特別対談-前編- 異才発掘プロジェクト「ROCKET」不登校の特権を生かして、自由に学ぶ  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   特別対談-前編- 異才発掘プロジェクト「ROCKET」不登校の特権を生かして、自由に学ぶ

特別対談-前編- 異才発掘プロジェクト「ROCKET」不登校の特権を生かして、自由に学ぶ (2017/8/21 政治山)

 日本財団と東京大学先端科学技術研究センターが共同で行っている「異才発掘プロジェクトROCKET」は2014年12月に開校し、現在1~3期生が在籍しています。ユニークな子どもたちが自由に学ぶROCKETは、学びの多様性をどのように実現しているのでしょうか。

 今回は、議員として子育て環境や教育問題に取り組み、ご自身も子育てに奮闘している清家あい港区議会議員と、ROCKETのプロジェクトマネージャーを務める沢渡一登 日本財団公益事業部国内事業開発チームリーダーにお話をうかがいました。

沢渡一登さん(左)と清家あい議員

沢渡氏

現在産業構造が大きく変化している中で、日本社会の中でさらなるイノベーションを期待する声は、大きいと思います。しかし、日本の教育システムは、そうした期待に応えるものになっていません。現状の日本の教育システムは、オールマイティーで協調性のある人材養成を行うという点では、非常に優れていると思います。ただそこには、突き抜けた子どもたちの凸の部分を伸ばすという点が欠如しています。そこで、こうした日本の教育システムの枠に当てはまらない子どもたちにポジティブに対応して、その才能を伸ばしていくプロジェクトとしてROCKETは始まりました。

もちろん公教育を否定しているわけではありません。8割の子どもたちを、一定のレベルにまで押し上げていくシステムとしては、日本の公教育は優れていると思います。ただ、そこにフィットしない2割の子どもたちの行き場が無い。代替する、オルタナティブな教育システムが無いという所が問題点だと思っています。

2014年からスタートして、毎年500名を超える方々から応募をいただいていますが、その中から1期生は15名、2期生は13名、昨年度の3期生は31名を選抜して、現在では約60名の子どもたちと一緒にプログラムを行っています。

ユニークな子どもたちを潰さず、凸の部分を伸ばす

沢渡氏

学校でイジメにあう。なかなか親にも理解してもらえない。理解する人がいなくて、潰されてしまったりするんです。だから、僕らは家でもない学校でもない第三の場所で、親でもない学校の先生でもない第三の大人が関わることで、その子どもをしっかりと認めてあげて、その子どもが潰されないで生きていくようにするのが、何よりも重要だと思っています。

そのユニークさの反面、当然苦手なこともあったりしますので、そういう所はテクノロジーで補っていくのも特徴の一つです。ユニークな子に多いのは、読み書きに困難を持っているケースです。読み書きの問題はIQとは関係なく生じますが、ディスレクシアという言葉も最近は広まってきているとはいえ、学校でも理解されなかったり、親でも理解していなかったりするケースがたくさんある。これは、専門家がしっかりと見ないと分からない所だと思うので、積極的に専門家の知見を活かして、テクノロジーで補っていく。テクノロジーで苦手な所は補って、自分のやりたいことを突き詰めて考えていく。そのためのサポートを行っているということです。

※将来のイメージ

 

ROCKETに参加している子どもが、多くの大人たちが望むような、いい大学に入っていい企業に就職してという生き方をするというのは、たぶん難しいと思います。だから僕らは、それをポジティブに諦めて、あなたにしかできないことをやろう、好きなことをとことん伸ばしていこう、というアプローチをしています。だから、子どもたちには、将来好きなことを仕事にするという生き方をしてもらえたらと思っています。このプロジェクトでは、好きなことは教えない。その代わり、好きな事を仕事にして生きていくための生き方や、そのために必要なものを教えています。

好きなことで生きていく、トップランナーに学ぶ

沢渡氏

ROCKETでの学びのスタイルですが、ここに選抜された子どもたち(スカラー)は全国にいますので、月に1回、東京大学先端科学技術研究センターの教室に集まってもらっています。そこでトップランナー講義を聞く。これは、各業界のトップランナーの方をお招きして講義をしていただきます。

また、料理や掃除洗濯など、身の回りのアクティビティから教科学習につなげる、スタイルで、Project Based Learning(PBL)という学習プログラムも提供しています。ROCKETに参加している子どもたちの多くは不登校ですが、基本的には在籍校がありますので、例えば東京にプログラムのために来ている場合には、それを校長先生の裁量で出席として認めていただくといった連携もしております。

それから、孤立しがちな保護者の情報交換の場というものを積極的に設けて、保護者会を開くなどして、先輩お母さんのお話を聞いていただいています。

※学びのスタイル

 

トップランナー講義には、ロボットクリエイターの高橋智隆さんとか、陸上の為末大さんのように、好きなことを突き詰めて、それを仕事にしている人たちをお呼びしています。子どもたちも、本当にこのまま好きなことを続けていっていいのかなと、不安に思っているわけです。そんな子どもたちに、ロールモデルとして、そういう生き方をしている人たちの姿を見せる。好きなことを仕事にして生きている人たちからのメッセージというのは、子どもたちの背中をすごく押してくれていると思っています。

ROCKETに教科書は無い、時間制限もない

沢渡氏

PBLというのは、身の回りにあるアクティビティから教科学習につなげていくものです。ROCKETは教科書や時間制限が無いことを特徴としています。一見すると家庭科の授業のように見えますが、何を作ってもいい。写真のように、いろんな種類の新鮮なイカを用意して、「はい、好きに調理していいよ」という感じで授業を進めます。教科書があると、みんなその通りに作って、それが正解になりますよね。けれどもこのプログラムは、自分が好きなようにやって構わない。そうすると、10人いたら10通りのプレートができ上がる。

その上で、例えばイカは火を通すと丸まったりしますよね。それは筋繊維の問題があったりするわけで、生理学や生物学につながっていく。また、同じイカなのに、なぜ国産と海外産ではこんなに値段が違うのだろうと疑問を持つ。そうした所から、子どもたちの好奇心が湧くような学び方をしています。

それから、スカラーの子どもたちは、自分のやりたいことをどんどんやっていくというのが基本的なスタンスですが、自分だけでは限界も出てくる。そうした時のために申請書を書いて、僕らにリクエストできる制度があります。こういう研究をやりたいからこういう場所に行ってみたいとか、研究のためにこういう材料が必要だとか。全部が全部かなうわけではないのですが、こうした申請をすること自体が、プレゼンテーションの練習にもなると考えています。

ROCKETのプロジェクトマネージャーを務める沢渡一登 日本財団公益事業部国内事業開発チームリーダー

沢渡一登 日本財団公益事業部国内事業開発チームリーダー

読み書きが苦手な子どもを正当に評価する

沢渡氏

そして、これまでの活動から見えてきた実態としては、高知能あるいは高学力なのに不登校状態の子どもがいるというのは、当初からある程度分かっていましたが、予想以上に多いということです。不登校の統計を見ると、学習の遅れやイジメは見えてきますが、例えばでき過ぎるから不登校になっているとか、そういうものは見えてこないわけですよね。

ROCKETに応募する子どもの特徴として、1つはオールマイティー型と言っているのですが、何にでも興味を持つタイプの子がいます。先生を質問攻めにしちゃうような子ども。その逆に、凸凹型で1つのことにしか興味がないという子もいます。そして驚くべきは、こうした子どもたちの3分の1に書字や構文障害があるということです。

この辺がユニークさともリンクしていますが、日本の教育は、教科書を読んで、テストは書くという形なので、読み書きが苦手な子どもは正当に評価されない。それで自信を失ってしまって不登校になる。実はユニークな才能を持っているにもかかわらず、読み書きが苦手なためにその才能を開花できないというケースが数多くあるのだということが、このプロジェクトを通じて見えてきました。

ROCKETの選考基準は 突き抜け感と困難さ

清家氏
これだけの応募に対して、どういった基準で選んでいるのでしょうか?
沢渡氏
最初は書類審査。次に書類を通過した子ども全員に面接をします。地方の場合はお宅まで訪問しています。選考基準の一つは、「突き抜け感」ですね。このプロジェクトは、子ども自身にやる気があるというのが、重要なポイントなのです。ですから、やりたいことをどんどん実践しているというのは重要です。もう1つは困難さ。この子は学校では難しいだろうな、家でもこのまま放っておいたら大変だ、という困難さ。この突き抜け感と困難さのバランスから、総合的に判断して選抜しています。
清家氏
どれくらいの頻度で行っているのでしょうか?
沢渡氏
1カ月に1回東京に来ることに加えて、実は先週も北海道に合宿で行っていたのですが、10日から1週間の合宿を年に数回行い、、テーマごとのフィールドワークなどをやっています。
清家氏
ほとんど不登校の子どもなのですか?
沢渡氏
完全不登校の子どもと、部分不登校の子どもはいますが、基本は不登校です。

不登校の特権は、時間があること

清家氏
不登校で、自分で好きなことをやっている子どもが対象なのですか?
沢渡氏
はい。不登校の子は時間があり余っているので、僕らはそれを「不登校の特権」と呼んでいるのですけれど、その特権を生かして面白いことをやろうというコンセプトです。
清家氏
1年で大きな変化があったりするのですか?
沢渡氏
僕らとしてはここに来ている子どもたちが潰れていないというのが、一つの大きな成果だと思っています。もともと学校に通っていなかった子どもが、このプログラムを通じて学校にまた行くようになった、という変化も見られたりします。
清家氏
行かないままの子もいるのですよね?
沢渡氏

もちろん行かないままの子もいます。僕らは別に学校に戻ってほしいと思っているわけではない。ただ、生物学者になりたいという子どもがいて、今までは生物にしか興味が無かった。けれどもこのプログラムを通じて、学校も利用して知識を得ていかないと本当に学者になることはできないと気づいて、ポジティブに学校に行くようになったという子どももいます。

なぜそういうことが起きてくるかというと、このプロジェクトに参加したことによって、気の合う友達ができ、失敗しても戻る場所があるという安心感を得られたからかもしれません。そうした安心感が、知識を吸収する場として学校を使ってやろうというモチベーションを生んでいっていると思うのです。

失敗しても戻る場所があるという安心感

清家氏
友達がいなくてもいいよ、という感じでやっているのですよね。
沢渡氏
そうです。友達はいなくていいから、自分の好きなことを突き詰めよう、ということで始まったのです。それが、学校では友達がいなかった子どもが、ここでは友達ができるというのも不思議とは思うのですけど(笑)。それは、気の合う仲間が学校単位ではいないかもしれないけど、県単位だったら一人くらいはいる。全国単位だったら100人くらいいるかもしれず、そうした仲間と出会える場にも、このROCKETはなったのだという結果でもあります。時々、俺はもう学校行くからいいよと、寂しいことを言う子どももいますが、それはそれでいいんです。
清家あい

清家あい港区議会議員

世界一幸福度の高いオランダの「イエナプラン」

清家氏

リヒテルズ直子さんという教育・社会研究家の方が、「世界で一番幸福度の高いオランダの教育」として紹介されていた記事を読んで、会派でオランダの教育を視察に行ったことがあります。視察した「イエナプラン」というオルタナティブ教育を実践している小学校は、親や地域の人たちが自分たちで学校を運営しているのです。何人かが集まると自分たちで学校を作れるのですね。そして、子どもたちは自分たちで時間割まで決めることができる。子どもの主体性を一番にしていて、異年齢の学び合いを大事にしていて、そして毎朝みんなで時事問題について意見を出し合っている。その様子には感動を覚えました。

一定数の人間が集まれば自由に学校を作れて、生徒一人当たりで国から補助金も出るので、こうした学校運営ができるのですね。学校の人気が無くなれば潰れるし、人が集まり続けたらずっと続いていく。全部自分たちで決めていく。イジメもなくて、子どもたちの幸福度も高い。みんな自分たちのやりたいことを見つけて卒業していく。日本でもそうした学校を自由に作れたらと思います。

ちなみに、この「子どもの幸福度調査」は2007年にユニセフが行った調査で、日本は子どもが「孤独を感じる」という項目で断トツの1位でした。

沢渡氏
日本は、選択肢が無さすぎますよね。
清家氏
その通りです。港区は人口が増えていることもあって、発達障害を持つお子さんの数も増えています。その中でも、特に尖った才能を持つお子さんが行く場が無くて困っています。外国人が多い地域の学校だとまだ多様性があるので、そうした地域の学校に親御さんが行かせたがるというくらいの選択肢はありますけど。
沢渡氏
ROCKETでも、帰国子女の子どもからの応募も多いですよ。

学校と保護者が何でも安心して言い合える空気を作っていく

清家氏

息が吸えないというか、日本の学校が息苦しいという感じはよく分かります。帰国子女だけでなく、繊細な子や優しい子、皆苦しくなってしまうと思います。保護者と学校がちゃんと対話ができていなければ、学校の空気は絶対に悪くなっていくと思うのです。「子どもを人質に取られているようなものだから、学校や先生には文句が言えない」という保護者の気持ちもよく分かります。

一方で、保護者からの苦情に敏感になって警戒してしまう学校の気持ちも分かる気がします。そこで対話ができないから、教育委員会に保護者から苦情が来て、教育委員会が学校に指導を入れて、それで学校がガチガチに縛られていく。そうした悪循環が続いているように思えます。

学校と保護者が、何でも安心して言い合える空気を作っていくことが、大事なのだなと思います。現在の日本のように社会が成熟してくると、学校も家庭も管理型になってしまって、子どもたちの逃げ場がどこにも無くなってしまっているように思えます。このROCKETも、月1回ではなくて、もっと学校に近いものにするという構想は無いのでしょうか。

ROCKETは公教育を補完する仕組みとしてあえて学校にしない

沢渡氏

そうですね。ただ学校にしてしまうと、先程のお話にあったような縛りがたくさん出てきてしまいますよね。僕らは公教育を補完する仕組みとして、あえて学校にしない。学校ではない場所がある。それが子どもたちにとっても大事だと思うのです。

例えば、ボウリングのピンを立てるピンセッターという機械があるのですけど、それにしか興味がない子がいます。彼は、ピンセッターがどういう動きをするのかを確かめるためにボウリング場に通い続けて、結果的にパーフェクトゲームをしてしまうほど上手くなったのです(笑)。

今はボウリング場でアルバイトをし始めて、ピンセッターにも触らせてもらって、自分の好きなことを続けている。最終的に彼が日本を代表するような、ボウリングのピンセッターのエンジニアになってくれたら嬉しいですよね。そういう生き方が、「いいね!」と多くの人に言ってもらえるような社会に、日本もなって行かなければいけないと思うのです。

今ある仕事のほとんどがAIに取って代わられてしまうとも言われている中で、生き残っていけるのは好きなことを徹底的にやって、自分で仕事を作っていく、そういう子どもたちなのではないかと思うのですよね。遠回りしているように見えるけど、時代に対しては最先端の生き方をしているのかなと。そういう生き方を社会がポジティブに捉えるようになっていってもらえると、日本も面白くなってくるのかなと個人的には思ったりします。

普通の生き方は、ポジティブに諦めよう

清家氏

ビジネスの世界では既にそうなっているのに、学校だけが昔のままで付いてきていないという感じがします。従来の詰め込み型の教育は、確かにもうコンピュータ全盛の時代なので、以前ほどの価値は無くなっています。それよりは、思考力、探究力、想像力などをベースとした構想力のようなものを深めていく教育にシフトしていかなければならない。世界的にも、そうした方向にシフトしていますよね。国際バカロレア教育の広がりも、その1つだと思います。

それを受けて、日本の大学入試制度も大きく変わってきていて、国際バカロレアを適用した特別入試を導入する大学も増えています。国立大学協会も、2021年度までに定員の3割を、推薦入試、AO入試、国際バカロレア入試の枠とすることを掲げたりしています。

また、2020年からは、大学入試センター試験の内容の一部が、国際バカロレア教育に準じたものになるとも言われています。そうなって来ますと、今ある受験圧力のようなものも変わっていくので、やりやすくなって行くのではないかと思います。そうした中で、突き抜けている子たちはどんどんやっていけるからいいのですけど、このROCKETの選考からもこぼれしまったような子どもたちが心配です。そうした子どもたちのためにROCKETのような別の道が、もっと広く示されるようになっていくといいですよね。

(後編へ続く)

関連記事
「異才発掘プロジェクトROCKET」3期生31人決定
学校になじめない子どもはどこへ―インタビュー特集
お母さんの心が壊れる前に―インタビュー特集
子ども中心のまちづくりで人口増と税収増―泉房穂 明石市長に聞く
ソーシャルイノベーション関連記事一覧