大きさを実感しています。

野田総務大臣が消防庁に対応を検討するよう指示

――今後の取り組みを教えてください。

【田中】 現在、日本に色弱者は約300万人いて、男性は20人に一人、女性は500人に一人の割合とされています。消防に限らず、色覚を理由に就職制限される多くの職業について、これまでその合理性を誰もチェックしてきませんでした。

 国は色覚を理由に就職規制している業種について精査・検証し、「合理的な理由があり、カラーユニバーサルデザイン推進をはじめとした職場環境の整備・配慮で解決できない業種」を明確化し、可能な限り職業規制をなくすことで、児童生徒が特定の職種を諦める必要がない社会を実現すべきだと思います。

【やまぞの】 今後、消防職員採用時における色覚検査の必要性の有無について、全国的な議論を巻き起こす一助となるべく、すべての都道府県へ活動を拡げると同時に、仲間議員と協力してそれぞれの議会において、「消防採用時における色覚検査の在り方」について問題提起の質問を行う予定です。

【関根】 また、国に対して消防職員採用時における色覚検査の必要性の有無について見解を求めるべく、大西健介衆議院議員に協力していただき、2月18日の衆議員予算委員会において「消防採用時における色覚検査に関する質疑」をしていただきました。

 大西議員が「同じ消防業務を行っているのに、各消防本部によって色覚を理由に就職制限しているところと、そうではないところがあるのはおかしい」等の質問を行い、それに対して野田聖子総務大臣は、「消防庁として一定の考え方を示すなど、対応を検討するように指示を出した」ことを明らかにしました。

【伊賀】 消防庁が結論を出す前に、総務大臣に対して「消防職員採用時において色覚検査を実施する理由を精査し、その結果を全国の消防で共有するとともに、理由の合理性を説明できない時、色覚検査を実施している消防本部に対し色覚検査の廃止を通知すること」、また「カラーユニバーサルデザインをはじめとした、職場環境整備・配慮を推進することを全国の消防本部に通知すること」などを要望する予定です。

(後編は「色覚チョーク」がテーマです)

CUDNホームページ

関根ジロー 松戸市議会議員

関根ジロー(せきねじろう) 松戸市議会議員 [ホームページ]
マニフェスト大賞3年連続7度受賞/【発起人・事務局】カラーユニバーサルデザイン推進ネットワーク、避難者カード標準化プロジェクト、東葛政令市移行推進協議会、学校トイレの洋式化推進ネットワーク、選挙公報.com/松戸市議会議員(2期連続最年少当選)/1984年生/上本郷小・明大明治中高・明治大法卒。明治大学公共政策大学院(池宮城秀正ゼミ)修了/前職はNTT東日本/O型・かに座・子年
関根 治朗氏プロフィールページ

 
やまぞの有理 伊丹市議会議員

やまぞの有理(やまぞのゆり) 伊丹市議会議員 [ホームページ]
1985年8月伊丹生まれ・伊丹育ち/明治大学公共政策大学院修了(北大路信郷ゼミ)/マニフェスト大賞受賞(第11回12回と連続受賞)/2011年伊丹市議会議員選挙において1507票を得て初当選(当時25歳最年少当選)現在2期目 無所属/
山薗 有理氏プロフィールページ

 
カラーユニバーサルデザイン機構の副理事長 田中陽介

田中陽介 NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長
1968年神奈川県生まれ。学生時、就職活動を通じ自身の色覚のハンデを痛感する。就きたい職業がパイロット、刑事、レスキュー隊員だったが、米国では色覚異常者であっても“夜間飛行禁止”等条件付きで操縦士になれることを知り、大学卒業後に資金を貯め1991年渡米、米国FAA Private Pilot certificate取得。同年運輸省自家用操縦士技能証明(固定翼)取得。1995年より家業に従事する傍ら色覚問題研究グループぱすてる世話人を務める。2003年まで色覚110番、色彩検討協力事業を担当。2004年NPO法人CUDO発足メンバーとなり現在、副理事長。2011年より東商カラーコーディネータ―検定試験認定講師。

 
NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長 伊賀公一

伊賀公一 NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構 副理事長
1955年10月徳島県生まれ。P型色覚の色弱者。早稲田大学社会科学部を中退し全国無銭旅行ヒッピー生活の後、アップルコンピューターディーラー役員、ベンチャー企業役員などを経て2007年「ソラノイロ」を設立。「自由研究者」として多様な文化へのITの関わりを支援。2004年だれにでもわかりやすい配色を普及させ、だれもが自分の色覚に誇りを持てる社会の実現のために、NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構の設立に参画し副理事長に就任。1級カラーコーディネータ 湘南工科大学 デザイン科 特任講師。2009年グッドデザイン賞 団体ディレクターとして受賞。著書「色弱が世界を変える(太田出版)」他。

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