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特別対談-後編- 異才発掘プロジェクト「ROCKET」渋谷区版も開始へ、学校以外にも選べる道を (2017/8/22 政治山)

(前編から続く)

沢渡氏
僕らはROCKETに集まる子どもたちに、「普通の生き方は諦めよう」とよく言うのです。君は変わっていてユニークなのだから、君にしかできない生き方をやってみよう。それを応援するよと。
清家氏
子どもたちの未来が見えるようになって行けばいいと思います。親はまず、それで食べて行けるのかなと心配してしまう。だから、そっちの道でも大丈夫だよって、現実になって行ってほしいですよね。
沢渡氏
ROCKETもまさにそこで、保護者との戦いでもあります(笑)。
清家氏
社会の中でそうした道が見えてくれば、教育のあり方も大きく変わってくると思うのです。産業構造は大きく変わってきているのに、教育はまだまだ変わって行かない。このROCKETの取り組みが、申し込んでくる子どもたちを全部受け入れるくらい大きく事業展開するようになって、広く市民権を得るようになっていけば変えていくことができるのではないでしょうか。
ROCKETのプロジェクトマネージャーを務める沢渡一登 日本財団公益事業部国内事業開発チームリーダー(左)、清家あい港区議会議員

ROCKETのプロジェクトマネージャーを務める沢渡一登 日本財団公益事業部国内事業開発チームリーダー(左)、清家あい港区議会議員

自治体にノウハウを提供して少しずつ変えていく

沢渡氏
このプログラムは、第9次教育再生実行会議の提言の中で、先進事例として取り上げられまして、それから行政からの引き合いが増えてきています。例えばROCKETのプログラムの渋谷区版を作るといったことも始まっています。
清家氏
それは、どういう形で作るのですか?
沢渡氏
渋谷区と連携しながら、学校の中では対応できない部分を、我々がお手伝いする形で、トップランナー講義を用意したり、困難さの部分をサポートするプログラムを用意したり、という形です。
清家氏
対象は渋谷区民になるのですね。
沢渡氏
そうですね。より多くの子どもたちを受け入れることができる形になると思います。他の自治体からもお声掛けいただいているので、ROCKETのノウハウを提供し、広げていくことに繋げられたらいいなと思っています。
清家氏
それは良いですね! 保護者のニーズがすごくあるので、港区でもやりたいです。それから、学校も政治の世界もITの導入がすごく遅れてますよね。

沢渡氏
そうですね。テクノロジーの対応も学校ではハードルが高いですよね。2016年に施行された障害者差別解消法によって「合理的な配慮」が義務付けられて、読み書きに困難のある子がタブレットなどを利用して勉強できるようなったとはいえ、iPadを持って授業に参加することを学校が許してくれないというケースが、いまだにあります。社会に出ればどんどんテクノロジーを活用しているのにもかかわらず、なかなか学校ではそれが認められないというのは、とても不思議に思いますよね。
※具体的な支援策

※具体的な支援策

清家氏
議会も同じで、持ち込めないのです(笑)。それで今ICTの導入をやっている所なのです。学校も政治の世界もどうしても閉鎖的になりがちなので、もっと新しいものがどんどん入っていくようにしていきたいですね。

テクノロジーを活用して閉鎖的な世界を開いていこう

沢渡氏
イギリスに面白い仕組みがあります。学校にかかる予算を子ども一人当たりで出すことができますよね。イギリスでは、学校に不登校の子どもがいると、その子どもの分の予算を戻させる。そして、そのお金を不登校の子ども向けのフリースクールなどに振り向けていく。そうした工夫で、オルタナティブな教育を維持しているのです。
清家氏
いいですね!オルタナティブな教育って、日本で受けさせようとすると、結局お金持ちしかできないじゃないですか。お金のある家庭は、学校が合わなかったらそっちに行かせることができますよね。でも多くの人はそうはいかない。
沢渡氏
その逆にフリースクールのようなオルタナティブな教育を行う所は、財源に課題があるわけですよね。その税金の配分を変えていくことができないのかなと思っているのですが。
清家氏
そうですね。ただ日本の教育は、市区町村レベルではなかなか変えられない所があって、現在の教育委員会制度というのは、戦前の反省から政治に左右されないように作られたシステムなので、新たなことをやっていくのはとても難しい。そうした中で、渋谷区と組んで少しずつでも実行していくのは素晴らしいことです。港区でも進めたいです。
沢渡氏

我々も港区にある財団ですので、ぜひ(笑)。それから、教育バウチャーのような制度も進めてほしいですよね。今までは学校に予算を付けていたわけですが、それを人に付けて、その人が自由に選択できるようにする。そのためには、教育バウチャー制度が不可欠だと思うのですよね。そうすると、必ずしも既存の学校に通わなくてもよくなり、選択肢も増えてくると思うのです。

今の学校でやっていける子どもはそれでいいし、オランダのように自分たちで学校を作ってもいい、バウチャーを使って学校に通わなくてもいいとか、いろいろな選択肢を作ってあげるのが大切だと思うのですね。日本の教育への考え方は、まだまだ医学モデルなので治療的なアプローチ、どうしても診断をして直そうとする。

清家あい 港区議

ポジティブに諦めることが必要

清家氏
療育もそうですよね。
沢渡氏
そう。まさに療育というのはそうなのです。早期発見、早期療育。ソーシャルスキル・トレーニングなんていうのは、まさに治療なのです。でも、そうした治療の対象とされているのは、そもそも個人の性格なのだと考えたら、それを直そうとするのは無理がある。
清家氏
ただ、それが合う子どももいるのですよね。
沢渡氏
それが合う子にとっては、それでいいのです。ですから、決して否定はしないのですが、よりグレーな子になればなるほど、そうした治療的なアプローチは明らかに合わないわけです。それだったらそこはポジティブに諦めて、その子の持っている能力を伸ばしていくといった方向に進む方が自然だと思うのですよね。
清家氏
そうですよね。
沢渡氏
それがまだまだ医学モデルの日本だと、治療に走ってしまう。それが結果的に子どもを潰してしまって、2次障害、3次障害を招いているのが現状だと思うのです。その結果、薬漬けになってしまっている子どもなんて本当にかわいそうです。ちゃんと病院に行って薬を処方してもらわなければ受け入れませんと言って、子どもを受け入れない学校もあるくらいですから。
清家氏
そこまで学校がやるくらいだったら、やっぱりオルタナティブな学校というか別のシステムを作らなきゃダメですよね。来ちゃダメって言うのなら、他のモノ物作ろうよって話です。
沢渡氏
代替の学習機会が保障されているのなら、別に学校に通うことにこだわる必要は無いと思います。
清家氏
必要無いですよね。そのもう一つの道の保障が足りないのだから、その道を切り拓いていきたいです。

自治体や大学との連携を通して面的に広げていく

沢渡氏

そうですね。ROCKETはもともと5年間ということで東大と始めたプロジェクトで、公教育を補完するモデルを提示する所までは来ていると思います。そこで得られたノウハウをいかに各地域に還元していくかが次のステップになると思っています。ですから、これからは自治体との連携を進めていきたいです。

あと相談の件数が本当に多いのですが、それぞれの地域に相談できる窓口を作る必要があると思います。僕らは子どもを潰さないことが重要だと思っていて、そのためのファーストステップが相談なのです。そうしたことを研究している機関というのは、きっと東大だけではなくて、頑張っている地方の大学の教育学部などもあると思いますので、連携して、各地域に窓口を作っていきたいと考えています。

ただ、そうした所はお金がありません。地方の大学はどんどん研究費を削られているので、そこで我々の財団が研究費的に支援させていただくということも考えています。行政、自治体との連携と、地方の大学の研究室との連携を通して、このプロジェクトを面的に広げていくことが、次のフェーズと考えています。

清家氏
渋谷区は、長谷部区長が多様性に柔軟な姿勢を示しているから実現に至ったのですか?
沢渡氏
区長もそうですが、担当の職員の方が大変熱心で、このプロジェクトをずっと見に来て勉強されていました。その上で区長まで説得していただけたのだと考えています。やはり熱心な現場の職員の方がいると変わりますよね。
清家氏
ROCKETの現場は見に行くこともできるのですか。
沢渡氏
はい。メディアにも公開していますので、ぜひどうぞ。9月には渋谷区でのプロジェクトも始まりますから。
清家氏
それはぜひ見に行きたいです。よろしくお願いします!

沢渡一登 日本財団公益事業部国内事業開発チームリーダー

硬直化を打破して、好きなこととか幸福を大事にできるように

清家氏
一人ひとりが好きにしていいのだよと子どもに言える、みんなが好きなこととか幸福になることを一番大事にするのが教育であるべきなのですけど、なかなかそういうふうにはなっていない。みんなそう思っているはずなのに、そう変わっていかないのは教育制度の硬直化が凄まじいというのはあると思うのです。保護者の側も、こうしなきゃいけないのじゃないかとか、失敗したらどうしようという不安が強いですよね。そうじゃなくてこういう生き方もありますよと、こうしたROCKETのような存在がもっと広まって、親も安心できるようになると、学校に求めるものも、もっと変わってくるのではないかと思いますね。
沢渡氏

日本って、どうしても型から入る文化がありますよね。学校も、型を大事にします。授業中は先生の眼を見て聞いていなきゃいけないとか。でも大事なのは、授業の内容を理解することであって、先生の眼をずっと見て、おとなしくしていることではないと思うのですよね。歩きながらの方が聞きやすい子もいるでしょう。何かしながらの方が聞きやすかったら、それを認めてあげるだけでも、だいぶ変わってくると思うのです。

どうしてもみんなと同じにしていることにこだわりすぎている嫌いが、日本の学校にはあるのかなとは思っています。そこはポジティブに諦めることによって、みんなが抱えている生きづらさが少しでも緩和されたり、生きづらくなくなったりすると思うのですよね。私も親なので、自分の子どものこととなるとなかなか難しいのですが。

清家氏
確かに、自分の子どものこととなると、なかなかうまくいきませんね(笑)。

何もせず、ただ見守ることも大事

沢渡氏

学校も親も、もう少し子どものことを信頼してあげるのが重要だと思います。親がいろいろ先回りしてしまって、その結果、子どもを潰してしまっているケースが、ROCKETの相談でもたくさんある。今って、ムダなことが排除されて、効率ばかりが優先される世の中になってしまっているじゃないですか。でも、ムダなことこそ、大人になって役に立つこともある。親も先生も学校も、そうしたものを許容してあげたらと思うのです。

ずっと何かを考えているのだけれど、外から見ると何もしてないように見える子どももたくさんいます。そうした時間が実は彼らには大切な時間なので、信頼して先回りしないで見守ってあげる。ムダなことをさせてあげる。失敗させてあげる。そうしたことを大切にできたらと感じています。

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