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聴覚障害を乗り越え政治の世界へ ―真山仁・おときた駿・斉藤りえ(1) (2016/3/23 政治山)

関連ワード : 北区 斉藤里恵 東京 選挙 障がい者 音喜多駿 

政治小説の新境地を開いた人気作家と、政界に新たな息吹を吹き込む若手2議員が鼎談しました。『ハゲタカ』『当確師』など政治経済を扱った作品で名高い人気作家・真山仁さん(53)と、ブロガー都議と呼ばれネット世代を中心に抜群の影響力を持つおときた駿・東京都議(32)、ベストセラー自叙伝『筆談ホステス』で一躍時の人となり現在は東京都北区で区議会議員を務める斉藤りえ区議(32)が、現在の選挙制度の問題点などを語り合いました。

(写真)おときた駿氏(左)、斉藤りえ氏

『当確師』の感想を語るおときた駿・東京都議(左)と斉藤りえ・北区議

現実が小説に追いついて驚いた

おときた
(昨年末に出版された)『当確師』を読んで、聴覚障害がある候補が登場してビックリしました。斉藤さんと共に、聴覚障害のハンデを乗り越えて選挙を戦ったので小説には共感する点が多かったです。
真 山
連載を始めた2012年当時、聴覚障害者が立候補して話題になるような例はなかったはずで、あえてその設定にしました。斉藤さんが立候補し当選されたニュースを聞いて、私も驚きましたが設定の現実感が増したかなと感じました。
おときた

斉藤さんは手話を使えないので文字情報の情報保障(※)でやっていました。斉藤さんの選挙では私が声となり、手足となり二人三脚でやったので、『当確師』の中で手話通訳士とのタッグマッチで戦う設定には共感しました。

(※情報保障とは、情報収集が困難な障害者に対し、代替手段を用いて情報を提供すること)

真 山
『当確師』の紹介をしてくれたおときたさんのブログ記事を拝見しましたよ。実際に選挙の最前線にいる方からの反響も大きくて、嬉しく思っています。

「デモでは民主主義は変わらない」に共感

おときた
『当確師』は自分も選挙スタッフとしてその場にいる事や、ボランティアスタッフとして手伝っているのが想像できて近かったです。私のブログ読者のコメントでは、昨年SEALDsが話題になった事もあり、「デモでは民主主義は変わらない」という言葉に共感したという人が多くて、SEALDsは若者が立ち上がったと注目されましたが、結局お祭り騒ぎで期待外れだったと感じた人は、「やっぱり選挙が大事だ」と思ったようです。
真 山
おっしゃる通りでSEALDsが注目されて、デモ=民主主義という雰囲気になりましたが、デモは単なる運動でしかありません。あれで政治に関心を持った人が、次は選挙を通じてこの国を変えるという気持ちを持ってほしいですね。
(写真)『当確師』著者、真山仁氏

『当確師』著者、真山仁氏

真 山

『当確師』であえて声が出せない候補者を立てたのは、一見不利な状況に置くことで逆に別の声が届かないかなと考えたからです。また、代わりに声を出す人が必ずいるので候補者を2人立てたような設定にする狙いもありました。

ヒロインである黒松幸子候補は、耳が聞こえないことを「ハンデ」とは一度も言いません。彼女自身が、自分の聴覚障害をネガティブに捉えていないという設定にしたのです。ですから、障害者の代表として立候補するという発想はあえて外しました。

斉 藤
私も耳が聞こえませんが、武器にしているわけではありません。私もこれまでいろんな壁にぶつかってきました。私と同じ思いをしている方がいると思うので立候補しました。
真 山
『当確師』の黒松幸子は障害を前面に出さずに立候補しましたが、斉藤さんが読まれて、これはありえないのでは?という違和感はありましたか?
斉 藤
私も障害があることを自分ではアピールしていると思っていなかったのですが、そう思われていることも自覚していたので、それについてどう伝えるかという方法はもっと考えられたかもしれません。自分で意識しなくても、周りからはいろんな見え方があると思います。

政治は一人からしか変わらない

真 山
議員の活動をされてきて、耳が聞こえない事によるやり難さを解消していけるという実感はありますか?
斉 藤
北区議会のなかでも、これまで障害者と触れ合った事がない議員もいて、最初はどうしたらいいか戸惑っているようでしたが、今では議場や会議室のバリアフリーも進んでいる感じで他の議員さんも少しずつ協力してくれています。わからない事を応援してくれたり、委員会で発言したい時に司会をしている委員長が目線で合図をくれたり、細かいところから変わってきてはいます。
真 山
政治は一人からしか変わらないと思っています。斉藤さんが議員として活躍されれば、聴覚障害をお持ちということが注目され、社会や政治が変わるきっかけになると思います。ご自身としては、自分と同じような人がもっと政治の舞台に出てきてほしいと思われますか?
斉 藤
いろんな障害を持った方が政治参加だけではなく、政治家になってほしいと思います。それにより他の議員も障害者のイメージが身近になると思います。障害者の理解が議会から進めば確実に政策に反映されると思います。
おときた

先日、賀詞交換会に招待されたのに、彼女への情報保障が全くなく、何もフォローがありませんでした。話者が原稿を読む場合は事前に文書をいただくなどの配慮はできませんか?と職員に尋ねたら、「公平性の観点からどうのこうの」と言い訳をするのです。

この事をブログで紹介したら商工会の会長が読んでいて、商工会の会合では原稿を事前に渡してくれました。行政よりも民間の方が改革は早いです。

真 山
社会に不満なり不具合なり、越えたい壁がある人こそ政治に関わるべきです。現状に満足している人よりも、目的意識があり、「ここは何とかならないのか」という思いがある人が前面に出ないといけない。困っていて文句をいう人が目の前にいないと、私たちはその不便さを実感できないからです。

(次回へつづく)

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