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曜日やシーズンの制限は的外れ―住民ニーズに適した民泊条例を (2018/2/23 政治山)

民泊条例は住民の実情を反映しているか

 昨今では、「民泊」が注目を浴びています。民泊とは一般的に、「民家・マンション・空き家等において宿泊すること」と言われています(*1)。民泊は「住宅宿泊事業法(以下、民泊新法)」において大枠が定められている一方で、各地域が条例によって詳細な制度設計をできるようになっています。

 新宿区で制定された民泊条例を皮切りに、各地域で議論、制定されつつあります。一方で、このような条例の制定には地域住民の意見・実情が反映されたものとなっていない懸念も生じえます。

 今回、政治山が行った調査からは新宿区等の条例にみられる宿泊の曜日などを制限する規制、京都市等の条例にみられる街が混雑する観光シーズンの利用を制限する規制は、民泊経験者および民泊非経験者の多くが必要なものとして評価していないこと等がわかりました。現在の制定・議論されている条例が地域住民の民意を十分に反映しきれていない可能性が示唆されます。

世界的に拡大する民泊需要

 現在、世界経済はシェアリングエコノミーの流れの中で、さまざまなサービスを「共有する」という潮流にあります。その中でも民泊は世界中の旅行者に安価に宿泊ができるサービス・地域の住民や同じような旅行者と交流ができるサービスとして浸透しつつあります。一方、我が国ではこれから東京オリンピックを迎える予定であり、開催時に不足する宿泊部屋数への対応および地域住民との交流の手段としての民泊への需要が見込まれます(*2)。

民泊

 この度、政治山(株式会社VOTE FOR)では2017年11月に民泊の認知状況に関する調査を実施し、全国にお住まいの3178人から回答をいただきました。

 結果をご紹介する前に、民泊関連法令の制定の状況について振り返ってみましょう。

厳しさ競う民泊条例、法の趣旨逸脱も

 早くから民泊条例の制定に携わってきた大田区と新宿区、さらに、観光地として京都市および軽井沢町において制定されている、もしくは予定されている条例について紹介します。

 東京都大田区は国家戦略特別区域を活用した民泊(特区民泊)により民泊の旗手としての役割を担ってきました。特区民泊として最短で2泊3日での民泊が認められています。しかし、住居専用地域での民泊を一切禁止し、ホテル等の建築が可能な用途地域に制限される予定です。住居専用地域での民泊禁止は比較的厳しい条件といえます(*3)。

 東京都新宿区においては、住居専用地域では金曜正午から月曜正午までおよび祝日の正午から翌日正午までの宿泊事業の営業を許可、すなわち土休日のみ営業可能なものとしています(*4)。

 また、京都府京都市では、住居専用地域の住宅宿泊事業を制限し、民泊の利用を閑散期である1~2月に制限することとしています。ただし、家主居住型および一定の要件を満たした京町家については制限の対象外とする予定です(*5)。

 最後に、長野県軽井沢町は町内全域で民泊を全く認めない通年規制を行いたい旨を県に要望しています。国際親善文化観光都市および保健休養地としてのまちづくりを展開してきたために、不特定多数による利用と風紀を乱す恐れを理由として挙げています(*6)。

 ただし、大田区および軽井沢町に制定されている条例では、民泊の稼働を全く認めないいわゆるゼロ日規制となっており、民泊新法のガイドラインには通年禁止が適切ではない旨が記載されています(*7)。また、消防法令適合通知書の交付申請が条例によって届出書類に含まれる地域があるなど、国の方針と必ずしも一致しない自治体が複数あるように見受けられます。

 以上が民泊を取り巻く現状です。これらを踏まえて、いくつかの調査項目について検討してみましょう。

10人に1人以上が民泊経験者

 最初に、民泊の利用状況について検討しましょう。ここでは利用状況について、「民泊に泊まったことのある人」および「民泊のホストになったことがある人(他の人を泊めたことがある人)」の両者をあわせて「民泊経験あり」として分析することとします。

(グラフ)民泊利用経験の有無

 まずは全体的な傾向を見てみると、11.9%の人が「民泊を利用したことがある」と回答しました。およそ2年前(2015年12月)に実施した調査では7%の人が「利用したことがある」と答えており、緩やかに増加していることがうかがえます。

 続いてもう少し個別具体的な項目について検討してみましょう。

70%以上が「騒音・ゴミ」問題を懸念

 最初に、民泊に対する懸念事項について検討します。調査の中で、騒音・ゴミに対する懸念に関する文章を読んでいただき、文章に対する説得力の評価から、それぞれに対する懸念を明らかにしました。

(グラフ)騒音への懸念
(グラフ)ゴミへの懸念

 騒音に対する懸念、ゴミに対する懸念のいずれもについて、民泊経験者と民泊非経験者の70%以上の方が強度に差があるものの説得力があると評価しています。これらの調査結果は民泊経験がある人も騒音・ゴミに対する懸念をされていることを示しており、相応の対策が求められることが示唆されています。ただし、実際に影響を受けた方がいるかどうかは今回の調査からはわかりません。また、これらに対して、ガイドラインにおいて宿泊事業者が責任をもって対応するように定められているために、政策上はこれらの懸念に対する適切な対策がとられていると考えられます。

民泊経験者の80%以上が「高齢者への経済的サポート、オリンピック対応」のメリットを支持

 続いて、民泊によるメリットについて検討しましょう。ここでは民泊による高齢者への経済的なサポート、そしてオリンピックへの対応という2点から検討します。

(グラフ)高齢者への経済的サポート
(グラフ)オリンピックへの対応

 ここでは高齢者が働きに出なくとも、年金以外の収入を得る手段となり得る旨の文章(以下、高齢者への経済的サポート)と、東京オリンピックの開催が迫る中で、さまざまな宿泊施設の提供を重要視する旨の文章(以下、オリンピック対応)を読んでもらい、その説得力について評価をしてもらいました。

 高齢者への経済的サポート、オリンピック対応について尋ねたところ、民泊経験のある人は合計すると80%以上の方が支持する結果となりました。一方、民泊経験のない方々であっても60%近くが支持しています。

 いずれの結果についても、民泊経験がある人とない人で大きく評価が異なるという結果になりました。民泊によるメリットは大きいものであると考えられる一方で、一度体験をしてみなければ十分に伝わらないのかもしれません。

民泊経験者は交流可能性を高く評価

 次に、民泊のもたらす可能性の一つとして、ホストや住民と宿泊者の関係について考えてみましょう。ここでは、ホストや住民と交流を深める可能性についてどのように評価をするのか尋ねました。

(グラフ)交流の可能性

 民泊の経験を有している人が1.5倍ほどの割合で交流を深める可能性が高いと評価しています。もしかしたら、民泊経験をしたことがない人にはわからない新たな交流や関係性を民泊によって構築することができるかもしれません。このことは地方創生の流れでも重要視される関係人口の増加にもつながるものと考えられます。

民泊の曜日、シーズン制限の優先度は低い

 続いて、必要とされる規制と必要とされない規制について検討してみましょう。

 さまざまな規制が想定できる一方で、過剰な規制は大きな経済効果をもたらす可能性のあるシェアリングエコノミー推進の妨げになる恐れもあります。一方で、規制が無さすぎれば、かえって違法民泊が横行する恐れもあり住民にとって不快なものとなってしまい、犯罪の温床などにもなってしまうかもしれません。したがって、必要な規制と必要ではない規制を見極める必要があります。

設問の概要
2018年6月に施行される民泊新法では、年間稼働日数の上限を180日とし、ホストは都道府県への届出をするなどさまざまなルールが定められています。仲介業者は観光庁への登録が義務付けられ、違反者には厳しい罰則が適用されます。各自治体が地元住民の生活環境を悪化させないよう、以下の追加の措置を検討しています。それぞれについて必要か不要かを示してください。
必要とされる規制の優先度に関する設問(凡例)
【シーズン制限】街が混雑する観光シーズンを避ける。
【曜日制限】週末あるいは平日のどちらかを避けるなど、宿泊の曜日などを制限する。
【家主不在禁止】住居専用地域全域で管理者に管理を委託する「家主不在型」の民泊を禁じる。
【マンション禁止】住居専用地域のマンションの空き部屋で「家主不在型」の民泊を禁じる。
【地域制限】住居専用地域全域での民泊を禁じる。
【家主居住限定】住宅提供者本人が管理して自宅を貸す「家主居住型」に限定する。
【管理会社管理】「家主不在型」の場合は、管理会社によってきちんと管理させる。
【宿泊税徴収】宿泊税の課税対象とした上で、税金の取りこぼしがないような仕組みを整える。
【継続的見直し】条例制定から半年後など、一定期間を経て見直す。
【わからない】わからない

 ここでは、今までと同様に民泊経験がある人とない人を比較しながら検討します。まずは民泊経験がない人からです。

(グラフ)必要とされる規制の優先度(民泊経験なし)

4人に1人が何らかの規制必要

 図中の棒グラフは回答者のうち、チェックした人数の割合を示しています。また、黒線は「わからない」以外のいずれかの項目にチェックを入れた方、すなわち規制が必要であると答えた人数の平均%を示しており、24.6%の人が何らかの規制の必要性を指摘しています。

 最も多いのは管理会社管理の必要性で、これは民泊新法のルールに含められており責任をもって管理する組織の関与が求められています。これについては民泊経験のない人のうち、40%近くが必要性を感じているという結果になりました。続いて、マンション禁止、宿泊税徴収と続いています。第4位には継続的見直しが入っています。民泊の必要性を感じながらも「わからない」ために、経験した上で見直して政策をブラッシュアップするという、新たな政策のあり方が求められているのかもしれません。

 一方、規制が最も不要とされているのはシーズン制限です。観光シーズンはホテルだけでは十分に対応しきれていない、というのが地域住人の評価であるといえます。一方で、観光シーズンでは対応しきれないニーズへの補完的役割を民泊には求められているのかもしれません。続いて、曜日制限、家主居住限定、住居専用地域における地域制限と続きます。

 続いて、民泊経験がある人について検討してみましょう。

(グラフ)必要とされる規制の優先度(民泊経験あり)

 同様に、図中の棒グラフは回答者のうち、チェックした人数の割合を示しています。また、黒線は「わからない」以外のいずれかの項目にチェックを入れた方、すなわち規制が必要であると答えた人数の平均%を示しており、25.3%の人が何らかの規制の必要性を指摘しています。

 最も多いのは管理会社管理の必要性であり、民泊経験がない人と同様の傾向です。続いて、宿泊税徴収、継続的見直し、マンション禁止と続いています。一方、最も少ないのは曜日制限であり、シーズン制限、地域制限、家主居住限定、家主不在禁止と続いています。

 家主不在禁止については民泊経験のない人にとっては比較的必要と評価されていましたが、民泊経験がある人は比較的不要であると評価されています。

 また、民泊経験のある人に比べて、民泊経験がない人の方が「わからない」と答えている割合が大きい結果となりました。これは民泊経験がない人にとっては全くわからない状況、すなわち民泊に対する十分な知識がないためにわからないと答えているものと考えられます。同様に、曜日制限やシーズン制限の必要性が、民泊経験がある人の方が高いのは、「わからない」を選択した人は民泊経験がない人よりも多いことに起因しているのではないかと考えられます。

管理の徹底は必須、稼働日の制限は行き過ぎ

 さて、調査結果をまとめます。概要は以下のとおりです。

  • 騒音・ゴミに関する懸念は、民泊経験の有無にかかわらずに大きい。
  • 住宅宿泊事業者・住宅宿泊管理業者・住宅宿泊仲介業者の連携によりこれらの懸念を最小限にできるように計画を立てる必要がある。
  • 高齢者への対応・オリンピック対応を高く評価しているが、民泊経験者はより高く評価している。
  • 高齢者にとっての新たなビジネスチャンスとなりえる。
  • 日本政府が目標とする訪日外国人旅行者数、訪日外国人旅行者消費額等(2016年2404万人3.7兆円→2020年4000万人8兆円)を評価すると、民泊はホテル・旅館等では賄いきれない旅行者に対応可能であると考えられる。
  • 管理会社管理・宿泊税徴収・継続的見直し・マンションの禁止が求められる一方で、シーズン制限・曜日制限は比較的必要だと考えられていない。

 最後に、今回の調査から想定される、民泊条例に盛り込まれるべき項目・盛り込まれるべきでない項目について検討してみましょう。

住人と利用者のニーズに即した制度設計を

必要と思われる規制
管理会社管理
住宅宿泊事業者のみならず、住宅宿泊管理業者・住宅宿泊仲介業者との連携が必要不可欠である。最低限のクォリティの担保にもつながるし、住宅宿泊管理業者、もしくは住宅宿泊仲介業者により身元が把握されることにより、宿泊者相互の安心にもつながると考えられます。
宿泊税徴税
日本国内における一事業として実施されるために、適切な納税は必要不可欠です。
継続的見直し
民泊自体が十分に理解されていないため、実際に体験・経験してみなければ評価できない点もあると考えられます。したがって、一度制度を作った上で、定期的に評価をする中で柔軟に見直していくことが必要であると考えられます。
検討が必要な規制
マンション禁止
マンションについては民泊経験者および非経験者のいずれもが規制が必要であると評価しています。一方で、マンションの空き家が増えているのも事実であり、適切な対応がなされるのであれば、それらを有効活用することも必要であると考えられます。
不要な規制
家主不在禁止
家主が不在であっても、管理(業)者がいれば十分に許容されるものであると民泊経験者が評価しています。
地域制限
住居専用地域全体を対象とした規制は、民泊経験者は顕著に規制に否定的です。また、非経験者も積極的に規制に肯定的であるとは言えません。
家主居住限定
住宅宿泊事業者による直接的な管理のみならず、住宅宿泊管理業者によって管理される民泊も受け入れられるべきだと考えられます。
曜日制限
曜日による制限は民泊経験者および民泊非経験者も必要なものとして評価していません。
シーズン制限
街が混雑する観光シーズンの制限は民泊経験者および民泊非経験者も必要なものとして評価していません。

 なお、家主不在禁止・地域制限・曜日制限については一般社団法人シェアリングエコノミー協会も同様の意見書を各自治体に提出しています(*8)。

 全般的に利用経験がない人が否定的な考えなのは「わからない」ことによるものと想定されます。一方で現在の経済の流れを踏まえると、シェアリングエコノミーの流れ、そして民泊への流れを妨げることはできないでしょう。

 民泊条例には潜在的なニーズを含めた利用者の期待に答えるのと同時に、民泊を利用したことがない住人の不安を払拭するような制度設計が求められます。さらに、事業者はこれら2点を踏まえて参画する必要があると考えられます。行政も闇雲に規制するのではなく、許容し得るものは許容する、という観点が新たな時代の事業育成につながるのではないでしょうか。

【脚注】

  1. 厳密に言うと、「住宅宿泊事業」とは、旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第三条の二第一項に規定する営業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数として国土交通省令・厚生労働省令で定めるところにより算定した日数が一年間で百八十日を超えないものをいう。」と、住宅宿泊事業法で定義されています。http://www.mlit.go.jp/common/001212371.pdf
  2. 宿泊部屋数の予測についてはみずほ総研のリポートをご参照ください。
    https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/report/report17-0922.pdf
  3. 東京都大田区:https://www.city.ota.tokyo.jp/gikai/honkaigi_iinkai/honkaigi/h_29/4teirei/2904kuchoteisyutu.files/2904_kuchogian75-80.pdf
    http://www.city.ota.tokyo.jp/kuseijoho/press/release29/2017120802.html
  4. 東京都新宿区:
    http://www.city.shinjuku.lg.jp/kenkou/eisei03_002079.html
  5. 京都府京都市:
    http://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000225952.html
  6. 長野県軽井沢町:
    http://www.town.karuizawa.lg.jp/www/contents/1458017665354/index.html
    http://www.town.karuizawa.lg.jp/www/contents/1458017665354/files/minnpakusisetutoutoriatukaikijyun.pdf
  7. ガイドライン:
    http://www.mlit.go.jp/common/001215784.pdf
  8. 一般社団法人シェアリングエコノミー協会の意見書:
    http://sharing-economy.jp/ja/wp-content/uploads/sites/2/2018/01/opinion_180129.pdf
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