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住民の幸福度から見る「より幸せになる地方創生とは?」

第6回 60歳を越えて働き続けると幸福度は上がるの? (2018/3/20 PB地方創生幸福度調査検討委員会 事務局)

 本連載では、PB地方創生幸福度調査検討委員会(事務局 パイプドビッツ パイプド総研)による全国2万人の幸福度調査結果の紹介や、委員会の有識者との対談など、「地方創生」と「幸福度」の関係性を読み解いていきます。

 第6回は、「生涯現役社会と幸福度」テーマに、60歳以上の就労や地域ボランティア活動への参加経験と幸福度について検証していきます。

「生涯現役」ってなに?~「生涯現役社会」と地方創生~

 現在、日本は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えており、平成19年に日本で生まれた子どもが107歳まで生きる確率が50%もあるといわれています(リンダ・グラットン氏(ロンドンビジネススクール教授)の著書『LIFE SHIFT』より)。

 第5回(テーマ:生涯学習)でも触れた、「人生100年時代構想会議」の第1回会議(昨年9月11日開催)において、有識者として出席したリンダ・グラットン氏は、「多くの人々が長生きする社会では、人々がより長い時間働くように奨励しなければならない」としており、高年齢者がより長く働くことを勧めています。

 長寿社会を迎えた日本において、厚生労働省では、健康であり労働意欲がある限り働き続けられる社会を「生涯現役社会」と定義した上で、地域における生涯現役社会の実現に向け、平成28年度より「生涯現役促進地域連携事業」に取り組んでいます。

 この事業は、地域の実情に応じた高年齢者の多様な就業機会を確保することを目的としており、地方自治体を中心に構成される協議会を実施主体に、地域における高年齢者の就労支援に関する事業の実施を支援しています。協議会は、「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定)においても政府が設置を促進しています。

 平成29年度までに29の自治体がこの事業に採択されており、現在、平成30年度の公募が行われています。

60代男性は非正規でも就業すると幸福度が高まる~高年齢者の就業と幸福度~

 では、対象となる高年齢者自身は「生涯現役」に取り組むことで幸福度を上げることができるのでしょうか。まずは、高年齢者の就業と幸福度についてみていきます。

 60歳以上の男女において、正規雇用、非正規雇用、求職中を除いた未就業に分け、年代別に幸福度※を示す(図1)と、正規雇用者の幸福度が未就業者よりも高い傾向にあります。

 また、60代男性は、非正規であったとしても幸福度が未就業者よりも高い傾向にあることが示されています。したがって、60代男性に対して就業しやすい環境を提供することによって、非正規雇用であったとしても幸福度が高まりえることがわかりました。

図1:就業形態別幸福度(性別・60歳以上)

図1:就業形態別幸福度(性別・60歳以上)

※本調査における幸福度は、1~10点(「とても不幸せ」を1点、「とても幸せ」を10点)のうち、自身に当てはまる数字を1つ選んでいただきました。全回答者の平均値は6.65でした。

高年齢者の就業率はいまだ低い~高年齢者の就業率~

 高年齢者は就業することにより、幸福度が高まることが分かりました。しかし、その就業率はいまだ低いようです。

 図2は、60代以上の男女の就業率(正規・非正規含む)を年代別に示したものです。60代後半の就業率は49.31%であり、約半分が就業していますが、70代以上の就業率は25.94%と約1/4しか就業してないことが示されています。

 男女別に分けると、60代後半の男性の60%近く(57.35%)が就業している一方で、女性の就業率は30%程度(28.99%)に留まっています。70代以上に着目すると、男性が29.96%、女性が12.70%に減少しているのが現状です。

 したがって、高年齢者の就業率を上げることで高年齢者自身の幸福度を高められることが明らかとなりました。高年齢者の就業機会の確保を目的としている「生涯現役促進地域連携事業」は、経済面だけでなく高年齢者自身の幸福度を高める効果がある施策であるといえるでしょう。

図2:就業率(性別・60歳以上)

図2:就業率(性別・60歳以上)

地域ボランティアに参加すると幸福度が高まる~高年齢者の地域貢献と幸福度~

 「生涯現役促進地域連携事業」により、高年齢者の就業率が上がれば、高年齢者の幸福度を高めることが期待されますが、現在の就業率を現役世代並みに上げることは、現実的には難しいでしょう。しかしながら、就業しないまでも、地域との関わりにより、高年齢者の幸福度を高めることができます。

 本調査では、地域ボランティアへの従事経験についての設問があり、その回答別に幸福度を算出しました(図3)。

 図3では、高年齢者に着目するため年代を「60代」「70代(以上)」「その他」としていますが、いずれの世代においても、地域ボランティアに従事している人が最も幸福度が高いことが示されています。また、現在の従事に関わらず、過去に経験したことがある人も幸福度実感が高い傾向にあります。したがって、就業という企業への「貢献」ではなく、ボランティアという地域への「貢献」によって幸福度を高めることができることがわかりました。

図3:地域ボランティアへの従事の有無別幸福度(年代別)

図3:地域ボランティアへの従事の有無別幸福度(年代別)

 本調査結果より、高年齢者は就業すると幸福度が高まりやすいことが示されてはいるものの、現状の就業率は低いことが明らかになりました。また、地域ボランティアへ参加することでも幸福度を高められることから、企業や地域の中において、他世代と共に社会に貢献できるという「実感」を持ちながら高年齢者が活躍するような空間を整備することが、これからの課題であることには間違いありません。

 最後に、図4は65歳以上の就業率と幸福度について、都道府県別に分けたものです65歳以上の就業率が低く、幸福度も低い県は、高年齢者の地域貢献を考えつつ、生涯現役促進地域連携事業」へ向けた活動を行うのも良いのかもしれません。

図4:都道府県別就業率と幸福度(65歳以上)

図4:都道府県別就業率と幸福度(65歳以上)

 次回となる第7回は、「地方における働き方」に焦点を当て、就業者の役割・立場(マネージャと部下)や就業形態(時間労働と裁量労働)別に幸福度やモチベーションの違いについて検証していきます。

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■パイプド総研(事務局)
株式会社パイプドビッツにおいて、社会における様々な問題の解決のための政策やICT技術、また関連する先進事例について、社外の専門組織、企業、地方自治体等との協力関係のもと調査研究を進めるとともに、地域や民間組織等具体的な場面での実現・実証を行い、それらの成果を社外に広く発信するために設置している組織です。<パイプド総研とは
■PB地方創生幸福度調査検討委員会(委員長: 政策創造塾塾長/明治学院大学学長特別補佐(戦略担当) 伊藤健二)
パイプド総研で運営している「政策創造塾」において、「地方創生」を幸福度の観点から検証するため、全国2万人以上を対象とした、住民の「幸福度」及び「働き方」「生活意欲」等に関するアンケート調査を実施するために発足した委員会です。リクルートホールディングス、みずほ銀行、NTTデータ経営研究所等の有識者に参加頂き、荒川区、和歌山県に協力頂いています。<委員会メンバー
関連リンク
調査レポート(PB地方創生幸福度調査)
政策創造塾