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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第67回 組織の「関係の質」を上げるオフサイトミーティングのすすめ!! (2017/11/30 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : 一関市 公務員 熊本県 郡山市 

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第67回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

自治体組織の現状と「組織の成功循環モデル」

 今、自治体の現場は難しい状況にある(第64回「地方創生時代に求められる自治体組織のあり方」)。仕事が細分化され自分しか分からない仕事が増え(個業化)、メール文化が定着、ノミニケーションの場の減少により、職場内外での面と向かっての本音の話が少なくなっている。その結果、同じ職場の中でも、お互いがどんな人か分からず、信頼関係が希薄になる。信頼が無いと言い出しっぺが損をすると思ってしまい、何も言わない方が得、仕事は上が決めるもの、どうせ言っても無駄という諦めの雰囲気が生まれる。そうなると、お互いの関わりをほどほどに、波風を立てないようにしようとなり、ますます本音の話が職場でなくなっていく。これが自治体組織で起きている「バッドサイクル」だ。

 マサチューセッツ工科大学のダニエル・キムは「組織の成功循環モデル」、組織が成果を上げ、成功に向かって進んでいくためのモデルとして、「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」のサイクルを唱えている。つまり、組織の結果を上げるには、いきなり成果を求めるのではなく、まずはメンバーの関係の質を上げることがスタートである。関係の質が良くなると、組織で協力し合えば良い方向に向かうという前向きな思考が生まれ、皆で助け合い協力して行動しようとなり、結果的に組織の成果が上がる。

 「関係の質」を高めるとは、「対話(ダイアローグ)」により多様なメンバーの共感や互助の気持ちを醸成することである。「対話」とは、物事に対するお互いの意味付けを確認し合う話し合い、意見、考え方の多様性を認め合う話し合い、参加者の能力の組み合わせにより創造的な成果、創発が生まれる場でもある。

ストーリーテリングを行う郡山市のオフサイトミーティング

ストーリーテリングを行う郡山市のオフサイトミーティング

オフサイトミーティングの進め方

 オフサイトミーティングとは、直訳すると、仕事の現場を離れた場所でのミーティングである。組織の課題や重要案件を、社外に場所を移し、合宿等による特別な環境で集中して会議をすることを指す場合もあるが、ここでは、業務後に職場や組織のメンバー等で、立場や肩書を離れて気楽に真面目な話を指すこととする。そこは、職員同士のつながりができたり、思いの共有が図れたり、新しい発想が生まれたりする場である。組織の活性化の手法として、オフサイトミーティングにより、ダイアローグをベースに組織内の関係の質を高めようとする自治体や企業も増えてきている。

 ダイアローグを取り入れたオフサイトミーティングの進め方、プログラムだが、(1)インスピレーショントーク(情報提供)、(2)ダイアローグ、(3)ハーベステイング(収穫)の大きく3つのラウンドに分かれる。まず冒頭、その日のテーマに合わせて参加者の発想が広がり、想像力が働くためのインスピレーショントークからスタートする。テーマに詳しい人の講演の様な場合もあれば、テーマに関連した情報提供から入る場合もある。ここで、仕事から頭を切り替え、参加者にダイアローグの土俵に上がってもらう。

 次に、そのインスピレーショントークに基づいたダイアローグである。ダイアローグのやり方、方法論には様々ある。2~3人の組になり、テーマに基づき、自らの体験談等のエピソードを踏まえ物語調に伝え、聴き手が掘り下げる「ストーリーテリング」。4~5人の少人数のグループで、カフェにいるようなリラックスした雰囲気の中、席替えをしながら話しを発展させていく「ワールドカフェ」。付箋に意見を書き出し、それを見せ合いながら、似た様な意見をグルーピングし見出しをつけていく「KJ法」等、やり方は、テーマ、参加者、時間等で使い分ければ良い。

 最後に大事なのが、その日のオフサイトミーティングの自分なりの答えを参加者に収穫してもらうハーベステイングである。非日常のオフサイトの場で得た気付きを、オンサイト、日常の仕事に活かすためには欠かせない。5分位の時間をとって感想を紙に整理してもらったり、全員で感想を発表し合ったり、時間の無い場合には、何人かに感想を述べてもらったりと、こちらもやり方は様々ある。

 熊本県庁の職員自主活動グループ「くまもとSMILEネット」(第13回「気づきの連鎖を作り自治体職員のやる気に火をつける」)が2012年に始めた、退職部長と語るオフサイトミーティングは、冒頭の退職部長の挨拶、ワールドカフェによるダイアローグ、最後に参加者の感想共有というプログラムになっている。ダイアローグを通して、先輩職員の豊かな経験が後輩職員に語り継がれる場になっている。退職部長と語るオフサイトミーティングは、長野県伊那市等でも行われている(第16回「ダイアローグにより組織変革のムーブメントを作る」)

「自分についてのダイアローグ」を行う一関市のオフサイトミーティング

「自分についてのダイアローグ」を行う一関市のオフサイトミーティング

オフサイトミーティングで話し合うべきテーマ

 次にオフサイトミーティングのダイアローグのテーマであるが、大きく分けて、「自分についてのダイアローグ」「業務についてのダイアローグ」「未来についてのダイアローグ」の3つが考えられる。

 「自分についてのダイアローグ」とは、趣味や関心事等、それぞれのバックグランドを確認し合うものである。以前であれば、職場の雑談やノミニケーションで話されていた内容であるが、そうした場がめっきり少なくなっている現在では、意図的にオフサイトミーティングで話をする必要性が高いテーマである。「小学校の頃どの様な夢を持っていましたか?」「今、あなたが力を入れて頑張っていることは何ですか?」「今だから言える仕事の失敗談はありますか?」等の問いかけで、4~5人のグループでストーリーテリングするだけでも盛り上がる。また相手に興味を持ち、知ろうとするきっかけにもなる。

「業務についてのダイアローグ」を行う一関市野オフサイトミーティング

「業務についてのダイアローグ」を行う一関市野オフサイトミーティング

 「業務についてのダイアローグ」とは、仕事のやり方について職場内外のメンバーが相互に意見を述べ合う場である。これに適したダイアローグの方法論に「プロアクションカフェ」がある。「プロアクションカフェ」とは、何かのプロジェクトを前進させたい人と、そのプロジェクトを支援したい人が、相互に影響し合いながら、プロジェクトを一歩前に進めていく手法だ。

 ラウンド1では、プロジェクトのオーナーが思いを説明、支援者は質問により思いを探索する。ラウンド2では、支援者は質問を重ね、プロジェクトを実現する上で不足していることを明確にする。ラウンド3では、気付きを行動につなげ、最初に取り組む一歩を確認し合う。福島県郡山市役所で行われたオフサイトミーティングでは、「効果的な朝礼のあり方」をテーマにプロアクションカフェが行われた。また、岩手県一関市役所では、「働き方改革」をテーマにワールドカフェによるオフサイトミーティングが開催されている。

 「未来についてのダイアローグ」とは、役所、地域の未来について、職場のメンバー同士で思いを話す場である。「ありたい姿」「現状」「ありたい姿への打ち手」といった課題解決のフレームを使うと考えやすい。これもやり方は、ワールドカフェ、KJ法等様々考えられる。じっくりただ未来への思いを語り聴き合うだけでも効果はある。

「プロアクションカフェ」を行う郡山市のオフサイトミーティング

「プロアクションカフェ」を行う郡山市のオフサイトミーティング

オフサイトミーティングで「関係の質」を上げよう

 オフサイトミーティングを始めようと考えている自治体職員の一番の悩みは、人が集まるかということだ。しかし、挑戦してみた職員に話を聞くと、テーマを練り、チラシを作り、告知や声掛けをしっかりすれば、意外と参加者は集まったという。課題は、始めることよりも継続することだ。人が場に集まる理由は、楽しいこと、明るいこと、得になること、そして何よりも声掛けする人に徳があることだ。1人で難しければ、グループで取り組み、継続していけばいい。

一関市のオフサイトミーティングのチラシ

一関市のオフサイトミーティングのチラシ

 また、同じ自治体のメンバーだけでのオフサイトミーティングでは、学び気付きに限界がある。それは参加者の多様性が不足しているからだ。「経営学習論」の概念で、「越境学習」という考え方がある。個人の所属する組織の境界を行き来しながら学習し、気付きを得るというものだ。この概念からすると、同じ所属の自治体職員だけではなく、自治体を越えて、また民間企業の社員等も一緒にオフサイトミーティングをやることは面白い。

 自治体組織で起きている「バッドサイクル」を「グッドサイクル」に変える鍵は、組織内のダイアローグだ。地方創生時代、オフサイトミーティングに取り組む自治体が増え、その内容が進化発展していく。その結果、自治体組織の「関係の質」が高まり、地域が活性化していくことを期待したい。

◇        ◇        ◇

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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