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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第48回 地方公務員に求められる自らの『学び』の在り方とは (2019/2/14 渋川市保健福祉部健康管理課管理予防係 主幹 小林哲彦)

関連ワード : 人材育成 公務員 渋川市 群馬 

「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

はじめに

 2017年春、私は地元群馬県で私の課題とする「地方公務員の学び」についての研究をスタートさせました。その研究活動にあたり、オフサイト(=非公式活動)を通じて知り合えた、オフィシャル(=公式な)研修として参加した早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(以下、「部会・マネ友」)での出会い、交流、経験を活かしています。そのことは 私の研究活動以外の場面でもかけがえのないものとなっており、感謝を含め、これまでの研究成果を投稿します。

変化が激しい自治体のなかで、公式と非公式の学びが必要

 近年、地方自治体を巡る環境は激変しました。OA(オフィス・オートメーション)化、機関委任事務の廃止、市町村合併、大災害の発生、そして外部要因の変化に伴い生じる新たな政策課題への対応。地方自治体は独自で地域のミライを開発する時代になってきています。

 これに伴い、地方自治体職員に求められる資質、能力も、これまでの「法令や与えられた制度を解釈し事務を執行する能力」から「地方自治体を取り巻く課題を独自かつ個別に解決する能力」へと変化したのです。

 その備えは、対策は万全でしょうか?

 こうした新たな課題を解決するための能力開発、人材の育成が必要ですが、そのためには2つの方法があり、1つは公式=オフィシャルな研修・人材育成、そしてもう1つは非公式=自らの『学び』があります。

 公式(=オフィシャルな)研修・人材育成は行政組織を運営していくうえで必要不可欠なのものです。ただ、ここで強調したいのは、行政組織を支える職員個人のスキルアップ、自己へのモチベーションの維持のために非公式=自らの『学び』が必要だということです。

 事実、こうした取り組みは、茨城県水戸市における「水戸市政策研究会」のように、全国各地で自主研究グループとして誕生し、活動が行われています。そして、こうしたグループの境界を越えた交流が、東北まちづくりオフサイトミーティングのようなネットワーク=オフサイトミーティングとして各地に生まれています。まさに、非公式=自らの『学び』は着実に広がりつつあります。

 今後、公式と非公式が相互に補完しあうシステムへと変化していき、変化していく能力の開発、人材育成をしていくことこそ、これからの地方自治体に求められる姿だと感じています。

「渋川しぶ支部」の朝活

「渋川しぶ支部」の朝活

自らの「学び」はどのように生かされるべきか?

 さて、地方公務員の非公式=自らの『学び』とは何でしょうか?

 わかりやすい言葉では「自己啓発」がこれにあたると思います。自分自身の興味のある分野、事柄、また足りない能力等を自分自身の責任により研究していくものと解釈できます。

 では、その自己啓発=『学び』の結果はどのように活かされていくことが効果的なのでしょうか?

 もちろん自己責任により取り組むものですが、横浜市の『調査季報102』(横浜市企画財政局都市科学研究室編,1989.6)に興味深い記述がありますので次に引用したいと思います。

「研究活動に参加する者にとって自主研究は、自己啓発の手段であるといっても、研究成果が実際の施策等に生かされれば、その喜びもひとしおであり、さらに次の研究活動の励みともなる」

 同じような傾向が、2018年に私が部会参加者等を対象にアンケートした結果にも見て取ることができます。このアンケートで「非公式な自主研修・研究に参加した活動成果を所属する自治体業務や自分自身の業務に活かしたいか」との設問の中で124人中、実に104人の者が「活かしたい・まあ活かしたい」と回答しました。

 これは、自己啓発=個人の『学び』であるとしても、地方公務員としての『学び』である以上、自分の地方自治体の中で活かしたいという、“矜持”だと私は信じています。この矜持を維持し、高めていくためにも首長や政策推進部局の理解が重要だと思います。

 興味深いことに、2018年に北関東3県(茨城県・栃木県・群馬県)の都市の人事所属にアンケート調査し、全58都市中、27都市に回答をいただきました。その中で、「職員の人材育成にあたり、職員の非公式な自主研修・研究は必要だと思うか」との設問に対し、回答数23市中 20市が「必要である・まあ必要である」と回答しています。地方自治体での政策決定や事業化に際し、非公式な活動をどう生かしていくかなど、人事所属との対話はこれからのテーマになるだろうと思います。

 この非公式=自らの『学び』ですが、スタートは個人単位であったとしても、時には抱えるテーマ等により、複数の仲間と取り組むとより効果的な活動となります。

 さて、公式=オフィシャルな研修・人材育成でも、これまでの反省から数々の指摘研究がなされています。山梨学院大学行政研究センター『公務員行政研修のあり方』(第一法規,1991)の中で大森彌先生は次のように述べられています。

「問題は、研修担当係が一体どんな職員を育てたいと考えているかである。研修の内容と実施方法は、その計画を立てる担当職員の発想と器量と情報量によってほぼ決定される。今日においてなお研修のつまらなさ、あるいは空しさは、研修担当職員の非力と無自覚さにその原因。自治体職員研修の改革はまず、その担当職員のあり方を問うことから…」

 これは厳しい指摘である反面、研修担当職員への叱咤激励と捉えることもでき、これをきっかけに公式=オフィシャルな研修・人材育成を考えるうえでも、自主的な『学び』として調査、研究した地方公務員は少なくなかったことでしょう。

渋川市での公式と非公式の活動

 この公式、非公式の2つの流れから、渋川市での活動をご紹介します。

 ひとつには、早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(以下「部会」という)からの流れです。本市の職員研修事業では、従来の知識吸収型偏重を改め、「自ら考えること」を重視する研修方式を試行しています。部会への派遣もこの方針により決定され、1期生の小林寛之君は部会での活動成果を、本市研修プログラムの中にダイアログ=対話の導入等を実践してきております。

1期生の小林寛之さん

1期生の小林寛之さん

 そして、2期生の剣持克洋君、狩野雄平君、下田久和君の3人は新たに「SIMしぶかわ2033」を構築し、公式=オフィシャルな研修・人材育成としての職員研修プログラムとして実施しました。

 部会の学びは、公式の派遣ではありますが、自主的な活動や学びを促すことも多く、非公式=自らの『学び』の面が大きいものです。

 これらは、公式=オフィシャルな研修・人材育成に、新たな人材育成の手法を外の経験の非公式=自らの『学び』により導入した例と捉えることができます。

 また、非公式=自らの『学び』ですが、オフサイト・自主研として活動5年目を迎えた渋川市役所職員自主研修グループ「渋川しぶ支部(しぶしぶ)」があります。ベーシックとなる活動は月イチの「朝活」で、メンバーは独自のフィールドとネットワークをもっており、その時々に各自の活動報告、情報の共有、オススメ書籍の語り合いなどの時間を共有しています。特にこの「しぶしぶ」発足当初より運営の核を若手職員が担っており、オフサイトならではの経験から非公式=自らの『学び』を得ています。

 こうした公式=オフィシャルな研修・人材育成、非公式=自らの『学び』の重なり合いとして、群馬県でのマネ友ネットワーク「(仮称)マネ友ぐんま」を群馬県のマネ友との対話を通じ2月23日に開催する方向で準備を進めています。

2期生

2期生

私が描く、地方公務員のミライ

 これからの地方自治体に求められるものとして、公式(=オフィシャルな研修・人材育成)と非公式(=自らの『学び』)のシステム化をあげ、そのためにも地方公務員には自らの非公式=自らの『学び』が求められていると述べました。

 そもそも、非公式=自らの『学び』のきっかけとは何でしょうか?

 それは日々の生活の中にある、課題、危機感だと私は思います。それをどのように見つけ、共有するかだと思います。

 私の非公式=自らの『学び』のきっかけは、全国各地で広がりつつある非公式=自らの『学び』を実践する仲間とのネットワーク活動の中で出会った方々との交流で感じた「活躍する人たちの活動する理由は何だろう?」というちょっとした疑問でした。そして「活動の成果を今後どのように活かすのだろう」と思いました。そして「これを渋川市で活かすにはどうしたらよいだろうか?」と考えました。この思いは、私の活動エリアが広がり、多くの人と出会う中で、さらに大きなものとなっていきました。

 幸いにもこのことは多くの仲間と共有できるようになりました。この仲間とお互いの持ち味を活かしてこれからもその課題を意識し、私の非公式=自らの『学び』として持ち続け、時には実践しつつ、探求しつづけていきます。

 私にとっての『学び』とは渋川市のミライを築いていくために必要な私の拠り所です。そのためにこれからも『学び』続けます。

渋川市保健福祉部健康管理課管理予防係 主幹 小林哲彦さん

渋川市保健福祉部健康管理課管理予防係 主幹 小林哲彦さん

 そうそう、私は自らの非公式=自らの『学び』の中で、全国各地の自主研修グループ、オフサイトミーティングに参加することがあります。その際には、北関東3県の地方公務員が熱愛する『紙芝居』を私の『学び』のひとつとして持参し、上演の機会をそっと窺っています。各会場において、ご観賞いただければ幸いです。

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安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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